早期トリネガ乳がんの再発予測に血中循環腫瘍DNA

ctDNA陰性であれば予後良好な可能性も

血中循環腫瘍DNA(ctDNA)の検出が、早期のトリプルネガティブ乳がんで術前化学療法後に手術を受けた女性の再発リスク予測に役立つ可能性がある。このデータは2019年12月10日~14日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

「残存腫瘍のあるトリプルネガティブ乳がん患者は、再発リスクが特に高いことがわかっています。新たな治療法や技術は差し迫った課題であり、再発リスクを予測できる技術もそのひとつです」と本研究の上級著者であり、インディアナ大学医学部内科および遺伝医学/分子遺伝学(Medical and Molecular Genetics)部門の教授であるBryan P. Schneider医師はいう。

血漿(血液)から検出する腫瘍DNAであるctDNAは、がんの発見や、治療の方針決定、寛解中の患者の経過観察に用いる手段として研究が進められている。

ctDNAの検出はがんの存在を示すシグナルとなり得る。

「トリプルネガティブ乳がんの患者は、手術の後、がんが再発するのではないかという不安を抱えながら、一定の経過観察期間を過ごします」と本研究の筆頭著者であるインディアナ大学医学部外科および遺伝医学/分子遺伝学(Medical and Molecular Genetics)部門准教授のMilan Radovich博士はいう。

「トリプルネガティブ乳がんでは術後の再発率が特に高いことがわかっています。このサブタイプと診断された患者にとって、ctDNAは再発を予測して最善のケアを見つける助けとなるかもしれない強力なツールです」。

反対に、ctDNAが検出されなかった患者の予後は良好であり、この患者群で術後療法の省略を検討する臨床試験への道が拓かれる可能性がある、とインディアナ大学メルヴィン&ブレン・サイモンがんセンターおよびヴェラ・ブラッドリー財団乳がん研究センター(Vera Bradley Foundation Center for Breast Cancer Research)の研究者である著者らは述べている。

今回の研究では、BRE12-158試験の登録患者から採取した血漿試料を分析している。BRE12-158試験は、トリプルネガティブ乳がん患者の術前化学療法後に、ゲノムに基づく治療と医師が選択した治療を実施して比較するものであり、196人の女性が登録された。このうち142人のctDNAが、本研究でリキッドバイオプシー検査のFoundationOne Liquidを用いて配列決定された。

変異したctDNAは、患者の63%にあたる90人から検出された。

最も高頻度に変異がみられた遺伝子はTP53であり、乳がんとの関連が知られる他の遺伝子がそれに続いた。

17.2カ月の追跡時点で、ctDNAの検出と無遠隔転移生存(DDFS)不良との有意な関連がみられた。

ctDNAが検出された患者(ctDNA陽性)の無遠隔転移生存期間の中央値は32.5カ月であり、ctDNAが検出されなかった患者(ctDNA陰性)は中央値に到達しなかった。

24カ月時点での無遠隔転移生存率は、ctDNA陽性患者で56%、ctDNA陰性患者で81%であった。

多変量解析では、残存腫瘍量、腫瘍の大きさ、グレードとステージ、年齢、人種などの因子で調整した後も、ctDNA検出とDDFS不良に独立した関連が認められた。

全体で、ctDNA陽性患者の遠隔再発率はctDNA陰性患者の3倍であった。

ctDNAの検出は全生存の不良にも関連していた。ctDNA陽性患者は死亡リスクがctDNA陰性患者の4.1倍であった。

「本研究では、術前補助化学療法後にctDNAが検出されたトリプルネガティブ乳がん患者の再発リスクが高いことが確認されました。この結果を受けて、ctDNA陽性患者を対象に新たな再発予防手段を検討する次の臨床試験が計画されるかもしれません」とSchneider医師は述べている。

著者らによると、2020年に開始予定の臨床試験では、再発リスクの高い患者の治療の指針として、ctDNAがもつ可能性をさらに検討するとのことである。

また、シーケンシング技術が急速に進歩しており、今後さらに感度と特異度が向上することも期待される。

本研究の限界について、Schneider医師とRadovich博士は、現時点でまだ追跡期間の途中であり、今後の解析によって結果が変化する可能性があることを挙げている。

本研究は、ヴェラ・ブラッドリー乳がん財団とインディアナ大学のGrand Challenge Precision Health Initiativeの研究助成を受けている。

また、試験はHoosier Cancer Research Networkによって管理され、米国全土で26の医療機関が登録されている。

著者らは利益相反はないと宣言している。

翻訳担当者 佐復純子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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