トラスツズマブ併用化学療法にペルツズマブ追加が一部乳がんに有効

トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)併用化学療法にペルツズマブ(販売名:パージェタ)を追加すると手術可能なHER2陽性早期乳がん患者の臨床的有用性が継続することがAPHINITY試験最新データで示される

術後に従来の標準治療であるトラスツズマブと化学療法の併用にペルツズマブを追加するとHER2陽性早期乳がん患者の再発および死亡リスクの低下が継続することが、6年におよぶAPHINITY試験の解析から得たデータにより明らかになった。この結果は、12月10日から14日に開催された2019年サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)にて発表された。

現時点で、生存率の改善は統計的に有意ではないが、ペルツズマブの治療を受けた患者の死亡はほとんど見られなかった。

「術後化学療法にトラスツズマブを追加することでHER2陽性早期乳がん患者の治療結果に革命的な変化をもたらしているが、今でも患者のおよそ30%は再発し、その場合、効果的な治療法はあるものの治癒は望めない」とBreast International Groupの共同創設者でブリュッセルのジュール・ボルデ研究所(Institut Jules Bordet)の Scientific Director であるMartine Piccart医学博士は語った。「この治療レジメンに別の補完的HER2阻害剤であるペルツズマブを追加することにより、この患者集団が再発したり病気が進行したりするリスクをさらに低下できればと願っている」。

手術可能なHER2陽性早期乳がん患者について、トラスツズマブ併用の標準的な術後化学療法にペルツズマブを追加する群またはプラセボを追加する群を比較する第3 相APHINITY試験の結果がすでに報告されている。その試験結果により、ペルツズマブの治療を受けた患者はプラセボの患者と比較して推定3年無浸潤がん生存期間(IDFS:ランダム化から再発または死亡まで期間)が改善したことが明らかになった(プラセボが93.2%に対しペルツズマブが94.1%)。ペルツズマブ追加により再発の相対リスクが19%低下し、これは統計的に有意である。以前解析した2つの群の全生存率(OS)に有意差はなかった。今回の試験で6年時点のOSの中間分析およびIDFSと心毒性の最新の記述的解析が報告されている。

2011年11月から2013年8月の間、APHINITY試験でペルツズマブ群に2,400人、プラセボ群に2,405人が無作為に割り付けられた。最新の生存(OS)分析のデータカットオフは2019年7月19日で、追跡期間の中央値74.1か月に相当する。

6年におよぶ追跡後、Piccart博士と同僚はIDFSの記述的解析で全患者集団のうちペルツズマブ群はプラセボ群と比較して乳がん再発または死亡の相対リスクが24%減少したことを明らかにした。

以前の解析結果と同様、Piccart博士と同僚は、リンパ節に転移したがん患者は標準治療にペルツズマブを追加することにより臨床効果が継続していることを明らかにした。6年時点の最新の解析で研究者たちはリンパ節陽性疾患患者のうちプラセボ群のIDFSが83.4%に対しペルツズマブ群のIDFSは87.9%であることを明らかにし、4.5%改善したことを示している。術後にトラスツズマブと化学療法の併用にペルツズマブを追加すると、このコホートの再発の相対リスクは28%低下となる。

この最新の解析で、ペルツズマブ群で主要心関連事象がさらに一つ報告され、各群で副次的心関連事象がさらに一つ報告されたが、心毒性の懸念は新たに発生していないとPiccart博士は言及した。「主要心関連事象の発生率は両群とも1%に満たず(ペルツズマブ群が0.8%に対しプラセボ群は0.3%)、トラスツズマブと化学療法にペルツズマブを追加することは長期的に安全であるというエビデンスが示された」とPiccart博士は語った。

この中間解析によって、従来の標準治療にペルツズマブを追加するとHER2陽性早期乳がんの患者の再発のリスクを低下させるというエビデンスはさらに確かなものになった、とPiccart博士は語った。「まとめると、ペルツズマブは乳がんに対して高い効果があり追加の有意な有害事象がないことが示され、その臨床的有用性は乳がん再発リスクの高い女性に対する術後治療においてさらに重要である。」

「ペルツズマブで治療を受けた患者の死亡はほとんど見られないが、私たちのデータは未だ不十分で全生存率の最終的な改善を示していないということがAPHINITYの主な弱みである。有意な生存効果を確認するためには、さらに長期の追跡が必要である」とPiccart博士は語った。次回の中間解析は2022年を予定している。

生物試料と大規模試験で収集した臨床データを用いた進行中の研究により、特にリンパ節転移がないために再発リスクが低いと考えられている患者の中で、ペルツズマブの恩恵を受ける可能性がある患者の特徴を絞り込むことが可能となるだろう」とPiccart博士は付け加えた。

本試験はRoche社による支援によるものである。

Piccart博士はRoche社の化学諮問委員会のコンサルタントを務め、同社より謝礼を受けている。さらに、Piccart博士はAstraZeneca社、Camel-IDS社、Crescendo Biologics社、Debiopharm社、G1 Therapeutics社、Huya Bioscience International社、Immunomedics社、Eli Lilly社、The Menarini Group社、Merck社、Novartis社、Odonate Therapeutics社、PeriphaGen社、Pfizer社およびSeattle Genetics社の諮問委員会のコンサルタントである。Piccart博士はOncolytics社およびRadius社の化学諮問員会メンバーである。

Piccart博士の研究所はEli Lilly社、Merck社、Pfizer社、Radius Health社、Roche/Genentech社、AstraZeneca社、Novartis社、Servier Pharmaceuticals社およびSynthon Pharmaceuticals社より資金を受けている。

翻訳担当者 松長愛美

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎ノ門病院)

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