術前アテゾリズマブ併用療法はトリネガ乳がんの完全奏効率(pCR)を改善せず

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者に対する術前化学療法への抗プログラム細胞死リガンド1(PD-L1)免疫療法薬アテゾリズマブ(販売名:テセントリク)の追加は、化学療法単独と比較して病理学的完全奏効率(pCR)を改善しなかった。このNeoTRIPaPDL1試験の中間結果が、12月10~14日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

「トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は再発率が高く悪性度の高い乳がんです」と、Fondazione Michelangelo(ミラノ)代表者Luca Gianni医師は言う。 「現在、初期TNBCの唯一の治療法は化学療法です。化学療法は一部の患者に有効である一方で、再発と化学療法に対する耐性は、良好な初回治療効果の後でも多くみられます」。

本試験でGianni氏らは、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬アテゾリズマブ追加による効果を検証した。「TNBC腫瘍には、リンパ球という免疫細胞がしばしば集まっています」と、Gianni氏は説明した。 「化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の併用で、抗腫瘍免疫反応が促進される可能性があると推論しました」。化学療法薬ナブパクリタキセル(販売名:アブラキサン)との併用によるアテゾリズマブは、局所進行または転移がある一部のTNBC患者の治療を目的として、現在、米国食品医薬品局(FDA)および欧州医薬品庁(EMA)に承認されている。

本試験には、18歳以上で早期の高リスク局所進行もしくは炎症性TNBC女性患者280人が登録され、カルボプラチンおよびナブパクリタキセルによる術前化学療法にアテゾリズマブを併用する群と、2剤による術前化学療法のみを投与する群に無作為に割り付けられた 。現在も進行中の本試験の主な目的は、5年無イベント生存率を特定することである。副次的な目的は病理学的完全奏効率(pCR)を特定することであり、これは長期的転帰の優れた予測因子となり得るとGianni氏は述べた。

Gianni氏らは、病理学的完全奏効(pCR)に関するデータを報告した。治療対象群において、術前化学療法へのアテゾリズマブの約6カ月間追加は、術前化学療法単独と比べて、病理学的完全奏効率がわずかに高いことが分かった(43.5%対40.8%)。しかし、その差は統計学的に有意ではなかった。PD-L1に対し陽性を示す腫瘍患者において、病理学的完全奏効(pCR)を示した割合は、化学療法+アテゾリズマブ群で51.9%であったのに対して、化学療法単独群では48.0%であったが、この差も有意ではなかった。

「調査結果は、術前化学療法へのアテゾリマブ追加は化学療法単独と比べて治療上の利点がないことを示唆しているかもしれません。もしくは、併用によるいかなる効用も長期間かけて現れるということを単に意味している可能性もあります」と、Gianni氏は述べた。「病理学的完全奏効(pCR)は奏効の質に関する情報を示すものではないため、本試験では主要エンドポイントとしませんでした。さらなる分析により、治療群間で奏効の質の違いが明らかになる可能性もあります」。

術前治療前、治療中、および治療後に患者から採取した生体サンプルで、リンパ球浸潤、遺伝子変異、循環する腫瘍遺伝子レベルについて検査し、それにより治療群間の違いが明らかになるかもしれないとGianni氏は説明した。

Gianni氏らは、登録患者の大部分においてアテゾリズマブが良好な忍容性を示すことも報告した。あらゆるグレードの免疫関連有害事象が患者の約8%で見られた。インフュージョンリアクションは最も多く見られる免疫関連有害事象であり、インフュージョンリアクションの約1.4%はグレード3以上であった。

本試験の限界は、報告結果が併用療法の初期効果に限定されており、術後に施される治療効果を説明していないことである。

本試験は、ロシュおよびCelgene社から資金提供を受けている。Gianni氏は、ADC Therapeutics社、AstraZeneca社、Celgene社、イーライリリー、G1 Therapeutics社、Genentech社、Genomic Health社、MSD社、Oncolytics Biotech社、Odonate Therapeutics社、Onkaido Therapeutics社、ロシュ、ファイザー、大鵬薬品、Sandoz社、Seattle Genetics社、Synthon 社、およびZymeworks社の顧問を務めている。Gianni氏はForty Seven Inc.社、Genenta Science社、METIS Precision Medicine社、ノバルティス、Odonate Therapeutics社、Revolution Medicines社、Synaffix社、およびZymeworks社のコンサルタントを務めている。Gianni氏はZymeworks社、第一三共、Revolution Medicines社から研究助成を受けている。Gianni氏は、抗HER2療法におけるPD-L1発現に関する特許の共同開発者である。

翻訳担当者 水町美和

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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