HER2抗体薬物複合体T-DXdは、T-DM1他治療歴のある乳がんに有望
治験中のHER2標的抗体薬物複合体(ADC)である[Fam-] トラスツズマブ‐deruxtecan(T-DXd:トラスツズマブ デルクステカン)は、トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)(販売名:カドサイラ)や他のHER2標的薬剤による濃厚な治療歴のあるHER2陽性乳がん患者に対し、持続的奏効が 認められた。このことは第2相臨床試験であるDESTINY Breast 01試験の結果としてサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019:12月10~14日開催)にて発表された。
本試験のデータは、New England Journal of Medicine誌で同時公開されている。
「トラスツズマブ(販売名:ハーセプチン)、ペルツズマブ(販売名:パージェタ)、およびT-DM1などのHER2指向型治療により、HER2陽性の進行期乳がん患者の転帰は改善しました。しかし、これらの薬剤に対する耐性の発現はまず避けられないうえ、耐性が生じた患者に対しての明確な標準治療はありません」と、ダナファーバーがん研究所 乳腺腫瘍学部門 の副主任であるIan Krop医学博士は述べ、 「ですから、そのような患者のための進化した新規治療法が必要とされているのは確実です」と加えた。
T-DXd抗体は、T-DM1と同様にHER2を標的とするモノクローナル抗体だが、T-DM1が微小管阻害剤の結合薬物複合体であるのに対し、T-DXdはトポイソメラーゼ1阻害剤を結合させた薬剤である。T-DXdは8分子の結合薬物を搭載しており、これはT-DM1の2倍量だとKrop医師は解説している。
先の第1相試験で発表されたデータによると、T-DM1治療歴のある進行期HER2陽性乳がん患者に対し、T-DXdは59%の奏効率をもたらし、10月、米国食品医薬品局(FDA)は、T-DXdの優先審査を許可した。
第2相試験では、Krop医師ら研究者はT-DM1治療歴のある転移HER2陽性乳がん患者253人を登録した。本試験は3パート(1、2a、2b)あり、全体で184人の患者に第2相試験推奨用量5.4 mg/kg でT-DXdを投与した。進行していたため患者がそれまでに受けた治療数の中央値は、HER2を標的とする治療法も含めて6治療であった。
第2相試験推奨用量の投与を受けた患者184人の奏効率は60.9%で、完全奏効率6%、部分奏効率54.9%であった。無増悪生存期間の中央値は16.4カ月であった。
「有効性に関するこれらの数値はいずれも、治療歴があり転移があるHER2陽性乳がん患者に関する他のどの研究の数値よりもかなり高いものです」とKrop医師は述べた。
患者184人の病勢コントロール率は97%であった。 「この結果は、このがん患者集団の大部分に少なくともある程度の本剤に対する感受性があるだろうことを示唆しています」とKrop医師は指摘し、 「この結果と一致して、T-DXdの奏効率は、腫瘍ホルモン受容体の状態、ペルツズマブでの前治療、および脳転移歴とはほとんど関係がないようです」と述べた。
患者の99%で治療に起因する有害事象を発現した。グレード3以上の治療に起因する有害事象は57% で、好中球数減少、悪心、貧血、リンパ球数減少、および倦怠感が認められた。また、患者の15%が治療に起因する有害事象のために治療を中止した。
間質性肺疾患が25人の患者で認められた。 「間質性肺疾患はT-DXdの投与を受けた患者にとって深刻な懸念事項です」とKrop医師は述べ、続けて 「発症例は主にグレード1または2でしたが、残念ながら本試験で4例のグレード5の間質性肺疾患関連死亡(2.2%)が発生しました。このようにT-DXdには 毒性の可能性があるので、間質性肺疾患の早期発見のために徴候や症状の注意深いモニタリングが推奨されます。間質性肺疾患が疑われる場合、高分解能CT、呼吸器科医の診察、肺機能検査、その他の検査を評価で行う必要があります。 T-DXd誘発性間質性肺疾患の治療に関するデータは限られていますが、診断された場合は、投与の中断とグルココルチコイドによる迅速な介入が推奨されます」と述べた。
Krop医師は、「T-DM1および他の薬剤での治療中にがんが進行した患者に対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd )は高い持続的奏効率を示すことから、本薬剤はこのような患者集団の新たな治療選択肢となる可能性があります」と加えた。
本試験の限界として、単一群試験であったため、試験のデータからT-DXdが他の治療法よりも効果があるかどうかを判断できないことがある。
本試験およびKrop医師が受けた助成金は以下のとおりである。
The study was sponsored by Daiichi Sankyo Inc. and AstraZeneca. Krop received grant support and research support from Genentech/Roche and Pfizer; personal fees from Daiichi Sankyo, Macrogenics, AstraZeneca, and Genentech/Roche.
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