術後内分泌療法へのS-1追加でルミナル乳がんの転帰が改善
術後における経口フッ化ピリミジン系薬剤であるS-1とホルモン療法 の併用によって、ホルモン受容体(HR)陽性HER2陰性乳がん患者における浸潤性疾患のない生存期間(iDFS)が有意に延長され、5年iDFS推定値が改善された。この第3相試験の結果は、12月10日から14日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2019)で発表された。
「乳がんの全身療法は顕著に進歩しているものの、多くの乳がん患者では依然として疾患再発がみられます」と、京都大学病院乳腺外科学教授・戸井雅和氏は述べている。
HR陽性HER2陰性乳がんは、ルミナル乳がんとも呼ばれ、乳がん症例の約67%も占める最も一般的な乳がんのタイプである。この種類の乳がん患者は内分泌療法を受けることが多いが、この療法はさまざまな方法で作用して、ホルモンががん増殖を活性化するのを防ぐ。この乳がんタイプでは5年相対生存率は良好であるが、治療の数年後に疾患再発リスクがあると戸井氏は述べる。「再発リスクがあるため、ホルモン療法と併用する新たな術後療法の特定に関心が寄せられています」。
S-1は、DNAの合成および細胞分裂を阻害する5-フルオロウラシルのプロドラッグであるテガフールと、テガフールの活性を促進するギメラシル、消化管毒性を抑制するオテラシルで構成される配合剤である。過去の研究では、テガフールとホルモン療法の併用により、抗腫瘍効果が改善することが示されている。
戸井氏らは本試験で、患者に術後ホルモン療法とS-1を併用したときの有効性を検討した。本試験では再発リスク中等度以上、ステージ1~3のHR陽性HER2陰性乳がん患者1,939人が最大の解析対象集団に組み入れられた。本試験の患者は日本国内139施設から参加した。患者は、術後療法としてS-1とホルモン療法の併用を受けるS-1群、またはホルモン療法のみを受ける対照群のいずれかに無作為に割り付けられた。
治療後の追跡期間中央値は51.4カ月で、対照群の患者973人のうち155人に疾患再発(iDFSイベント)が認められたのに対し、S-1群では患者957人のうち101人であった(S-1群:10.6%、対照群:15.9%)。5年iDFSの推定値は対照群で81.6%に対し、S-1群では86.9%であった。
「HR陽性HER2陰性乳がん患者において、術後療法でS-1と標準ホルモン療法を併用することで、iDFSイベントの発現を有意に減少させることができ、5年iDFS推定値を改善させることが明らかになりました」と、戸井氏は述べている。
また、戸井氏によるとS-1による治療は忍容性が良好でコントロール可能であった。S-1による治療で認められた主な有害事象は、好中球数減少などの骨髄抑制の徴候、悪心や下痢などの消化管毒性、色素沈着過剰症、疲労であった。
「本試験の結果により、再発リスクが中等度以上であるHR陽性HER2陰性乳がん患者の術後療法として標準ホルモン療法とS-1の併用が支持されます」と、戸井氏は述べている。
本試験の制約としては、組み込まれた患者が日本人患者のみであること、毒性プロファイルがアジア人患者と非アジア人患者との間で若干異なることがあげられると、戸井氏は説明した。
本試験は、財団法人パブリックヘルスリサーチセンターの臨床研究支援事業および大鵬薬品工業から資金提供を受けている。戸井氏は協和キリン、ブリストル・マイヤーズスクイブ、第一三共、Genomic Health社、およびコニカミノルタの顧問を務めた。また、戸井氏は大鵬薬品、中外製薬、武田薬品、ファイザー、協和キリン、エーザイ、第一三共、アストラゼネカ、イーライリリー、Genomic Health社、ノバルティスファーマ、コニカミノルタ、および島津製作所から謝礼を、大鵬薬品、協和キリン、アストラゼネカ、島津製作所、AFIテクノロジーおよびアステラス製薬から研究助成金を、中外製薬、ファイザー、日本化薬、テルモ、一般社団法人JBCRG、京都乳癌研究ネットワークから追加資金を受けている。
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