乳がん再発スコアの高い女性では化学療法が有益

最も一般的な早期乳がんを有し、かつオンコタイプDX(Oncotype DX)検査が高スコアの女性は術後ホルモン療法に加えて化学療法の併用治療を受けることで優れた長期成績につながる可能性がある。このことは、NCIが資金提供をしたTAILORx臨床試験の新たなデータ解析でわかった。

ホルモン受容体陽性、HER2陰性、リンパ節非転移の乳がん患者の治療を決める目安としてのオンコタイプDX検査の有用性について、1万人の患者での臨床試験を調査した。この診断は米国におけるすべての乳がんの年間発症数の半分を占める。

オンコタイプDX検査は個々の女性のがん再発リスクを0~100にスコア化して分類するのに用いられる。

TAILORx試験参加者のうち、オンコタイプDX検査の再発スコアが高値(26以上)の女性を術後に化学療法+ホルモン療法併用治療群に割り付けた。新たな解析によると、5年経過時点で同群のうち推定で96%の女性が生存していた。

「本解析は、再発スコアが26〜100の女性には化学療法を実施するべきという標準推奨事項を裏づけています」と、Larissa Korde医師(NCIがん治療・診断部門乳がん治療学部長)は述べた。同部門は今回の研究資金を援助している。「化学療法を受けた患者は予後良好であり、そうした患者に対する有益な化学療法の選択肢が幅広いことを本研究は示しています」。

また、研究者は、高再発リスク群女性がホルモン療法単独治療を受けたと仮定して予後はどのようになっていたのか、統計モデルを用いて推定した。

この比較では、化学療法とホルモン併用療法を受けた女性では、乳がんが遠隔部位で再発する可能性が、ホルモン療法のみを受けたと仮定して予測される再発可能性よりも低いことがわかった。

 画期的な試験の新たな解析
TAILORx試験は2006年に開始され、ECOG-ACRINがん研究グループと呼ばれる団体により設計、主導されている。同試験の目的は、患者の腫瘍中の21種類の遺伝子発現を評価して再発リスクスコアを算定するオンコタイプDX検査が、早期乳がん女性に対し最も適切で有益な術後補助療法を決定する上で有用かどうかを調べることであった。

過去の試験データに基づき、TAILORx試験では低リスクスコア(0~10)の女性は術後にホルモン療法単独で治療を受け、再発リスクスコアが26以上の女性は化学療法とホルモン療法の併用治療を受けた。中間リスクスコア(11~25)の女性は過去のデータが少なく、本試験参加者の多数を占めているが、この中間リスク群の女性をホルモン療法単独またはホルモン療法+化学療法併用のいずれかに無作為に割り付けた。

2018年に発表されたTAILORx試験結果では、中間リスク群女性の大半はホルモン療法に化学療法を追加しても治療の利益がなかったことが示された。研究責任者であるJoseph A. Sparano医師(アルバート・アインシュタインがんセンター)は当時、検査結果から不要な治療を免れる女性もいることが裏づけられたと述べた。

 化学療法の利益を予測する
 9月30日にJAMA Oncology誌で発表された新しい解析では、研究者らはホルモン療法に化学療法を加えた併用治療群に割り付けられた高再発スコアの女性の予後を確認しようとした。

TAILORx試験に参加した高再発スコア女性1,389人分のデータを解析すると、5年経過時点で、原発腫瘍近位、または脳や肝臓など身体の他の部位に再発が認められなかった女性が90%以上、その時点で生存していた女性は95.9%であったと研究者らは推定した。

解析結果は、どの化学療法レジメンを選択するかは予後に影響しないとみられることも示した。試験参加女性を治療する臨床医らは数種類の化学療法レジメンから一つを選択することが可能であった。最も一般的なレジメンはタキサン系+シクロホスファミド(42%)、アントラサイクリン単独タキサン非併用(24%)、およびアントラサイクリン+タキサン系(18%)であった。5年後、ホルモン療法との併用で上記のいずれのレジメンで治療を受けた場合でも、女性患者が再発を免れる割合は類似していた。

治療に用いる一般的なレジメンの多くが、研究で同等に奏効するのであれば、良い治療選択肢が臨床医に多く与えられることになる、とKorde医師は述べた。さらに、この知見および解析全体は安心感を与えるので歓迎されるとも言う。

「こうした大規模試験によって、われわれの長年にわたる仮説や治療決定が裏づけられるのは、常に素晴らしいことです」と同氏は述べた。「患者と話す際に、非常に優れた最新データがあるのは、この治療法を実施した場合にわれわれが予想する予後を説明するために、大いに役に立ちます」。

ホルモン療法単独で予想される予後を推測する
試験参加者のうち再発スコアの高い女性はすべて化学療法とホルモン療法の併用治療を受けるように割り付けたため、ホルモン療法単独のみの治療を受けた同様のスコアの女性の予後と比較することは不可能であった。したがって、高再発スコアの女性がホルモン療法の単独治療を受けた場合の予後を研究者らは統計学的手法を用いて予測した。

その統計学的手法とは、TAILORx試験の再発データと過去の試験解析で得た化学療法有効性データを組み合わせたものである。

「過去の試験解析にみられた治療効果を採用してこの集団に当てはめて、女性らがホルモン療法だけを受けていた場合に予後はどうだったか推測しました」とSparano医師は述べた。

この統計学的手法を用いて、ホルモン療法の単独治療を受けた女性の78.8%は5年経過時点で再発していないであろうと研究者らは推測した。

「この比較はランダム化試験に代わるものではありませんが、この患者群における化学療法の利益は非常に明確であるため、この特定集団でランダム化試験を実施することは不可能です」とSparano医師は説明した。「化学療法が再発スコア26〜100の患者にどのような利益があるのかについて、この解析はより適正な評価を行います」。

さらに、高再発スコア女性は化学療法を受けたにもかかわらず、ホルモン療法単独治療を受けた中間スコアの女性よりも予後不良であった、と同氏は付け加えた。「しかしながら、これらの患者がホルモン療法を単独で受けていたと仮定した場合に比べれば、予後は格段に良好であることがわかります」。

「この解析の大きな長所の一つは、高再発スコア患者を対象に実施した史上最大規模の前向き研究であり、臨床医が用いた化学療法は臨床現場を反映しています」と同氏は付け加えた。

 治療決定に更に必要な詳細情報
再発スコアが、ちょうど26前後の早期乳がん女性に関して、TAILORx試験データは治療決定に有用であるとKorde医師は述べた。

「どのレベルで治療法に対する数値を区切るのか選択することが意味を持つことを、これらのデータは非常に強力なエビデンスで示しています。しかしながら、すべての患者に関して言うと、化学療法を継続するかどうかの決定は、個々の患者の状態によります」とKorde医師は述べた。「再発スコア28の患者の中には、やむを得ない理由で化学療法を受けない人がいる可能性があります。また非常に若い閉経前女性で、26に近い低スコアの人が存在する可能性もあり、本試験のデータでは、そうした女性に対する化学療法の利益は小さいであろうと示唆されています」。

「常に微妙なニュアンスを含んだ会話になります」と同氏は続けた。「適切に計画された研究から得る結果が多いほど、そのニュアンスを念頭に置きながら、患者に対する、より良いカウンセリングが実施可能であると考えます」。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 辻村信一(獣医学/農学博士、メディカルライター)

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