放射線治療への反応と再発を予測するATM、BRCA遺伝子マーカーを特定
ASCOの見解
「放射線治療への反応と治療後再発の可能性を予測するために遺伝子シグネチャを使用すると、個々の患者の予後についての理解が深まり、最終的に治療の種類、時期、および強度を変更して、個々の患者の生存および生活の質を改善できます。これは個別化医療に似ています。しかし、実際に遺伝子シグネチャを臨床で使用するには、より大きな集団でより多くの研究が必要になるでしょう」とASCOの専門家であるメリー・ジェニファー・マーカム医師(米国内科学会特別会員)は述べた。
遺伝情報は、放射線治療に反応する可能性が高い患者を特定し、放射線治療後の再発が起きやすいかどうかを予測するのに役立つ。 これにより、臨床医は個々の患者に合わせて治療戦略を変え、望ましくない副作用を最小限に抑えながら効果を高めることができるであろう。2019年10月11〜13日にバンコクで開催されるオンコロジー・イノベーターのためのグローバルサミットのASCOブレークスルーで発表される2つの研究の知見を紹介する。
遺伝子解析は放射線治療への反応と関連のある遺伝子変異を特定する
これらの研究の冒頭で研究者らは、がんの放射線治療の良好な反応性に関連すると思われるATM(Ataxia-telangiectasia–Mutated)遺伝子の変異を特定した。放射線治療の恩恵を最も受けられる患者を予測することで、疾患の治療への反応性を高め、生存期間を延長できるであろう。さらに、放射線治療のリスクが利益を上回る可能性が高い患者を特定できると、不必要な副作用とコストの排除につながる。
研究者らは、前向きに収集された放射線治療のレジストリで患者の全ゲノムスクリーニング結果を調査した。134人の患者のうち、ATM(11人)とBRCA 1/2(22人)遺伝子変異を有する33人を特定した。放射線治療に対する反応性について、背景をほぼ一致させた変異のない患者集団(がんの組織型が類似し、受けた放射線量も近似)と比較した場合、ATM遺伝子の変異は、完全奏功率(ATM突然変異ありで50%に対し、突然変異なしで8%)、全奏効率(61%対24%)、および標的病巣の局所制御率(94%対58%)の高さと関連していた。 完全奏効率は、病巣の消失を意味し、全奏効率は完全奏効と部分奏効を含む。局所制御率は、原発腫瘍および近傍のリンパ節転移の消失を含む。 さらに、ATM変異患者の治療への反応期間はより長かった(中央値11カ月対3カ月)。
「放射線はDNA鎖を損傷することで作用する。 したがって、機能を失ったDNA損傷修復遺伝子は、腫瘍を放射線治療へ感受性の高い細胞として認識する可能性がある。 すなわち、われわれの研究は、ATM遺伝子(DNA損傷修復遺伝子)が、突然変異の情報に基づいた放射線治療への感受性と関連する新規のマーカーとして機能する可能性を示した。これは、将来の個別化医療に利用できる可能性がある」と著者のYonseiがんセンターのジェイソン・ジョーン・ボック・リー医師は述べた。
遺伝子シグネチャは乳がん患者の放射線治療後の再発時期を予測できる可能性がある
2番目の研究では、乳がん患者の放射線治療後の早期または後期の再発を予測するのに役立つ遺伝子パターンが特定された。 再発の時期を予測できれば、治療戦略を変更および改善し、必要なフォローアップ期間を決定できる可能性がある。
研究者らは、以前に乳がん患者の放射線治療への反応に関連する遺伝子シグネチャを特定していた。 さらに、放射線治療と乳房温存手術を受けた2つの患者コホートからデータを使用した調査へと研究を拡げた。一方の集団(119人)で再発時期と遺伝子発現とを相関させたモデルを構築し、もう一方の集団(112人)でモデルを検証した。 結果のシグネチャには41遺伝子が含まれていた。 検証の結果、早期再発と後期再発を正確に識別するシグネチャの感度は75%、特異度は100%だった。
「経験的に、最初の3年以内に再発した乳がん女性は、乳がんによる死亡率がはるかに高いなど、著しく予後が悪い。もし進行の速い早期再発の前にこれらの患者を特定することができれば、われわれはこれらの患者をより効果的に治療することができる」と、ミシガン大学の放射線腫瘍学の助教であり、筆頭著者であるコーリー・スピアーズ医学博士は述べた。
次のステップ
「この研究は新しい情報を含んでいるが、臨床応用するには時期尚早である。前向き臨床試験での検証が必要である」とスピアーズ氏は述べている。
この研究は、乳がん研究財団(BCRF)によって資金提供された。 スピアーズ博士は、ASCO がん撲滅財団から2015年 若手研究者賞を受賞している。
読者向けに医師が承認したCancer.Netの情報は以下である。
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2019年ASCO ブレークスルーグローバルサミット:プレゼンテーションインフォメーション
ポスターセッションB:治療的介入と治療
2019/10/12 土曜日 午前11:30-午後1:30(インドシナ時間
2019/10/12 土曜日 午後5:45-午後6:45(インドシナ時間)
センタラグランドアットセントラルワールド、コンベンションセンターB1
ジェイソン・ジューン・ボック・リー医師
韓国 ソウル ウルサン大学医学部
アブストラクト130:ゲノム解析により、DNA修復におけるATM遺伝子の体細胞変異が、放射線治療に対して卓越した標的病巣反応をもたらすことが明らかに
著者:Authors: Jason Joon Bock Lee, Andrew Jihoon Yang, Jee Suk Chang, Han Sang Kim, Hong In Yoon, Sang Joon Shin, Yong Bae Kim, Woong Sub Koom, Joong Bae Ahn; University of Ulsan, College of Medicine, Seoul, South Korea; Yonsei Cancer Center, Seoul, South Korea; Department of Radiation Oncology, Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, South Korea; Yonse Cancer Senter, Seoul, South Korea; Division of Medical Oncology, Department of Internal Medicine, Yonsei University College of Medicine, Seoul, South Korea; Department of Radiation Oncology, Yonsei University College of Medicine, Seoul, South Korea; Yonsei University College of Medicine, Seoul, South Korea; Department of Internal Medicine, Cancer Metastasis Research Center, Yonsei Cancer Center, Yonsei University College of Medicine, Seoul, South Korea
背景:DNA修復に関与する遺伝子の体細胞変異(例えば、ATMおよびBRCA1 / 2)は、化学療法抵抗性および予後不良をもたらす一方で、放射線治療に対する感受性を高める可能性がある。本研究では、このような変異を有する患者は放射線治療への反応性がより高い可能性があるという仮説を立てた。
方法:前向きに収集された放射線治療レジストリを用いて、2013年から2019年の間に肉眼で確認できた病巣に対する放射線治療とNGSパネルスクリーニングの両方を受けた患者を特定した(27,664人)。134人の患者のコホートから、ATMまたはBRCA 1/2に体細胞変異を有する33人の患者と、放射線量および組織型に基づく傾向スコアが一致した変異のない33人の患者を特定した。
結果:90個の肉眼的病変を有する66人の患者(ATM変異が11人、BRCA 1/2突然変異が22人)で照射野内奏効率を評価した。腫瘍サイズと放射線量の中央値は、それぞれ24 mm(3〜140)と40 Gy(12〜66)であった。ATM変異によって、標的病巣での照射野内完全奏効率、全奏効率、局所制御率に著しい違いが見られた(突然変異ありと突然変異なしでそれぞれ、 50%と8%、61%と24%、94%と58%、P <.05)。反応期間は、ATM変異ありの患者でより長い結果であった(中央値で11カ月に対して3カ月、P = .001)。ただし、放射線治療関連の毒性の発現率は変わらず(17%と11%、P = .515)、重篤な毒性は発現しなかった。
結論:ATM変異は、放射線治療に対する予想外の反応をもたらし、緩和的な線量であっても、治療的意義を有する可能性がある。
開示情報:Jason Joon Bock Lee医師、DiNonA社の社員
研究資金提供:なし
2019年ASCO ブレークスルーグローバルサミット:プレゼンテーションインフォメーション
ポスターセッションB:治療的介入と治療
2019/10/12 土曜日 午前11:30-午後1:30(インドシナ時間)
2019/10/12 土曜日 午後5:45-午後6:45(インドシナ時間)
センタラグランドアットセントラルワールド、コンベンションセンターB1
Corey Wayne Speers医師
ミシガン大学病院 アンアーバー ミシガン州
アブストラクト112:早期または晩期再発を予測可能な乳がん放射線治療(RT)後のシグネチャは、進行の速い早期再発の生物学的特徴に関する情報を与える可能性がある
著者: Corey Wayne Speers, S. Laura Chang, Benjamin Chandler, Andrea Pesch, Anna Michmerhuizen, Kari Wilder-Romans, Shyam Nyati, Lori J. Pierce; University of Michigan Hospital, Ann Arbor, MI; University of Michigan, Ann Arbor, MI
背景:乳がん治療における臨床的ニーズには、標準的な局所療法や再発に関して生物学的な理解がされているにもかかわらず、局所制御不良のリスクの高い患者が特定できていないということがあげられる。われわれは以前に放射線治療への反応性シグネチャについて報告したが、今回はこの研究を進め、放射線治療後の再発時期を予測するシグネチャについて取り上げる。
方法:2つの独立した患者コホートをモデル構築(119人)と検証(112人)として用いた。すべての患者は、必要に応じて乳房温存手術(BCS)および全身ホルモン療法/化学療法後に放射線治療を受けた。遺伝子発現と再発時期を相関させるスピアマンのランク相関を、特徴選択として用いた。重要な遺伝子を使い、検証前に固定した線形モデルを作った。コックス回帰は、単変量解析(UVA)および多変量解析(MVA)の両方に用いられた。
結果:スピアマンの相関により、再発期間(3年以上/未満)と有意に関連する485個の遺伝子が特定された。リストを絞り込み、シグネチャ内の41個の遺伝子とした。モデル構築では、スコアと再発時期の相関は0.85、p値<1.3×10-31であり、AUC では0.91だった。独立した乳がん検証群において、早期再発と後期再発の患者が正確に識別された(相関= 0.75、p値= 0.001、AUC = 0.92、感度= 0.75、特異度= 1.0、陽性的中率[PPV]= 1.0、陰性的中率[NPV] = 0.8) 。乳がん固有のサブタイプと局所再発時期に、唯一の関連性が見つかった。単変量解析および多変量解析で、シグネチャは再発に関連する最も重要な因子として残った。シグネチャ内に保持された41個の遺伝子のGSEA解析により、早期再発に関連する増殖とEGFRの概念、および後期再発に関連するルミナールおよびERシグナル伝達経路が特定された。早期および後期再発に関連する遺伝子の不活化は、それぞれ増殖および自己複製生存に対する新たな効果を示した。
結論:われわれは、術後放射線治療に反応する可能性が低い患者の特定に有用となる可能性のある乳がん遺伝子発現シグネチャについて報告した。この結果は、再発のタイミングを予測するために用いられるかもしれない。さらには放射線治療を施行する乳がん女性において治療の強度およびフォローアップ期間にも影響を与える可能性がある。
開示情報:Corey Wayne Speers医師はPFS Genomics社の株式およびその他の所有権、Laura Chang博士はPFS Genomics社の社員及び株式およびその他の所有権、Lori J. Pierce医師はPFS Genomics社の社員及び株式およびその他の所有権
研究資金:乳がん研究財団
原文掲載日
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