化学療法併用ハーセプチンが早期ステージ乳癌患者の無病生存期間を改善

米国国立がん研究所(NCI)

HerceptinR Combined With Chemotherapy Improves Disease-Free Survival for Patients With Early-Stage Breast Cancer(Posted: 04/25/2005 更新:10/24/2005) -Her2陽性侵潤性乳癌患者の2つの大規模無作為試験の結果、ハーセプチン (trastuzumab) と化学療法を併用した早期乳癌患者は、trastuzumabなしで化学療法を受けた患者に比べ、再発リスクが大幅に低下した。


HER-2陽性の浸潤性乳癌患者における2つの大規模無作為臨床試験の結果によると、化学療法と併用してハーセプチンR(トラスツズマブ)の投与を受けた早期乳癌患者では、トラスツズマブなしで同じ化学療法のみを受けた患者と比較して乳癌再発の危険率が有意に低下していました。患者は、癌細胞がその表面にあるHER-2と呼ばれているたんぱく質を「過剰発現」すなわち、たくさん作りすぎている場合に「HER-2陽性」とみなされます。トラスツズマブはこれらの細胞の成長を遅らせたり抑止したりし、HER-2蛋白を過剰発現する癌の治療にのみ用いられます。乳癌のうちおよそ20%がHER-2を過剰発現します。この場合の腫瘍は、HER-2を過剰生産しない腫瘍よりも速く成長する傾向があり、概して再発する可能性が高くなります。

本臨床試験は国立癌研究所(NCI)、国立衛生研究所(NIH)の一部の後援で、National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project(NSABP)およびNorth Central Cancer Treatment Group (NCCTG) の指揮の下、the Cancer and Leukemia Group B, the Eastern Cooperative Oncology Group, およびthe Southwest Oncology Groupとの協力で研究者のネットワークにより実施されました。トラスツズマブを製造しているカリフォルニア州南サンフランシスコのGenentech社が、NCIとのトラスツズマブの臨床試験に関する研究開発協力契約(Cooperative Research and Development Agreement, CRADA)のもと、臨床試験用の薬剤を提供しました。

今回の臨床試験 (NSABP-B-31およびNCCTG-N9831)*の複合解析を監視したデータモニタリング委員会は、化学療法を併用してトラスツズマブ投与を受けた患者において主要評価項目である無病生存期間(癌の再発なく患者が生きる期間)の延長という項目が満たされたという理由により、最新の複合中間解析結果を公表することを2005年4月時点で推奨しました。化学療法とトラスツズマブの併用投与を受けた患者において全般生存率も統計学的に有意に改善していました。試験の結果は、2005年10月20日のNew England Journal of Medicine**において、詳細も併せて報告されています。

臨床試験においてトラスツズマブを標準的化学療法と併用して受けた患者は、化学療法単独の患者と比較して再発率が52%減少していました。この相違は統計学的に非常に有意なものといえます。NCI部長のAndrew C. von Eschenbach医師は、「これは何万人もの乳癌患者の方たちにとって大きな進歩です。」と述べ、さらに「これらの結果は、癌による苦しみや死をなくすためのターゲット療法の用い方において大きな転機を迎えていることを示すひとつの例であるといえるでしょう。」と付け加えました。

本試験の指導者達は、結果の重大性を強調し、共同努力があったことに言及しました。フロリダ州ジャクソンビルのメイヨークリニック癌専門医であり今回のNCCTG臨床試験を指揮したEdith A. Perez医師は、「今回の成果により、HER-2を過剰発現する癌細胞の再発に対して今や非常に強力な武器を持っているということが確かなものとなりました。私たちは協力してくれた治験担当医師たちの貢献に感謝します。 また、もっとも重要な事なのですが、今回のような前例のない結果を得るのを手助けしてくださった私たちの勇気ある患者の皆さんに感謝いたします。」と、述べました。

NSABPの試験代表者ケンタッキー州レキシントンのケンタッキー大学腫瘍学教授のEdward Romond 医師は、「このタイプの侵襲性乳癌患者にとって、化学療法に加えてトラスツズマブを用いると、予後を好ましくないものから良いものへと事実上変換しているようなものなのです。」と述べました。

Jo Anne Zujewski医師はNCIのCancer Therapy Evaluation Programのための乳癌臨床試験を監視しているのですが、「これらは重大な疾病において本当に生命を救う結果なのですが、追加の追跡調査が実施中であり、これにより本薬剤の長期安全性と有効性を判断することができるでしょう。」と述べました。

本試験から得られた明確な所見には以下のようなものがありました。

追跡期間の中央値である2年経過時において、コントロール群においては261事象(癌の再発、二次原発癌、あるいは再発前の死亡、のような事象)があったのに対し、トラスツズマブ投与群では133事象であった

3年経過時点での無病生存率が、トラスツズマブ投与群では87.1%、コントロール群では75.4%であった。4年時点では、それぞれの割合はトラスツズマブ群では85.3%であったのに対し、標準的化学療法群では67.1%であった。

特定の化学療法と併用してトラスツズマブ投与を受けている患者では、死亡の危険性が33%減少した。

これらの試験に組み入れられた3,300例をこえる症例から得られた情報が解析に用いられました。腫瘍細胞がHER-2を過剰発現している手術可能な乳癌患者が2000年2月から2005年4月までの間に今回の試験に組入れられました。患者は、ドキソルビシンとシクロフォスファミドによる化学療法に続いてパクリタキセル投与を受ける群、またはドキソルビシンとシクロフォスファミドに続いてパクリタキセルとトラスツズマブの投与を受ける群に偶然により割り付けられました。ほとんどの症例は乳癌と関連のある腋窩(腋の下)リンパ節陽性で、リンパ節陰性の症例はごく少数でした。リンパ節との関連のない症例における情報が限られていましたので、このグループだけを単独で解析することはできませんでした。

今回の試験で用いた化学療法には1%未満の確率で鬱血性心不全(心筋を弱める)の危険性があります。今回の試験では、化学療法とトラスツズマブの併用を受けた患者において鬱血性心不全の可能性が3%から4%上昇しました。B-31臨床試験における心毒性は、トラスツズマブ投与群では4.1%であったのに対して、標準的化学療法群では0.8%であった。N9831臨床試験における心毒性は、トラスツズマブ投与群では2.9%であったのに対して、標準的化学療法群では0.0%であった。これらの試験に参加した症例については、さらに生じた副作用についても追跡調査を続けて行います。

トラスツズマブは標的治療、すなわち、癌細胞の特定の変化に対して直接働きかける薬剤の一例です。トラスツズマブは1998年に進行性乳癌治療薬として承認されています。

2005年にはアメリカ合衆国においておよそ211,240例が乳癌と診断されると推定されています。このうち約30%がリンパ節陽性乳癌、またそのうちの約20%の腫瘍が、トラスツズマブがターゲットとするHER-2蛋白を過剰発現していると考えられます。アメリカでは乳癌は女性でもっとも診断数が多い癌であり、女性における癌に関連した死亡原因の2番目に多いものとなっています。アメリカ合衆国では2005年には40,110人の女性が乳癌で死亡すると推定され、これは国内の女性のすべての癌関連死亡数のおよそ15%に上ります。

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癌に関するより詳細な情報は、NCIのホームページ http://www.cancer.gov をご覧いただくか、またはNCIの癌情報サービス 1-800-4CANCER (1-800-422-6237)までお電話ください。

*NSABP-B-31:HER2蛋白を過剰発現しているリンパ節陽性乳癌患者におけるドキソルビシンとシクロフォスファミドに続いて投与するパクリタキセルと併用のトラスツズマブ(ハーセプチン)の有無に関する第III相無作為試験

NCCTG-N9831:HER-2蛋白を過剰発現しているリンパ節陽性または高リスクリンパ節陰性乳癌患者におけるドキソルビシンとシクロフォスファミドに続いて投与するパクリタキセルと併用のトラスツズマブ(ハーセプチン)の有無に関する第III相無作為試験

** Romond EH, Perez EA, et al. 手術可能なHER2陽性乳癌に対するトラスツズマブと化学療法  NEJM, Vol. 353. No. 16, pp. 1673-1684.

(しげどん 訳・平 栄(放射線腫瘍科) 監修 )

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