内分泌療法+リボシクリブによる一次治療は、閉経前の進行乳がん生存率を有意に改善

ASCOの見解
「閉経前女性患者の進行乳がんは、非常に悪性度が高いことがあります。分子標的薬により同疾患を有する若年女性患者の生存率が有意に改善することは重要であり、励みになります」と米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門員のHarold J. Burstein医師(医学博士)は述べた。

国際ランダム化第3相臨床試験であるMONALEESA-7試験で、リボシクリブを標準治療の内分泌療法に追加することで、進行HR陽性HER2陰性乳がんを有する閉経前女性患者の全生存期間が、内分泌療法単独よりも有意に改善された。追跡調査42カ月後、生存率は併用療法を受けた女性患者で70%であったのに対し、内分泌療法単独の女性患者では46%であった。進行乳がんは20~59歳女性のがんによる死亡の主因となっている[1]。

本試験は本日の記者会見で取り上げられ、2019年ASCO年次総会で発表される。

「本試験は、進行乳がんに一次治療として内分泌治療と併用する分子標的治療のなかで、生存率を改善させることを示す初めての試験です」と本試験の筆頭著者であるSara A. Hurvitz医師(カリフォルニア州ロサンゼルスにあるUCLAジョンソン総合がんセンター・乳がん臨床研究プログラム、ディレクター)は述べた。「初回治療としてのリボシクリブ投与により、全生存期間が有意に延長しました。これはこの恐ろしい疾患を有する女性患者にとって朗報です」。

進行乳がんは、閉経前女性患者では高齢の女性患者と比べて少ないが、発症率は上昇している。米国では20~39歳女性において、進行乳がんの発症率が1978~2008年の間に年間2%上昇している[2」。

リボシクリブは、がん細胞を促進する酵素であるサイクリン依存性キナーゼ4および6(CDK4/6)の働きを阻害する治療薬である。2018年7月、米国食品医薬品局(FDA)は、ホルモン受容体(HR)陽性かつHER2陰性の進行/転移性乳がんを有する閉経前または閉経期の女性を対象としてリボシクリブをアロマターゼ阻害薬との併用で適応拡大した[3]。

本試験について
MONALEESA-7試験は、進行乳がんがあり、それに対する内分泌療法を受けたことがない59歳以下の閉経前女性に対象を絞った初の試験である。

研究者らは女性患者をリボシクリブ(錠剤)投与群、プラセボ錠剤投与群のいずれかにランダムに割り付けた。全女性患者はエストロゲンを抑制する内分泌療法薬であるゴセレリン(注射液)の投与と、以下の3薬剤のうち1剤の投与も受けた。エストロゲン産生を低下させる非ステロイド性アロマターゼ阻害薬であるレトロゾール(Femara)またはアナストロゾール(Arimidex)、もしくは40年以上乳がん治療に用いられており乳房組織内のエストロゲンの影響を阻害するタモキシフェンの3剤である。

女性患者672人が本試験に登録された。追跡調査期間中央値34.6カ月経過時点で、173人(26%)が依然として治療を受けており、そのうち116人(35%)がリボシクリブ、57人(17%)がプラセボの投与を受けている。

重要な知見
リボシクリブを投与された女性患者の無増悪生存期間中央値は23.8カ月であったのに対し、プラセボを投与された女性患者では13カ月であった。4 研究者らが観察したところによると、42カ月の追跡調査期間の後、リボシクリブ+内分泌療法薬投与を受けた患者の生存率は70%であったのに対し、プラセボ+内分泌療法薬投与を受けた患者では46%であった。全体的にみて、死亡リスクの29%相対的低下となる。

さらに、生存率はリボシクリブとタモキシフェンの併用投与を受けた女性患者で71%、リボシクリブと非ステロイド性アロマターゼ阻害薬の併用投与を受けた女性患者で70%であったのに対し、プラセボとタモキシフェンの併用投与を受けた女性患者で55%、プラセボと非ステロイド性アロマターゼ阻害薬の併用投与を受けた女性患者では43%であった。

次のステップ
現在、患者報告アウトカムの解析と臨床データのサブ解析を行っている。その中には、リボシクリブがもっとも奏効すると思われる女性の特定に役立つバイオマーカーや循環腫瘍DNAの研究が含まれる。

HR陽性かつHER2陰性の早期乳がんの女性患者および男性患者に対する、内分泌療法薬と他のがん治療薬と併せたリボシクリブの使用を研究している。

本試験はノバルティス社からの助成を受けた。

研究の焦点: HR陽性HER 陰性の進行乳がんを有する閉経前女性患者に対するCDK4/6阻害薬
 試験の種類: 第3相ランダム化臨床試験
 試験患者数: 672人
 試験した治療法:リボシクリブ

主な結果
リボシクリブの投与を受けた女性患者の無増悪生存期間中央値が23.8カ月であったのに対し、プラセボの投与を受けた女性患者では13カ月であった。

副次的な結果
治療42カ月経過後、リボシクリブの投与を受けた女性患者の生存率が70.2%であったのに対し、プラセボの投与を受けた女性患者では46%であった。

1 Siegel RL, Miller KD, et al. Cancer statistics, 2018. CA: A Cancer Journal for Clinicians. Vol. 68, No. 1. January/February 2018. Table 9.
2 Johnson RH, Chien FL, et al. Incidence of breast cancer with distant involvement among women in the United States, 1976 to 2009. JAMA. 2013;309:800–5.
3 U.S. Food and Drug Administration: FDA expands ribociclib indication in HR-positive, HER2-negative advanced or metastatic breast cancer.
www.fda.gov/Drugs/InformationOnDrugs/ApprovedDrugs/ucm613803.htm
4 Tripathy D, Im SA, et al. Lancet Oncol. 2018;19:904-915

翻訳担当者 太田奈津美

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライトの画像

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト

ESMOアジア会議2024は、アジア地域における集学的腫瘍学に特化した年次イベントである。新しい治療法、特定のがん種の管理に関する詳細な議論、アジア全域を対象とした臨床試験、アジア地域...
喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのかの画像

喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのか

放射線治療は基本的ながん治療のひとつであり、乳がんを含むさまざまながん種での治療に用いられている。 
放射線治療は、放射線(通常はX線)を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を破壊...
がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害の画像

がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害

エストロゲンは、その受容体を持つ乳がん細胞の増殖を促進することが知られているが、デュークがん研究所による新たな研究では、エストロゲンが、他のがんと同様に、受容体を持たない乳がんにおいて...
乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd+イミフィンジが効果改善の画像

乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd+イミフィンジが効果改善

早期乳がんに対し、抗体薬物複合体Dato-DXdと免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブの術前併用療法が有用である可能性がI-SPY 2.2試験で示された。乳がんは、米国およ...