バランスのよい低脂肪食は閉経後女性の乳がん死亡リスクを軽減

ASCOの見解

「この研究は、食習慣によって乳がんによる死亡リスクに違いが生じることを示している。近年多くの研究で健康的な食習慣がもたらす効果が複数のがん種において発表されており、今回の研究もまた同様に、健康的な食事にはマイナス面がなく、プラス面のみがあることが明らかにされた」とASCO会長であるMonica M. Bertagnolli医師(FACS、FASCO)は述べた。

乳がんの既往歴のない約49,000人の閉経後女性を対象とした、連邦政府により資金提供を受けた「女性の健康イニシアチブ」(Women’s Health Initiative:WHI)の食事療法臨床試験の結果、果物、野菜、穀物を毎日摂取する低脂肪でバランスの取れた食事療法を行った女性は、全体的に高脂肪の通常の食事を続けた対照群の女性よりも、乳がんによる死亡リスクが21%低かった。これは、食事療法が乳がんによる死亡リスクを軽減させることを示した最初の大規模なランダム化比較試験である。この研究はシカゴで開催される2019年ASCO年次総会で発表される予定である。

本研究の筆頭著者であり、カリフォルニア州トーランスにあるハーバーUCLA 医療センター・ロサンゼルス生物医学研究所のRowan Chlebowski医師(医学博士、FASCO)は、次のように述べる。「私たちの研究は、健康的な食事が乳がんによる死亡リスクを軽減することを証明した最初のランダム化比較試験です。私たちが考案したバランスの取れた食事療法は極端に難しいものではありません。そして20年近く追跡調査を行った結果、健康上の利益がまだ生じていることがわかりました」。

食事と栄養は、今日のアメリカにおいて増加し続ける複雑な医学的課題である肥満という問題の一部に過ぎない。肥満の発生率は過去数十年間で劇的に増加しており、もし現在の傾向が今後20年間にわたって継続するならば、肥満によって米国ではがん患者が毎年50万人以上増加すると推定される(1)。さらに、大多数のアメリカ人は肥満ががんのリスク因子であることに依然として気づいていない(2)。このため、ASCOは「がんの発生率と転帰に対する肥満の影響の軽減」を最優先研究課題の一つに指定した(3)。今回のWHIの調査結果は、特に減量介入を検証しているわけではないが、この複雑な問題とがんによる死亡率の軽減における食事の役割について、われわれの理解を深めるのに役立つ。

研究について
1993年に開始されたWHIは、閉経後の女性における心臓病、乳がん、大腸がんおよび骨粗鬆症性骨折の予防法を考察する、一連の進行中のランダム化比較試験である。

本研究では、乳がんの既往歴がない50~79歳の閉経後女性48,835人を登録したWHI食事療法試験から得られた結果を分析した。1993年から1998年まで、対象者は無作為に、毎日のカロリー摂取のうち脂肪が32%以上を占める通常の食事群、毎日の食事で野菜、果物、穀物を1回以上摂取するとともに脂肪摂取をカロリー摂取量の20%以下に減らすことを目標とした食事群のいずれかに割りあてられた。バランスの取れた低脂肪食事療法群の女性はおよそ8.5年間食事療法を遵守した。研究者らは介入期間終了後もこれらの女性全員を追跡し、何らかの原因で死亡したのか乳がんで死亡したのかを確認した。

主な結果
 バランスの取れた低脂肪食事療法群のほとんどの女性は、毎日の脂肪摂取量を25%以下に減らし(大多数は目標である20%までは減らせなかった)、果物、野菜、穀物の摂取量を増やすことに成功した。研究者によると、バランスの取れた食事を維持した患者は、平均3%の体重減少があったが、体重減少は死亡リスクに影響しなかった。

これまでのところ、この試験は参加者の追跡期間中央値が19.6年で、1993年から2013年の間に3,374人が乳がんと診断された。

全体として、介入群の女性は、通常食事群の女性と比較して、短期および長期間にわたるさまざまな健康上の利益を経験している。

・乳がん診断後の何らかの原因による死亡:バランスの取れた低脂肪食群では、乳がんの診断後、何らかの原因による死亡リスクが15%軽減した。

・乳がんによる死亡:バランスの取れた低脂肪食群では、乳がんによる死亡リスクが21%軽減した。

研究者らはまた、糖尿病や高血圧などの不良代謝因子を有する女性を対象とした同じ食事療法に関する研究も行っている(ASCO 2019 Abstract 1539)。米国では今日、500万人の女性が代謝機能不良であり、代謝機能が正常な女性よりも乳がんで死亡するリスクが3倍になるといわれている(4)。Chlebowski博士は、バランスの取れた低脂肪食を摂取する人が増えれば、米国における乳がんによる死亡者数の大幅な低下につながるとした。また病気予防は健康全般に良いだけでなく、発生したがんを治療するよりもはるかに費用がかからないため、この食事療法は結果的に医療費の大幅な削減につながる可能性があると指摘した。

次の段階
 研究者たちは試験参加時に女性から血液サンプルを採取してきた。さまざまな血液バイオマーカーに基づいて女性の健康状態を追跡できるように、今後も定期的に採取し続ける予定である。

この研究は、米国国立衛生研究所からの資金援助を受けた。

試験結果概要

研究の焦点

バランスの取れた低脂肪の食事と、果物、野菜、穀物の毎日摂取を合わせた女性の乳がんによる死亡の減少

試験デザイン

食事療法介入のランダム化試験

参加者数

50~79歳の閉経後女性48,835人

検証した食事療法

果物、野菜、穀物の摂取量の増加とともに、脂肪からのカロリー摂取を20%以下にすることを目標とした低脂肪食

主要な結果

脂肪からのカロリー摂取が32%以上である女性と比較して、バランスの取れた低脂肪食を摂取した女性の乳がんによる死亡リスクは21%軽減

副次的な結果

脂肪からカロリー摂取が32%以上の女性と比較して、バランスの取れた低脂肪食を摂取した女性の乳がん診断後の何らかの原因による死亡リスクが15%軽減

参考文献

1 National Cancer Institute: Take action to decrease your cancer risk: Obesity and its role in cancer health disparities. https://www.cancer.gov/about-nci/organization/crchd/blog/2015/nmhm15-spo…

2 ASCO: ASCO 2018 Cancer Opinion Survey. https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/research…

3 ASCO: Nine Research Priorities to Accelerate Progress Against Cancer. https://www.asco.org/research-progress/reports-studies/clinical-cancer-a…

4 Gathirua-Mwangi WG, Monahan PO, et al. Metabolic Syndrome and Total Cancer Mortality in the Third National Health and Nutrition Examination Survey. Cancer Causes Control. 2017 Feb; 28(2): 127–136.

翻訳担当者 中野駿介

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

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原文掲載日 

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