手術はHER2陽性ステージ4乳がん患者の生存率改善に関連

保険受給対象外の患者は手術を受ける割合が低く、転帰格差が生じている

HER2陽性(HER2+)ステージ4乳がん患者において、手術を受けた患者は手術を受けていない患者と比べて生存率が高かったという研究結果が、3月29日から4月3日開催の米国癌学会(AACR)年次総会2019で発表された。

新たに診断されたステージ4乳がん患者の20〜30%はHER2陽性であると、本研究の筆頭著者Ross Mudgway氏(カリフォルニア大学リバーサイド校医学部生)は説明する。このタイプの乳がんはかつて予後不良であったが、近年、トラスツズマブ(ハーセプチン)などの分子標的療法の進歩により生存率が改善している。

近年、HER2陽性乳がん患者の大半が全身療法を受けており、全身療法には化学療法、分子標的療法、ホルモン療法があるとMudgway氏は説明する。これらの患者に手術が行われることもあるが、手術で生存率が改善するかどうかについて、これまでの研究での結果はまちまちであったと言う。

Mudgway氏と上級著者Sharon Lum医師(Loma Linda 医療大学外科、外科腫瘍科教授、ブレストヘルスセンター医長)の説明によると、2000年代初頭以降、HER2状態は大規模な登録データセットに記録されているが、このタイプの乳がんに及ぼす手術の効果は、さまざまな病院システムにわたって十分に記録されているとは言えない。原発腫瘍切除がHER2陽性ステージ4乳がん患者の生存率に及ぼす影響を評価するために、2010年から2012年までの全米がんデータベースの記録を用いて、この疾患を有する女性3,231人を対象とした後ろ向きコホート研究が実施された。

これらの女性のうち89.4%は化学療法または分子標的療法の治療歴、37.7%は内分泌療法の治療歴、31.8%は放射線療法の治療歴があった。全体で1,130人の女性(35%)が手術を受けた。

研究の結果、大多数が全身療法も受けていたとすると、手術が生存率の44%上昇に関連していることがわかった。

「本研究から、標準的なHER2標的薬および他の補助化学療法に加えて、ステージ4のHER2 陽性乳がんの場合には、原発乳房腫瘍を切除する手術を検討すべきであると示唆されます」とLum氏は述べた。

本研究では、手術を受けることに関わる要因も検証した結果、メディケア受給資格があるか民間保険に加入している女性は、メディケイド受給資格があるか民間保険に加入していない女性と比べて手術を受ける割合が高く、この病気で死亡する可能性が低いことが判明した。また、白人女性は非ヒスパニック系黒人女性に比べて手術を受ける割合が高く、がんで死亡する可能性が低いこともわかった。

「これらの結果は、人種や社会経済的要因による医療格差を示唆しており、対策を講じなければなりません」とMudgway氏は述べる。

手術を勧めるかどうか医師が決定する際には、併存疾患、他の治療法への反応、全般的平均余命など、多くの要因が判断材料になると思われるが、今回の知見は他のすべての要因に絡めて考慮に入れるべきであるとMudgway氏とLum氏は言う。

「患者にとって、乳房手術、特に乳房切除術を受けるという決断は、心身の健康に影響を及ぼすため、人生を変えるほどの決心となることもよくあります」「手術を受けたいかどうかの患者本人の気持ちを考慮しなければなりません」と、Mudgway氏は続けた。

Lum氏は、本研究は後ろ向き研究であり、手術を受けるかどうかの決定に直面している女性の状況を完全に反映しているわけではないかもしれないと述べた。例えば、医師がもっとも積極的に手術をしようとするのは、全体的に健康状態がより良好なために好結果が得られる見込みが高い女性であるとも考えられるという。本研究によって示唆された生存利益を確認するためにさらに研究を進める必要があろう。

本研究はLoma Linda大学外科が資金調達した。著者らは利益相反がないことを宣言する。

翻訳担当者 山田登志子

監修 田原梨絵(乳腺科/乳腺腫瘍内科)

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