CDK4/6阻害剤耐性メカニズムを解明、耐性は可逆的に消失しうる

比較的新しい乳がんの治療薬CDK4/6阻害薬に対し、乳がん細胞は、細胞周期タンパク質の一種であるCDK6を大量に産生することで耐性を獲得し、さらにエキソソームという担体分子を通じて他のがん細胞にも耐性を獲得させることが新研究で明らかになった。

この薬剤耐性獲得のメカニズムはダナファーバーがん研究所の研究者が特定したものであるが、非常にめずらしい機序であり、実験室研究では可逆的である可能性が示唆されているという。CDK4/6阻害薬であるパルボシクリブに耐性を獲得した乳がん細胞は、パルボシクリブを投与しないいわゆる休薬期間を数週間設けることで再び感受性となる、と研究者はCell Reports誌の記事で述べている。

パルボシクリブ(イブランス)、リボシクリブ(キスカリ)、アベマシクリブ(ベージニオ)などのCD4/6阻害薬は、細胞分裂を制御する細胞周期タンパク質キナーゼのCDK4とCDK6を阻害することによりがん細胞の増殖を抑制するよう設計された薬剤である。種々のがんにおいて細胞周期キナーゼの亢進が見られることが多く、その結果がん細胞は制御されることなく増殖する。2015年、米国食品医薬品局(FDA)は、エストロゲン受容体(ER)陽性・HER2陰性の進行または転移性乳がん患者を対象としたホルモン療法の併用薬としてのCDK4/6阻害薬を承認している。また、進行または転移性乳がんで内分泌療法や化学療法後に進行が認められた患者対象の単独投与薬として、アベマシクリブが承認されている。

CDK4/6阻害薬は進行乳がんにおける無増悪生存期間の延長効果が示されており、他のがんについても試験が進行中である。しかし、その効果はやがて生じる耐性のため限定的なものとなっていることから、Geoffrey Shapiro医師/医学博士およびLiam Cornell医学博士が主導するダナファーバーの研究チームは、この耐性の機序に関する研究が特に求められている、と述べた。

CDK4/6阻害薬に対する耐性の獲得につながる分子的な変化を解明するため、研究者らは乳がん細胞に対してパルボシクリブ処置をがんの増殖を抑制できなくなるまで継続した(12週間)。これにより得られたがん細胞を耐性株とみなした。高用量のパルボシクリブに対する耐性ができるまでパルボシクリブ濃度を上げる実験も行った。一連の分析実験の結果、耐性の獲得とがん細胞におけるCDK6タンパク質発現増加との関連が認められた(CDK4の増加はなかった)。このCDK6発現が増加するメカニズムは、細胞シグナル経路の1種であるTGF-βが特定のマイクロRNA(miRNA)により抑制されることによるものであることが明らかになった。miRNAは遺伝子発現の調節機能をもつ微小な核酸分子である。さらに、CDK4/6阻害薬が奏効しなかった患者または耐性を獲得した患者から採取した腫瘍サンプルから高濃度の関連するmiRNAが検出された。

研究者らの注目を集めたのは、がん細胞が薬剤耐性を獲得する事例の多くと異なり、培養系の乳がん細胞のすべてが同時期に耐性を獲得したことであった。通常は、遺伝子変異が生じ耐性を獲得した特定のがん細胞のクローンが出現し、それの耐性クローンがその後優勢となる。

その後の研究で、パルボシクリブ耐性細胞は遺伝子変異なく耐性化し、エキソソームを経由して隣接する細胞すべてに耐性を獲得させることが明らかとなった。エキソソームとは、タンパク質や核酸を細胞間で輸送することができる泡沫状の小分子である。「耐性が可逆的であることもこの仮説を支持しています。遺伝子変異などの不可逆的な変化によって生じた耐性ではこのようなことは起こりえません」と研究者らは話している。

がん細胞のパルボシクリブ耐性は、パルボシクリブ処置を7週間中止すると消失することが実験により示された。このいわゆる休薬についてマウスでも同様に実験を行っている。パルボシクリブ耐性腫瘍試料をマウスに移植し、耐性腫瘍が形成されるまでパルボシクリブ投与を実施、その後28日間の中断の後に治療を再開すると腫瘍は退縮した。

CDK4/6阻害薬に対する耐性がエキソソーム経由で腫瘍細胞に伝達されるという今回の発見により、患者の疾病管理に利益がもたらされるかもしれない、と研究者らは述べている。「患者のエキソソームを(血液検査で)調べることで、がんが進行してX線検査ではっきりと見えるより早く、耐性かどうかを検査できるようになるかもしれません」とShapiro氏は話している。

Seth Wander, MD, PhD, and Nikhil Wagle, MD, of DFCI’s Center for Cancer Precision Medicine and the Broad Institute, collaborated on analysis of primary tumors in the project.   The research was supported by the Dana-Farber/Harvard Cancer Center Specialized Program of Research Excellence in Breast Cancer; National Institutes of Health grant P50 CA168504; a Susan G. Komen Career Catalyst Research Grant CCR15333343; AACR NextGen Grant for Transformative Cancer Research 1620-38-WAGL, as well as grants from the V Foundation and The Cancer Couch Foundation.

Shapiro has received research funding from Eli Lilly, Merck KGaA/EMD-Serono, Merck, and Sierra Oncology. He has served on advisory boards for Pfizer, Eli Lilly, G1 Therapeutics, Roche, Merck KGaA/EMD-Serono, Sierra Oncology, Bicycle Therapeutics, Fusion Pharmaceuticals, Cybrexa Therapeutics, Astex, Almac, Ipsen, Bayer, Angiex and Daiichi Sankyo.

翻訳担当者 橋本仁

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)

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