PET検査でHER2陽性乳がん個別化治療のバイオマーカーを検出

漸減療法の目的は有効性の維持と毒性の最小化

治療法をさらに個別化して患者の過剰治療を避けるために、PETスキャンを用いた新しい研究で、HER2陽性乳がんの1種類を有する患者が標準的化学療法を要せずに、HER2標的薬の単独投与で最大のベネフィットが得られるかを正確に予測できるバイオマーカーを同定したと、ジョンズホプキンスKimmelがんセンターの研究者らは報告している。

乳がんの女性5人に1人は、がん細胞に、がんの増殖を促進するタンパク質であるヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)を過剰に産生する突然変異が認められると推定されている。

「PETスキャンバイオマーカーを広範囲にわたって確実に使用するにはさらなる研究が必要だが、この研究の結果から、乳がんの女性におけるプレシジョン医療(precision medicine)の選択肢が広がる可能性がある」と、腫瘍学教授であり、ジョンズホプキンスの乳がん・卵巣がんプログラムの共同責任者でもある、Journal of Clinical Oncology誌2019年2月号に発表された論文の上席著者Vered Stearns医師は述べた。「この研究は、ジョンズホプキンスの乳がん・卵巣がん研究プログラムの他の完了済み・進行中の研究と相まって、乳がん患者に真のプレシジョン医療を提供する研究の最前線にある」。

本研究のため、ジョンズホプキンス病院を含む米国全土の9カ所のTranslational Breast Cancer Research Consortium(TBCRC)参加施設で募集した、ステージIIまたはステージIIIのエストロゲン受容体(ER)陰性、HER2陽性乳がんの女性88人中83人を詳細に評価した。

患者に(化学療法の併用なしで)ペルツズマブとトラスツズマブを、12週間で4サイクルのうちの初回サイクル投与前および投与後15日目に、放射性トレーサーを用いてがん細胞における糖の取り込みを検出するPETスキャンを実施した。これら2種類の薬剤は、HER2陽性がん細胞上の特定のタンパク質を正確に標的とするモノクローナル抗体で、HER2陽性乳がんの治療に広く使用されており、通常はそのような細胞を害し、より毒性の強い副作用を伴う化学療法薬と併用される。

研究者らは、PETスキャンでの早期変化(標的治療の第1段階で撮影された画像)が、HER2標的治療後に腫瘍が完全に消失するか否かの判断に役立つかどうかを評価しようとした。

2週間の治療後、研究者らは、患者が化学療法なしでHER2標的治療に反応するかどうかを予測できることを発見した。約56%(患者44人)において、有用な早期反応評価ツールとなりうる予測バイオマーカーが同定された。

筆頭著者で、Kimmelがんセンターの腫瘍学准教授であるRoisin Connolly M.B.B.Ch医師(医学・外科)は、ベースラインから治療開始後2週間目までのPETスキャンでの糖取り込み量の変化、および2週間目の測定値自体が、高感度かつ非常に高い陰性適中率でHER2療法に対する反応を予測する最も良い指標であると述べた。治療から2週間後のがん細胞の糖取り込み量が多いと、腫瘍が抗体単独では完全には反応しない可能性が高く、化学療法が必要になることを示唆している、とConnolly医師は述べた。

現時点では有効性を維持しつつ毒性を最小限に抑えることを目的とした、乳がんの漸減療法に大きな関心が寄せられている、とConnolly医師は述べた。

「我々の知見に基づくと、PETスキャンで測定した糖取り込み量が2週間後に一定レベルを下回っていれば、抗体療法だけで完全奏効が得られ、化学療法の毒性作用を避けられる可能性がある」。

ER陰性、HER2陽性乳がんは乳がん全体の約8%を占める。標準治療では、腫瘍の大部分を切除する手術、乳がん細胞の増殖を促すHER2遺伝子の作用を阻害する抗体療法、およびがん細胞を直接死滅させる化学療法を併用する必要がある。

「つまり将来的には、化学療法を使わない治療法として、このバイオマーカーを用いた漸減療法を提供できるかもしれない。この方法が、臨床現場で治療法を決定する際の標準法となるまでには、さらなる研究が必要ではあるが、非常に期待できる」とConnolly医師は述べた。

試験に登録した女性88人を2014年1月から2017年8月の間に治療し、83人を一次試験で評価した。85%の症例(75/88人)が標的治療薬の4サイクルすべてを完了し、追跡調査を完了した患者83人全員が治療後に手術を受けた。

Connolly医師とStearns医師の共著者は以下のとおりである: Jeffrey Leal、 Lilja Solnes、 Chiung-Yu- Huang、 Ashley Carpenter、 Katy Gaffney、 Vandana Abramson、 Lisa Carey、 Minetta Liu、 Mothaffar Rimawi、 Jennifer Specht、 Anna Maria Storniolo、 Vicente Valero、 Christos Vaklavas、 Ian Krop、 Eric Winer, Melissa Camp、 Robert Miller、 Antonio Wolff、 Ashley Cimino-Mathews、 Ben Park 、Richard Wahl。

本研究は、TBCRCおよびその財団パートナー(AVON財団、乳がん研究財団、Susan G. Komen for the Cure)、SKCCC Core Grant (P30-CA006973)、NCI Quantitative Imaging Network契約(5U01CA140204)およびジェネンテック社の(ペルツズマブおよびトラスツズマブの供給を含む)支援を受けた。American Society of Clinical Oncology Conquer Cancer Foundation Career Development Award (2013)およびAVON Center of Excellenceから助成金を得た。

翻訳担当者 三宅民子

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)

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