BRCA変異のデータリソース ‘BRCA Exchange’により、がんリスク解明の推進へ
NCIプレスリリース
BRCA1遺伝子およびBRCA2遺伝子における数千もの遺伝的変異に関する世界規模のデータリソースが一般に公開されている。この‘BRCA Exchange’は、BRCA1およびBRCA2のデータ共有を強化する目的で、Global Alliance for Genomics and Health (GA4GH)が開始した長期的実証プロジェクト‘BRCA Challenge’により作成された。このリソースはWebサイトおよび新しいスマートフォンアプリを介して利用可能で、臨床医は、高リスク患者のがん予防、スクリーニング、および介入に関する複雑な問題への個々の診断の一環として、これらの主要ながん素因遺伝子について専門家による変異の分類を確認することができる。
5年間の‘BRCA Challenge’プロジェクトは、米国国立衛生研究所(NIH)の一部門である米国国立がん研究所(NCI)およびCancer Moonshot℠から一部資金提供を受けたもので、 ‘BRCA Exchange’の展開を詳述した論文がPLOS Genetics誌の2019年1月8日号に掲載された。
「本プロジェクトでは、専門家によるこの2個の遺伝子の特異的変異に対する注釈の付け方を理解することができるように、複数のソースから集められたBRCA1変異体およびBRCA2変異体のメタアナリシスを提供してきました」と、NCI のがん疫学・遺伝学部門のディレクターで、この論文の筆頭著者であるStephen J. Chanock博士は述べた。「がん素因の研究では、データを共有することが急務です。‘BRCA Exchange’は、大規模な連携およびデータ共有を達成し、最新かつ最高品質の情報の提供が可能で、臨床医と個人の治療改善を実現できることを証明しています」。
これらのBRCA遺伝子における特定の遺伝的変異は乳がん、卵巣がんなどのがんリスクを、程度の差はあるが高める可能性があるが、それ以外の遺伝的変異は疾患とは関連していない。臨床医と患者は、特定の変異が疾患に関連している可能性があるか(病原性)、そして病原性変異がどのようにがんを引き起こす可能性があるか(浸透性)を知る必要がある。今まで、これらの遺伝子の遺伝的変異に関する利用可能なデータは、包括的な方法で集められていなかった。
‘BRCA Exchange’のデータセットは、既存の臨床データベース(Breast Cancer Information Core、ClinVar、およびLeiden Open Variation Database)からの情報、ならびに人口データベースおよび世界中の臨床医、臨床検査機関、および研究者からのデータで構成されている。現在、20,000以上の特異なBRCA1変異とBRCA2変異が含まれている。データベース内の6,100を超える変異が、専門家委員会であるEvidence-based Network for the Interpretation of Germline Mutant Alleles(ENIGMA:エビデンスに基づく生殖系列細胞変異対立遺伝子解釈ネットワーク)によって分類されており、これらの変異のうちの約3,700は疾患を引き起こすことが知られている。‘BRCA Exchange’には、世界中のデータリソースからの変異が蓄積されており、非常にまれに観察されることがある珍しい変異も含まれることになる。
‘BRCA Exchange’は、単一アクセスポイントのWebサイト(www.brcaexchange.org)で、これらの遺伝子変異に関する情報を臨床医、研究者、データサイエンティスト、患者、および患者支援者に提供する。また、実証プロジェクトとしての役割を果たしている。この種の包括的なデータ共有が、数百の組織の連携、情報を格納するインフラストラクチャーの確立、およびデータ共有プロトコルの開発を必要としており、他のがん素因遺伝子、そして実際には他の疾患に関連する遺伝子についても可能であることを示している。
このプロジェクトの次のステップとしては、さらに多くの全世界のデータ作成者およびデータ所有者との連携、継続的な技術開発、および世界中の患者および患者支援者との関係の強化がある。
参考文献
Cline M, Chanock S, et al. BRCA Challenge: BRCA Exchange as a global resource for variants in BRCA1 and BRCA2. PLOS Genetics. Dec. 26, 2018. DOI: 10.1371/journal.pgen.1007752
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