乳がん術後補助療法中の運動は心血管機能を改善する可能性

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)2018

乳がん術後補助療法中に指導付き心血管運動プログラムを受けた女性は、同プログラムに参加しなかった女性よりも心血管機能が良好であったというEBBA-II臨床試験結果が、2018年サンアントニオ乳がんシンポジウム(12月4〜8日開催)で発表された。

「乳がん生存率は向上しましたが、心血管機能が低下してしまうサバイバーも多くみられます」と、本研究の筆頭著者であるInger Thune氏(医学博士、オスロ大学病院腫瘍学教授および上級コンサルタント、ノルウェー)は述べた。「治療により誘発される心毒性は重大な問題であり、乳がんサバイバーにとって心血管疾患は、がん以外の死亡原因の一つです」。

過去の研究により運動が乳がんサバイバーに有益であることは示されていたものの、乳がん術後補助療法中における運動の種類、回数、強度および継続期間について、また、初回治療後の運動が患者に有益かどうかについて調査した研究は非常に少ないとThune氏は述べた。

本研究は、Energy Balance and Breast Cancer Aspect (EBBA)-II臨床試験参加者のうち375人の女性を対象とした。対象者全員が過去にステージ1または2の乳がんで手術を受けていた。補助化学療法を受けていた女性は約57%、放射線療法を受けていた女性は78%、また内分泌療法を受けていた女性は67%であった(2種類以上の治療を受けていた女性もいた)。

心血管機能は外科手術などの治療に先立って測定した。対象患者を運動プログラム介入群または非介入群に無作為に割り付けた。運動介入プログラムは手術後2〜3週間に開始した。患者らは開始時のVO2max(最大酸素摂取量。一般的な心血管機能測定値)にもとづき詳細に組まれたトレーニングプログラムを受けた。介入群は少人数のグループに分かれて、トレーナーの指導の下、有酸素運動、ストレッチ、ウェイトトレーニングを組み合わせた運動を週に2回、各60分間おこなった、とThune氏は説明した。患者らは各自週120分間の身体活動もおこなうように指示され、その活動を研究者らに報告することとした。

追跡調査6カ月目の時点で、両群患者のVO2 maxレベルは手術前レベルから平均的に減少した。VO2 maxレベルの減少は、手術または他の治療後数カ月間におこる典型的な事象であるとThune氏は述べる。減少率は運動介入群では2.7%であったのに対し、非介入群における減少は10%とより顕著であった。

追跡調査12カ月目の時点で、運動介入群患者のVO2maxは手術前VO2maxと比較して2.3%増加した。非介入群患者のVO2 maxは手術前VO2 maxと比較して3.8%減少した。

化学療法を受けていた患者のうち、運動プログラムに登録した群は12カ月の追跡調査までに手術前の心血管強度に回復したが、一方、非介入群の心血管機能は低下し続けた。本研究の最終データはシンポジウムで発表される。

本研究の結果から、乳がん治療中の身体活動は多くの患者にとって有益である可能性があり、この研究で測定された心血管機能の有益性に加えて、運動は疲労感を軽減し、QOLの改善にも役立つであろう、とThune氏は述べた。同氏は今後の研究で、乳がん患者の再発リスク、転移リスク、代謝プロファイル、および作業能力における運動の有益性を測定していく、と述べた。

「患者は自分の治療計画について主治医に相談しなくてはなりませんが、今回の結果から、乳がん治療ガイドラインに監督下の臨床運動プログラムを組み込むことは有益であると言えます」とThune氏は述べた。

この研究は、なんらかの乳がん治療をおこなう前に心血管機能を測定したという点において最大規模の試験であると考えられているとThune氏は述べた。非介入群の患者の一部が自ら身体活動レベルを引き上げた可能性があるため、主効果が減衰したおそれがある点が本研究の弱点であり、治療前、治療中、および治療後に測定した点と、順守割合が高く、運動ガイドラインから脱落または追いつけなかった患者がほぼ皆無であった点が本研究の強みである、と同氏は述べた。

本研究はノルウェー研究評議会、ノルウェー保健局、オスロ大学病院、St Olavs病院、およびActive Against Cancer–Gjensidige 基金の支援を受けた。Thune氏は利益相反はないと宣言している。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 前田 梓(医学生物物理学/トロント大学)

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