腋窩放射線療法とリンパ節手術では、乳がん患者の10年後の予後は同等

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)2018

センチネルリンパ節生検でがんが検出された早期乳がん患者では、腋窩放射線療法または腋窩リンパ節郭清のどちらを受けても10年後の再発率および生存率は同程度であった。この結果を示したランダム化第3相AMAROS臨床試験が、12月4日から8日に開催された2018年サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された。

「早期浸潤性乳がんの患者は、触診または超音波検査によって腋窩(脇の下)リンパ節への局所転移が臨床的に確認されない場合、センチネルリンパ節生検を受けます」 と、Emiel J. T. Rutgers 氏(医学博士、AMAROS臨床試験責任医師、アムステルダムのオランダがん研究所の外科腫瘍医)は言う。「従来、センチネルリンパ節生検でがんが検出された患者は腋窩リンパ節郭清を受けていましたが、これは有効な治療ではあるものの、リンパ浮腫を生じたり、腕の動きが悪くなるなど有害な副作用を伴う侵襲的な外科手術です」。

Rutgers 氏、Mila Donker氏(医学博士、オランダがん研究所の放射線腫瘍医)、共同研究者ら(EORTCおよびALMANACの乳がん研究機関在籍)は、腋窩放射線療法が腋窩リンパ節郭清より少ない有害事象で同等の予後をもたらすことが可能かどうか検証するためにAMAROS臨床試験を実施した。

「今回われわれが得た10年間のデータは、腋窩放射線療法と腋窩リンパ節郭清が全生存率、無遠隔転移生存率、局所制御において同程度に優れていることを示しています」とDonker氏は述べた。「以前に発表した同試験5年追跡調査で、リンパ浮腫は腋窩リンパ節郭清術後の方が腋窩放射線療法後よりも有意に高い頻度で起きることが示されているため、センチネルリンパ節生検が陽性であった患者に対しては、腋窩リンパ節の外科的完全除去ではなく腋窩放射線療法を適切な選択肢と見なすべきだと思います」。

生活の質および病状に関する最新5年間の追跡データでも、放射線療法に伴うリンパ浮腫の頻度は手術と比べて有意に低いことが示されている。

研究者らが試験に登録した、臨床的にリンパ節転移陰性であった早期乳がん患者4,806人のうち、1,425人がセンチネルリンパ節生検で陽性となった。そのうち744人を腋窩リンパ節郭清群、681人を腋窩放射線療法群に無作為に割り付けた。

10年後、腋窩放射線療法群の1.82%(681人中11人)に腋窩再発が生じたのに対して、腋窩リンパ節郭清群では0.93パーセント(744人中7人)であった。さらに、無遠隔転移生存率、全生存率のいずれも両治療群間で有意差はなかった。無遠隔転移生存率は腋窩放射線療法群では78.2%、腋窩リンパ節郭清群では81.7%であり、全生存期間はそれぞれ81.4%、84.6%であった。

腋窩放射線療法群の患者では、腋窩リンパ節郭清群の患者と比べて有意に高い割合で二次原発がんが発生した(11.0%対7.7%)。Donker氏の説明によると、この差が生じた主な原因は、腋窩放射線療法を受けた患者において対側乳がんの発生率が高かったことである。Donker氏は、当時の放射線技術では2つの接線照射野を使っていたため、腋窩または鎖骨上窩を含めることによる対側乳房への「余分な」放射線照射はごくわずかであるとも言う。

「二次原発がんの高い発生率が放射線治療によるものであることを示す証拠は見つかりませんでした」とDonker氏は述べた。「したがって、このような患者には腋窩放射線療法が腋窩リンパ節郭清に代わる優れた選択肢であると確信します」。

「別の最近の臨床試験データでは、たとえセンチネルリンパ節生検が陽性であっても腋窩治療を必要としない患者もいる可能性があることを示唆しています」とRutgers氏は言い添えた。「私たちはさらに前進して、患者一人一人に合わせてよりよい治療を提供する必要があります。患者の中にはやはり腋窩治療が必要な人もいるでしょう。そして、今回のデータから、その場合には腋窩放射線療法が良い選択肢であると言えます」。

研究者らによると、本研究の主な弱点は、照射野が現在必要と認められているよりも広範囲であったことであり、それが現在では回避できるかもしれない何らかの病状の原因となった。また、両治療群間でセンチネルリンパ節生検を受けた患者数に不均衡があり、再発数が予想よりはるかに少なかったために、研究の統計的検出力が抑えられた。しかしながら、これらの制限は、腋窩放射線療法が局所制御の観点から腋窩リンパ節郭清と比べて遜色がないという、試験データから得た結論に悪影響を及ぼすものではないと研究者らは述べた。

本研究はEORTC Charitable Trust(慈善信託)の支援を受けた。Rutgers 氏、Donker氏は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 山田登志子

監修 小坂泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療法人石川記念会 HITO病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

若年発症乳がん既往歴あるBRCA変異保持者は、リスク軽減手術の恩恵を受ける可能性【SABCS24】の画像

若年発症乳がん既往歴あるBRCA変異保持者は、リスク軽減手術の恩恵を受ける可能性【SABCS24】

生殖細胞系列BRCA遺伝子変異を有し、40歳以前に乳がんと診断され、両側リスク低減乳房切除術(RRM)やリスク低減卵巣卵管摘出術(RRSO)を受けた患者は、これらの手術を受けなかった患...
欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライトの画像

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト

ESMOアジア会議2024は、アジア地域における集学的腫瘍学に特化した年次イベントである。新しい治療法、特定のがん種の管理に関する詳細な議論、アジア全域を対象とした臨床試験、アジア地域...
喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのかの画像

喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのか

放射線治療は基本的ながん治療のひとつであり、乳がんを含むさまざまながん種での治療に用いられている。 
放射線治療は、放射線(通常はX線)を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を破壊...
がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害の画像

がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害

エストロゲンは、その受容体を持つ乳がん細胞の増殖を促進することが知られているが、デュークがん研究所による新たな研究では、エストロゲンが、他のがんと同様に、受容体を持たない乳がんにおいて...