乳がん術前の完全奏効は生存に関連ー術後化学療法の利益はあるか?

乳がん患者における術前化学療法(ネオアジュバント)後の病理学的完全奏効(pCR)は、有意に低い再発リスクおよび高い全生存率と関連していた。さらに、術前化学療法後のpCRは、術後化学療法(アジュバント)を受けた患者と受けていない患者、いずれにおいても同程度に良好な予後と関連していたことが、52の臨床試験のデータのメタアナリシスで明らかになった。この結果は、12月4〜8日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

病理学的完全奏効(pCR)は、術前化学療法後の手術の際に切除された乳房組織およびリンパ節において、浸潤性がんのすべての徴候が消失していることと定義された。

「数年間にわたって実施されてきた多くの乳がんの試験では、全身療法(化学療法)を追加して再発リスクを低減することに焦点をおいていました。 しかし、治療を追加することは、多くの女性にさらなる毒性と過剰治療をもたらすことにもなります」と、マサチューセッツ総合病院がんセンターの腫瘍内科医で、ハーバード大学医学大学院の医学の講師でもあるLaura Spring医師は述べた。

Spring氏らは、局所乳がんの術前化学療法に関する研究の包括的な患者レベルのメタアナリシスを実施した。術前化学療法後のpCRとその後の乳がん再発との潜在的関連性、および術後化学療法がpCRと予後との関連性の変化に及ぼす影響について検討した。

「pCRが、無再発生存率および全生存率の上昇に強く関連していることが明らかになりました。この関連性は、殺細胞性の術後化学療法を受けた患者と受けていない患者では同様でした。」とSpring医師は述べた。

「全体として、私たちのチームの研究結果は、最初の術前化学療法で認められた奏効に基づいて術後療法を行う際の治療のエスカレーション・ディエスカレーション戦略という考え方を裏付けており、乳がん患者に対して個別化された「適正な」治療を行うにはさらなる研究が必要であることを強調するものです」と、本稿の統括著者で、ハーバード大学医学大学院マサチューセッツ総合病院乳がんセンター、プレシジョン医療部門のディレクターであるAditya Bardia医師(MPH:公衆衛生修士)は言及した。

チームはPubMed検索を行い、1999年から2016年の臨床試験から適格な試験を特定した。検討した3,209件の抄録うち、52の試験の27,895人の患者が選択規準を満たしていた。 これらの研究ではさまざまな治療法が用いられていた。「統計的アプローチにおいて治療差を考慮に入れるため、他のアプローチよりも慎重な変量効果モデルを使用し、いくつかの感度分析も実施して結果を確認しました」と、Spring氏は述べた。

全体的として、pCRが認められた乳がん患者では、pCRが認められない患者と比較して、疾患を再発する可能性が69%低かった。 この関連性は、pCRが認められたトリプルネガティブ乳がんまたはHER2 +乳がん患者で最も強かった。これらのpCRが認められた患者では、再発する可能性がそれぞれ82%、および68%低かった。

pCRが認められたホルモン受容体(HR)陽性乳がん患者は、pCRが認められない患者と比較して再発リスクが低い傾向にあったが、データでは統計的に有意差がなかった。「I-SPY2試験やFDA主導のpCRのメタアナリシスなど他の研究により、pCRと高悪性度ホルモン受容体 陽性腫瘍の長期転帰との間には有意な関連性が認められますが、低悪性度ホルモン受容体 陽性腫瘍ではpCRとの関連性がずっと低い ことが明らかになってきました。ホルモン受容体 陽性乳がんの場合、この患者集団ではpCR率が全体的に低いため、RCB(残存腫瘍量) Indexなど代わりの評価項目を用いるのが適切な場合があります」と、Spring氏は述べた。

pCRが認められた乳がん患者は、pCRが認められない患者と比較して全体的に死亡リスクが78%低く、乳がんの3つの主要な臨床サブタイプにおいても同様の傾向が見受けられた。

特に、pCRと再発率低下との関連は、術後化学療法を受けた(再発する可能性が66%低い)患者と、術後化学療法を受けなかった(再発する可能性が64%低い)患者との間で同等であった。

「この結果は、腫瘍生物学の考え、つまり、乳房およびリンパ節において術前療法の影響を受ける腫瘍は概して微小転移部位においても術前療法の影響を受けるという考えを反映している可能性があります」と、Spring氏は説明した。「乳房および腋窩において完全奏効が認められる場合、微小転移部位における完全奏効と関連がある可能性が高く、術後療法により得られる追加の利益が最小化されます。中枢神経系のような治療聖域は、明らかな例外となる可能性があります」

「統計的モデルを作成し、pCRの変化の規模と、対応する無再発生存率および全生存率の変化との関係を明らかにしました。 この統計的モデルは有望で、局所乳がん患者の術前療法を検討する臨床試験の有用な指針となるはずです」と、同チームはさらに述べた。

この研究の主な限界は、解析で、報告が一定しないこと、および各研究で研究固有のアウトカムの定義が使用されていることによる影響を受けることである。「この研究はランダム化試験ではなく、使用した術前療法の種類が不均一で、研究結果は特定の治療レジメンではなく術前化学療法全般に基づいています」と、Spring氏は付け加えた。

本研究は、米国国立がん研究所およびSusan G. Komen氏からの助成金による支援を受けた。Spring氏は、関連する利益相反はないと宣言している。 その他の情報開示は、Novartis社の諮問委員会、およびTesaro社からの施設研究費である。 Bardia氏は、関連する利益相反はないと宣言している。その他の情報開示は、Genentech / Roche社、Immunomedics社、Novartis社、Pfizer社、Merck社、Radius Health社、Spectrum Pharma社、およびTaiho Pharma社の諮問委員会、ならびにBiotheranostics社からの研究助成金である。

翻訳担当者 会津麻美

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎ノ門病院)

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