第3相KATHERINE試験、術後T-DM1が一部の乳がん再発リスクを下げる

サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)2018

術前に補助化学療法とトラスツズマブ投与を受けたのちに手術を受け、浸潤がんの残存が認められたHER2 陽性早期乳がん患者において、術後T-DM1療法により無浸潤疾患生存率(IDFS)が向上した。

術前補助化学療法とトラスツズマブ投与を受けたのちに浸潤がんの残存が認められた患者において術後のトラスツズマブ(ハーセプチン)投与をトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1、カドサイラ)に置換えたところ、HER2 陽性早期乳がんの浸潤性再発リスクを50%低下させた。このことは12月4~8日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)2018で発表されたKATHERINE試験(第3相臨床試験)のデータにより判明した。

「HER2陽性乳がんは全乳がんの約15%を占めます。また、より大型の腫瘍や腋窩リンパ節に転移した腫瘍を有する患者は、通常、化学療法とトラスツズマブを利用したHER分子標的療法による治療を受けます。さらに最近ではペルツズマブ(パージェタ)も併用した治療が行われています。その後の手術でがんが残存していないことが判明した患者の予後は良好で再発リスクも比較的低いです」、とバージニア医科大学医学部教授、 Massey Cancer Center(リッチモンド、バージニア州)のがん研究部の臨床研究部門および Harrigan, Haw, Luck Families Chairの副所長を務めるCharles E. Geyer, Jr医師は述べた。「しかしながら、外科標本に浸潤性がんが残存する患者の予後は残存しない患者の予後と比較して大幅に悪くなり、再発リスクは高まります。ですので、より効果の高い治療法が必要なのです」。

術前補助療法を受けた後の再発リスクが高い患者(手術時に浸潤性乳がんの残存が確認できるかどうかによって判断)を標準治療薬のトラスツズマブの代わりにT-DM1(抗体薬物複合体)による治療を行った場合、毒性を忍容できない程高めることなく再発リスクを低下できるかどうか見極めることがKATHERINE試験の目的である。

「T-DM1の投与により乳がんの侵襲性再発あるいは死亡のリスクが50%低下しました。これは3年無病-生存率(IDFS)率が絶対値で11.3%低下したことに相当します(トラスツズマブで77%、T-DM1で88.3%)」、とGeyer医師は述べた。

「1.腫瘍がホルモン受容体陽性である患者と陰性である患者の両方、2.手術時の残余病変の量、3.リンパ節転移がなく乳房にがんがわずかに残っている患者、4.術前補助療法でHER2標的治療剤の2 剤併用あるいは単剤使用した患者、5.ベースラインにおける患者の特徴(年齢、閉経状態、人種など)のサブグループはすべて重要となります。そのサブグループすべてでこの大きな有益性が一貫して認められました」、とGeyer医師は述べた。

「KATHERINE試験から得られた結果は“診療を変える”と確信しました」とGeyer医師は述べた。「これらの結果は術前補助療法の後に侵襲性乳がんが残存する患者における新たな標準治療の礎を築くものに違いありません。KATHERINE試験では、術前補助療法を利用して、標準術前補助療法に対して最適な反応を示すか示さないかに基づき再発リスクの高い患者を特定します。再発リスクの高い患者はトラスツズマブでなくT-DM1を利用した治療が有益である可能性があります」。

T-DM1は、トラスツズマブとタキサン系化学療法薬剤を用いた前治療の後にHER2陽性転移性乳がんを有する患者に対する治療薬として米国食品医薬品局(FDA)に現在承認されている。

KATHERINE試験は、術前補助化学療法+HER2標的治療(タキサン系薬剤とトラスツズマブを使用)を受けたのちに手術を受けたHER2 陽性早期乳がん患者1,486名を対象とした非盲検試験である。全患者において乳房あるいは腋窩リンパ節に浸潤がんの遺残が認められた。手術後12週間の間に、患者を1:1の割合でT-DM1(静注で3.6 mg/kgを3週間毎の投与)あるいはトラスツズマブ(静注で6 mg/kgを3週間毎の投与)のいずれかに無作為割り付けした。主要評価項目はIDFSとした。

IDFSにまつわる事象(疾患の再発か再発しないままの死亡)はT-DM1群の患者の12.2%およびトラスツズマブ群の患者の22.2%で認められた。副次的有効性評価項目は無病生存期間よび遠隔再発するまでの期間とした。T-DM1とトラスツズマブを比較した場合、副次的有効性評価項目にまつわる事象の発生率が臨床的に有意義な低下を示した。生存に関する術後T-DM1療法の影響を明らかにするにはさらなる追跡調査が必要である。

KATHERINE試験の副作用は転移性の病変を有する患者の治療にT-DM1を用いた場合に発生する副作用とほぼ同じである、とGeyer医師は述べた。副作用は血小板数低下、感覚性ニューロパチー、肝酵素値上昇などであり、これらの毒性の大半はグレード1か2であった。毒性はT-DM1投与量を減少あるいは投与中止後に消失した。

KATHERINE試験の限界として、残存腫瘍ではなく原発性腫瘍の治療前コア生検の検体でHER2の陽性状態について中央判定すると決定したことである。「KATHERINE試験に参加した患者の2/3超のペア検体を回収しており、術後検体のHER2喪失率およびT-DM1の活性について明らかにするためにさらなる解析を行うことが計画されています」、とGeyer医師は述べた。「また、これらのペア検体を利用すれば術前補助化学療法やトラスツズマブ、並びに術後T-DM1療法に対して起こりうる耐性機構を明らかにするための解析が容易になります」。

この研究はF. Hoffmann La Roche/Genentechによる支援を受けた。Geyer医師はF. Hoffmann La Roche/Genentech の乳がん諮問委員会を務めており(無報酬)、旅費の補償を受けている。

翻訳担当者 三浦恵子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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