術後化学療法の遅れによるトリネガ乳がんの転帰不良

サンアントニオ乳がんシンポジウム2018

術後化学療法開始が術後30日以上に遅れたトリプルネガティブ乳がん患者は、術後30日以内で治療を開始した患者に比べ、疾患再発および死亡のリスクが有意に高いことが、12月4~8日に開催された2018年サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された後ろ向き研究で示された。

「本研究のために、一次治療として手術を受けた後に化学療法や放射線療法を受けたトリプルネガティブ乳がん患者を登録しました」と、Zaida Morante医師(ペルー、リマにあるInstituto Nacional de Enfermedades Neoplásicasの腫瘍内科医)は述べた。「ガイドラインの大半は、あらゆるタイプの乳がんに対しても術後4~6週間以内の術後化学療法の開始を推奨しています。その他のガイドラインでは術後31日以内で臨床的に可能な限り早く開始することを推奨しています。しかし、化学療法を開始する最適な時期は不明です」。

「さまざまな理由でトリプルネガティブ乳がん患者に対する術後化学療法の開始がしばしば遅れるのを実臨床でみてきました」とMorante医師は続けた。「これらの遅れが患者の無病生存率または全生存率に影響を及ぼしているかどうかを調べるために、実在データを分析しました」。

Morante医師らにより、術後化学療法の開始が術後30日以上に遅れた患者では、術後30日以内に治療を開始した患者と比べ、疾患の再発および死亡のリスクが90%以上高かったことがわかった。60日後以降に術後化学療法を実施した場合、このリスクは上昇する。

「手術完了後30日以内に術後化学療法を開始することがトリプルネガティブ乳がん患者にとって優先事項であることをデータは示しています」とMorante医師は述べた。「この期間を過ぎると、化学療法の有用性は著しく低下します」。

Morante医師らは、ある公的施設で手術を受けてから術後化学療法を受けた、ステージI~IIIのトリプルネガティブ乳がん患者687人の診療記録から得たデータを後ろ向きに解析した。追跡期間中央値は101カ月、術後化学療法を開始するまでの期間の中央値は41日であった。189人が30日以内に、329人が31~60日後、115人が61~90日後、54人が90日後以降に治療を開始した。

術後化学療法の開始までの期間が長いほど、10年無病生存率が低下した。術後30日以内、31~60日後、61~90日後、90日後以降に治療を開始した患者でそれぞれ81.4%、68.6%、70.8%、68.1%であった。10年全生存率も、術後化学療法の開始までの期間が長いほど低下した。既出の4群の患者でそれぞれ82%、67.4%、67.1%、65.1%であった。

研究者らは、次に化学療法開始の遅れの程度がいかに疾患の再発および死亡のリスク上昇と関連があったかを調査した。疾患の再発リスクは、術後30日以内に術後化学療法を開始した患者と比べて、術後31~60日後まで治療の開始が遅れた患者で92%、術後61~90日後まで治療の開始が遅れた患者で138%、術後90日以上後に治療の開始が遅れた患者で147%上昇したことがわかった。死亡リスクは、術後30日以内に術後化学療法を開始した患者と比べ、既出の3群の患者でそれぞれ94%、145%、179%上昇した。

Morante医師によると、研究の主な制限は、単一施設による経験の後ろ向き解析だということである。

Morante医師は、利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 田原梨絵(乳腺科、乳腺腫瘍内科)

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