多くの初期乳がん女性に化学療法が不要となる可能性

ASCOの見解
「がん研究に対する連邦政府の資金援助がなかったら実現しなかったであろうこの研究は、すぐに、よりよいものに治療を変化させるだろう。今回の研究データは、初期乳がんの女性に対して、よりよい治療を選択するためにゲノム情報を利用しうる医師と患者にとって重要な再確認となる。実際のところ、この研究は、多くの女性が優れた長期アウトカムを示していたとしても、あらゆる副作用を伴う化学療法をしないという選択肢を持てることを示している」とASCOのエキスパートであるHarold Burstein医学博士、米国臨床腫瘍学会フェローは述べた。

連邦政府が資金提供する第3相臨床試験では、ホルモン受容体陽性HER2陰性腋窩リンパ節転移陰性の早期乳がんで21遺伝子アッセイ(Oncotype DX® Breast Recurrence Score)で中間リスクの女性の多くに、術後に化学療法が必要ないことを示している。この研究において、当該試験に参加した女性の約3分の2を占めるこの治療群に対してホルモン療法に化学療法を加えても無病生存率の改善は見られなかった。この研究結果は、直ちに日常臨床に影響を与え、多くの女性を化学療法の副作用から回避させるだろう。

この研究は、2018年米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会の中で発表される5,800以上の演題のうち、患者の治療に最大の影響を与える可能性を持つ4つの研究に焦点をあてたASCOのプレナリー(全員参加)セッションで発表される予定である。著者によると、これはこれまで実施された乳がん治療における最大の試験であり、初のプレシジョン医療の試験である。

「全乳がんのうち、半数はホルモン受容体陽性で、HER2陰性かつ腋窩リンパ節転移陰性である。われわれの研究によると、これらの女性がOncotypeDxによる検査を行うと70%が化学療法を避けられることを示している。ゆえに、30%の限られた人でしか化学療法の利益を得られないことを私達は示すことができる」と、当該研究の筆頭演者であり、ニューヨークのAlbert Einstein Cancer Center and Montefiore Health System で、臨床研究のアソシエートディレクターを務め、ECOG-ACRIN Cancer Research Groupの副議長でもあるJoseph A. Sparano医師は述べた。

「TAILORx試験が実施される前は、Oncotype DX乳がん再発スコア試験において11から25までの中間値である女性への最良の治療法は確立されていなかった。当該試験は、この問題を解決するために計画され、信頼できる結果をもたらした。全ての75歳以下の初期乳がん患者は、再発を防ぐために術後化学療法を行うかの意思決定において、この検査を受けて、TAILORxの結果について主治医と相談すべきである」とSparano医師は述べた。

過去のいくつかの研究から得られたエビデンスに基づいて、21遺伝子発現アッセイは、乳がんの10年以内再発のリスクに関して予後の情報を得るために、また、化学療法から大きな利益を得られそうな患者を予測するために広く利用される。検査はがんの生検標本に対して行われる。低値(0-10)の女性は通常はホルモン療法のみを受け、高値(26-100)の女性はホルモン療法と化学療法を併用する。

乳がんに対する化学療法の副作用は重要事項となり得るものだ。化学療法中に起こる短期的副作用としては、悪心・嘔吐・脱毛・疲労・感染があり、若い女性においては早期閉経や不妊も起こる。手足のしびれ・刺痛・疼痛のような神経障害もまた一般的な副作用であり、永続的となることもある。化学療法後、何カ月または何年後かに副作用が遅れて起こることはまれであるが、心不全や白血病などの深刻な状況となる恐れがある。

研究について
個別化した治療選択肢を割り当てる試験(TAILORx)(ClinicalTrials.gov Identifier: NCT00310180)には、ホルモン受容体陽性HER2陰性腋窩リンパ節転移陰性の乳がん女性(最も一般的なタイプの乳がん)10,273人が登録された。うち6,711人は11から25の中間リスク再発スコアであり、無作為にホルモン治療単独またはホルモン治療と化学療法に割り当てられた。

主要エンドポイントは、乳房・局所リンパ節および/または遠隔臓器におけるがんの再発、対側乳房または他臓器の二次原発がん、またはなんらかの原因による死亡などで定義される無病生存率である。

主な知見
中央値7.5年の追跡調査では、乳がん再発スコアが11-25の女性ではホルモン療法単独は、化学療法およびホルモン療法と比べて効果が劣らなかった。9年の追跡では、二つの治療群で差異はなく、無病生存は83.3%と84.3%、遠隔再発は94.5%と95.0%、全生存は93.9%と93.8%であり、ホルモン療法に化学療法を併用することに利益は示されなかった。もう一つの重要な知見は、乳がん再発値16-25の50歳以下の女性の治療群では、ある程度化学療法の利益が示されたことだ。

研究者らは、再発スコアが10以下の女性は、年齢やそのほかの臨床的な因子に関わらず、ホルモン療法単独のときの再発率は非常に低いということも発見した。さらに、26以上の再発スコアを持つ女性は化学療法とホルモン療法を併用しても13%の遠隔再発を起こしており、この治療群に対してはより効果的な治療法を確立することの必要性を示している。

著者らによると、この知見は、化学療法は次の場合には控えたほうがいいかもしれないことを示唆している。

• ホルモン受容体陽性HER2陰性リンパ節転移陰性乳がんで、再発スコア0から25までの50歳を超える全ての女性。(この年代の乳がん女性の約85%を占める)

• ホルモン受容体陽性HER2陰性リンパ節転移陰性乳がんで、再発スコア0から15の50歳以下の全ての女性(この年代の乳がん女性の約40%を占める)

この研究は、主に米国国立衛生研究所の機関である米国国立がん研究所から資金提供を受けた。また、Breast Cancer Research Foundation, Komen Foundation、 U.S. Postal Service Breast Cancer Stampからもサポートを受けた。ECOG-ACRIN Cancer Research Groupがこの研究を計画し、実施した。

試験の概要

疾患乳がん
試験相と種類第3相、ランダム化試験
対象患者数10,273 
介入試験アジュバントホルモン療法vs.アジュバントホルモン療法と化学療法
主要知見ホルモン療法単独vs.ホルモン療法+化学療法のDFS非劣性
二次知見無再発期間と全生存期間に差はない

アブストラクト全文はこちらを参照。

翻訳担当者 池上紀子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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