手術不要の乳がん治療
MDアンダーソン OncoLog 2018年5-6月号(Volume 63 / Issue 5-6)
Oncologとは、米国MDアンダーソンがんセンターが発行する最新の癌研究とケアについてのオンラインおよび紙媒体の月刊情報誌です。最新号URL
全身治療に反応を示す乳がん患者で新しい方法により手術を回避
多くのがん専門医はこれまで、術前補助全身治療で病理学的完全奏効(pCR)を得た乳がん患者の中には手術が不要な患者もいるのではないかと考えてきた。しかし、そのような患者で手術を回避しようとする過去の試みは、局所再発率が高かったため断念された。これは、効果の弱い薬剤や、治療反応を正確に評価するための方法が不十分であったことが原因と考えられる。しかし現在、早期発見、全身治療薬、画像ガイド下生検の進歩に伴って、一部の乳がん患者で手術を安全に回避できるかどうかが再検討されている。
「これらの進歩に伴い、一部の患者で浸潤性乳がんに対する手術の回避を検討できるようになりました」と、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの乳腺外科学教授Henry Kuerer医学博士は述べた。
Kuerer氏は、全身治療でpCRを得た患者を対象に手術回避の実用性を評価する臨床試験で試験責任医師を務めている。「この方法の安全性が証明されれば、乳がんの局所治療に劇的な変化がもたらされるでしょう」と述べた。
反応を評価する新しい方法
HER2(ヒト上皮成長因子受容体2)陽性およびトリプルネガティブ(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2について陰性)の乳がんの中には、全身治療に特に感受性を示すものがある。これらの種類の腫瘍を有し、術前補助全身治療を受けた患者の50%以上でpCRが認められる。通常pCRは、乳房や腋窩リンパ節に浸潤性病変がないこととして定義される。
「HER2陽性およびトリプルネガティブの病変を有する患者では、全身治療によってがんを消し去ることができる可能性が非常に高いと考えられてきました。また、この種の反応を示す患者では、全生存期間が長くなる可能性が高く、再発の可能性が極めて低いのです」とKuerer氏は述べた。
しかし、このような好ましい転帰であっても、依然として疑問が残るとKuerer氏は言う。「患者に残存病変が認められないのならば、なぜ手術が必要なのでしょうか?」
これまでの問題点は、全身治療でpCRを得た患者を特定するための唯一の方法が、外科的に切除した検体の病理学的評価のみであったことである。臨床的反応を評価する上で乳房や腋窩リンパ節の理学的検査は非常に不正確であることが知られている。また、乳房の画像診断は非常に改善されたが、全身治療後の残存病変の有無を確認する上で感受性や特異性が不十分である。
そこでKuerer氏らは、画像ガイド下細針生検に目を向けた。この方法では、超音波やマンモグラフィのガイド下で乳房から腫瘍領域に針を挿入して回転させ、周辺の異なる部位から10数個の検体を採取する。術前補助全身治療を受けたトリプルネガティブまたはHER2陽性乳がんの患者40人に対して、術前に画像ガイド下生検を実施し、外科的に切除した患者の検体に関する従来の検査結果とこれらの結果を比較した。
「本試験の結果によると、画像ガイド下生検では約98%の残存病変を正確に特定できました。残りの2%は非常に小さな残存病変であり、放射線療法で簡単に除去できると考えました」とKuerer氏は述べた。同氏らの研究チームは、この知見をAnnals of Surgery誌に昨年発表した。
腋窩手術の回避
画像ガイド下生検によって、乳房のpCRを得た患者を正確に特定でき、乳房手術を回避できることが明らかになると、Kuerer氏らはそれらをさらに応用できないかと考えた。
「われわれにとっての疑問は、化学療法後の乳房に病変が認められないならば、標準的な腋窩手術を行った場合にリンパ節でがんが検出される頻度はどの程度であるかということです」と言う。
リンパ節の病変を評価するための腋窩手術を回避するという考えは、疑問視されることもあった。腋窩手術は通常、原発乳がんの切除術と共に実施されることから、手術自体を行わなければ、リンパ節の病変を見落とすことになり得る。
Kuerer氏らは、腋窩手術が回避可能な場合があるかどうかを検討するため、HER2陽性またはトリプルネガティブ乳がんに対する術前全身治療を受けた患者527人の記録を検証した。初回の超音波検査でリンパ節転移陰性と判定され、乳房の腫瘍が全身治療でpCRを得た患者116人のうち、手術後にリンパ節に残存病変が認められたものはいなかった。初診時にリンパ節転移が認められたが、乳房の腫瘍がpCRを得た患者237人のうち、約90%は最終的な病理検査でリンパ節転移陰性と判定された。
Kuerer氏によると、この知見は、全身治療でpCRを得た乳房腫瘍の患者において腋窩手術を回避する上での根拠となる。病変のある乳房と腋窩の双方で手術を回避することがこのような患者で適切かどうかは、臨床試験で現在検討されている。
臨床試験によって道が開かれる
試験(No. 2016-0046)に組み入れる患者は、ステージIまたはIIのHER2陽性またはトリプルネガティブ乳がん(5 cm以下)であることが病理検査で確定し、初回の超音波検査で腋窩リンパ節病変が4個以下であった40歳以上の女性である。当該患者は、腫瘍専門医の指示のもとで標準的な術前補助全身治療を受ける。術前補助治療の終了後、画像ガイド下生検でpCRと評価された患者は手術を受けず、全乳房の放射線療法を受ける。生検で病変が認められた患者は、放射線療法施行前に乳房およびリンパ節の標準的な手術を受ける。
通常5~6カ月の術前補助療法の間、乳房について標準的な画像診断を用いて患者をモニタリングする。画像ガイド下生検に適格であり、手術を回避できる可能性のある患者については、最終的な画像で乳房の病変が2 cm以下とする。
「この大きさを選択した理由は、異常部位がその程度まで縮小すれば、手術と同程度に、針生検で当該部位の正確な検体を採取することができるからです」とKuerer氏は述べた。
また、初回の超音波検査でリンパ節転移陰性と判定された患者には、腋窩手術を行わない。全身治療前の生検で1~4個の腋窩リンパ節病変が認められた患者には、腋窩リンパ節を標的として切除するが、非常に小さい切開で当該リンパ節を除去する。
本試験では、MDアンダーソンやその他の施設の患者を組み入れる。それらの施設には、MDアンダーソンの共同施設であるニュージャージー州カムデン・クーパーのMDアンダーソンがんセンター、アリゾナ州ギルバートのBanner MDアンダーソンがんセンターが含まれる。これまでに患者7人が組み入れられているが、最終的には50人を組み入れる予定である。すべての患者について、5年間、6カ月ごとに乳房の画像診断および診察を行って追跡する。
本試験は、より多くの乳がん患者に低侵襲治療の選択肢を与える上での最初のステップになる可能性がある。
「乳がんの治療を目的とした新薬やより改良された薬剤が、絶えず発見されています。したがって、乳がんやその他の固形腫瘍の非常に多くの患者にとって、いずれ手術が不要になる日が来ると考えています」とKuerer氏は述べた。
【写真キャプション】
トリプルネガティブ乳がん患者における術前補助化学療法前のマンモグラフィ画像では腫瘍(円形)がはっきりと見える(左図)。化学療法後のマンモグラフィ画像と画像ガイド下針生検では残存腫瘍は認められなかった(右図)。Henry Kuerer氏による画像提供。
For more information, contact Dr. Henry Kuerer at 713-745-5043 or hkuerer@mdanderson.org. For more information about clinical trials at MD Anderson, visit www.clinicaltrials.org.
FURTHER READING
Kuerer HM, Rauch GM, Krishnamurthy S, et al. A clinical feasibility trial for identification of exceptional responders in whom breast cancer surgery can be eliminated following neoadjuvant systemic therapy. Ann Surg. 2017;267:945–931.
Kuerer HM, Vrancken Peeters MTFD, Rea DW, et al. Nonoperative management for invasive breast cancer after neoadjuvant systemic therapy: conceptual basis and fundamental international feasibility clinical trials. Ann Surg Oncol. 2017;24:2855–2862.
Tadros AB, Yang WT, Krishnamurthy S, et al. Identification of patients with documented pathologic complete response in the breast after neoadjuvant chemotherapy for omission of axillary surgery. JAMA Surg. 2017; 152:665–670.
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