乳がん発症ハイリスク女性で予防薬を服用するのはわずか7人に1人

発信元:NHS(英国医療サービス) 

インディペンデント紙(Independent Online)は、「乳がん発症がハイリスクの女性患者のうち90%近くが、副作用の恐怖や、”運命であると認識している”という理由により乳がん予防薬を避けている」と報じた。

現行のガイドラインでは、乳がんの家族歴があることから乳がん発症リスクが高いと考えられている女性に対して、タモキシフェンと呼ばれる薬剤を推奨している。

タモキシフェンは乳がん発症のリスクを減少させる可能性があるが、この薬剤は通常5年間毎日服用しなければならず、ホットフラッシュや疲労、吐き気などの副作用が出ることがある。

ある新たな研究で、タモキシフェンを勧められ、英国の専門施設に紹介された258人のハイリスク女性について調査をおこなった。

研究者らによると、タモキシフェンの服用を決意した女性はおよそ7人中1人(14.7%)にすぎなかった。

258人のうち16人の女性が追跡調査の面接に応じ、タモキシフェンを服用した、またはしなかった理由について説明をした。

子供がいる女性の方が、その予防法について合意する傾向があることがわかった。

この予防法を拒否する主な理由としては、長期間の薬剤の服用に対して抵抗があること、乳がんを発症するかどうかは運命によるという信念があること、であった。

英国国立医療技術評価機構(NICE)は、乳がんの家族歴がある人向けに、予防療法についてメリットやデメリットの要点をまとめた意思決定支援ガイドシリーズを作成した。

タモキシフェンは、できるだけ多くの女性が服用すべきというものではなく、乳がん発症が中程度~ハイリスクである更年期前の女性のみを対象とした予防薬である。

この記事はどういったものか?

この研究はUniversity College of London(UCL)や、シカゴにあるNorthwestern大学など、英国および米国の複数の施設の研究者らによって行われた。

外部からの資金援助は報告されていない。ただし、各著者らは、アストラゼネカ社やノバルティス社といった製薬会社からの研究資金の受領を報告している。

この研究は、査読済みのBreast Cancer Research and Treatment誌に掲載された。インターネットでは今のところ未公開である。

概して、この研究に対する英国メディアの報道はバランスが取れたものであり、女性らの予防療法の利用に影響を与えているさまざまな理由を取り上げている。

しかし、中にはサン紙のように「タモキシフェンは、1日たった6ペンス(約9円)で発症の可能性を3分の1減少できる」など、過度に単純化された見出しもあり、読者に、全ての女性はタモキシフェンによって利益を受けられると思わせ、誤解を与えかねない。この薬剤はごく少数の女性に推奨されているにすぎない。

この研究はどのようなものか?

この横断研究は、乳がん発症リスクが高い女性に対する予防療法としての薬剤服用率について、よりよい理解を得ることを目的とした。

研究者らがアプローチしたのは、乳がんの家族歴があり、英国の専門施設を受診した女性らである。

乳がんに対する予防療法をどれくらいの女性が受けているか、またその決定の背景にある理由は何かを把握するために、女性らに対しアンケート調査や面接調査の完遂が可能であるか尋ねた。

しかしこのような観察研究で得られるのは見通しにすぎず、確定的な結果は得られない。

この研究に関わったのは?

本調査は、2015年9月~2016年12月の間に、乳がんの家族歴があり、英国にある20施設のうちの1施設に紹介され受診していた女性らを対象とした。

対象となったのは、乳がん発症について、中程度またはハイリスクであると診断され、タモキシフェンの適用となる18才以上の女性である。

診察後、参加者らは、アンケート調査または面接調査に割り当てられた。

打診された女性は合計732人で、このうち258人がアンケートに回答し、16人が面接に応じた。

アンケート調査は研究の最初に行われ、3カ月目に追跡調査のためのアンケートが送付された。

最初のアンケート調査での質問は以下のとおり:

・結婚状況(未婚・離婚・別居・死別)

・民族性(白人/その他)

・教育レベル(学位取得レベル/学位取得以下のレベル)

・雇用(フルタイム/パートタイム/その他)

・自己報告による健康状態(悪い/普通/良い/非常に良い)

・年令(35才以下;36~49才;50才以上)

・子供の有無

また、重複剥奪指標(Index of Multiple Deprivation;貧困の測定指標)のスコアに基づいて、最も貧困~全く貧困でないグループのカテゴリーに分けた。

3カ月目の追跡調査のアンケートでは、以下の文を用いて、女性らにタモキシフェン服用に対する気持ちを尋ねた。

・タモキシフェンを服用しないことを即決した。

・少し考えてから、タモキシフェンを服用しないことに決めた。

・かかりつけの総合診療医に相談し、タモキシフェンを服用しないことに決めた。

・かかりつけの総合診療医に相談したが、医師がタモキシフェンを処方しないようであった。

・かかりつけの総合診療医から処方されたタモキシフェンの処方箋がある。

・現在タモキシフェンを服用している。

最後の2つの文章で回答した女性らは、タモキシフェン服用と分類した。

基本的な結果は?

アンケート調査結果

アンケート調査を終えた258人の女性の平均年齢は45才であった。

この女性らの大半は、子供がいる、白人である、教育は学位取得レベル以下、結婚しているか同居、フルタイム勤務、であった。

この集団におけるタモキシフェン服用は14.7%で、およそ7人に1人の割合であった。子供がいる女性は、子供がいない女性と比較して、より予防療法を行う傾向があった(それぞれ17.6% と3.8%)。

この結果は統計的に有意である(オッズ比[OR] 5.26、95% 信頼区間:1.13~24.49)が、信頼区間が広いのはこれが意思決定にどの程度影響したかの不確実性を示している。

タモキシフェン服用に影響した他の要素はみられなかった。

面接調査結果

研究者らは、16人との面接から、女性らの意思決定過程に影響したテーマを次のとおり報告した。

・意思決定の際に子供のことを考える-予防療法を行うかどうかを決める際、女性らは自分自身だけでなく子供のことを考慮している。副作用や、副作用が家庭生活に与える影響を気にしていた。

・周りの人の薬物療法に対する考えの影響-女性らは、薬物療法に対する家庭の支援体制の姿勢や考え方に影響されていた。例えば、薬物療法に対して否定的な文化がある場合、女性らは予防療法を受けない傾向があった。女性らはまた、過去にタモキシフェンを服用したことがある家族の経験や、この療法による個人的な成功体験に影響されていた。

・リスクに対する感情的な反応-女性らは、不安、恐れ、拒絶、がんはコントロール不可能であるという気持ちなど、リスクに対してさまざまな感情を抱いていた。

研究者らは、これらの結果をどう解釈したか?

研究者らは次のように結論づけた。「タモキシフェンの服用は臨床現場では少ない。服用に関して社会学的、人口学的な差はなく、乳がん予防療法の導入ががん罹患率の社会経済的格差を生むことはなさそうである」。

「女性らの意思決定は家庭での優先順位、特に子供の有無に影響されていた」。

結論

これは、乳がん発症がハイリスクであると診断された女性のホルモン薬の予防的な服用について、背後にある理由を調査した貴重な研究である。

いくつかの注目すべき議題が明らかになった。例えば、社会経済的な要因は意思決定に影響していないようだが、女性らは家族に影響を受け、子供がいるかどうかを考慮することがわかった。

研究者らが述べるように、この研究では、女性らが十分に説明を受けたうえで決定を下せるように、ハイリスクの女性と、専門の医療従事者との間で十分なコンサルテーションを行い、予防療法についての考え方や見解について話し合う必要性に注目した。

しかし補足すべき点が少しある。この研究で考察したのは比較的少人数の女性の意見についてである。特に、面接調査を行った女性はたった16人であった。これらの意見は、乳がん発症がハイリスクである全女性の意見を代表しているとは言えない。

この研究のほとんど(97%)の女性が白人であり、他の人種の女性の意見は違うこともあり得る。

また、この研究で追跡期間はたったの3カ月であった。タモキシフェンの服用期間は5年間が推奨されているため、この研究では予防療法を後になって中止した可能性がある女性のデータを得ることができなかった。

最後に、この記事が関連するのは英国のごく一部の人たちにすぎないことは指摘に値する。

乳房に対する意識、ホルモン避妊薬やホルモン補充療法(HRT)についての忠告、検診への参加など、多くの女性で乳がんのリスクを下げる、よりふさわしい方法が他にもある。

翻訳担当者 平沢 沙枝

監修 尾崎 由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)

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原文掲載日 

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