乳がん検診推奨グレード(USPSTF)[2016年1月最新版]
* 米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、米国医療研究・品質調査機構(AHRQ)の独立委員会で、検診や予防医療の研究レビューを行って米国政府の推奨グレードを作成します。
乳がん検診推奨の概要 2016年1月最終更新版
対象 グレード 推奨事項 (推奨グレードの定義 参照)
50~74歳の女性 :【B】
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、50~74歳の女性に対して、マンモグラフィによる乳がん検診を2年に1回受診することを推奨する。
40~49歳の女性 :【C】
50歳未満の女性がマンモグラフィによる乳がん検診を開始するかどうかは、個人の判断に基づくべきである。見込まれる不利益よりも見込まれる利益を重視する女性は、40~49歳の間に2年に1回の検診を開始してもよい。
・乳がんリスクが平均的な女性では、マンモグラフィ検査による利益のほとんどは、50〜74歳の間に受ける2年に1回の検診から得られる。すべての年齢集団の中で、60~69歳の女性はマンモグラフィ検診によって乳がん死を回避できる可能性が最も高い。一方、40~49歳の女性はマンモグラフィ検診によって乳がん死のリスクが減る可能性はあるものの、回避できる死亡数は高齢女性の場合よりも少なく、しかも偽陽性結果とそれによって生じる不必要な生検の数はより多くなる。女性が40代前半から後半に移るにつれ、利益と不利益のバランスはおそらく改善していく。
・偽陽性結果および不必要な生検に加えて、定期的なマンモグラフィ検診を受けるすべての女性には、もし検診を受けなければ生涯を通じて健康を脅かすこともなく、または気づくことさえなかったであろう乳がん(「過剰診断」として知られている。非浸潤性および浸潤性を問わず)が診断され、治療されてしまうリスクがある。若年からのマンモグラフィ検診の開始およびより頻繁な検診は、過剰診断およびその後の過剰治療のリスクを増大させる可能性がある。
・親、兄弟姉妹、または子が乳がんである女性では乳がんリスクが高いため、40歳代からの検診開始によって平均的なリスクの女性よりも利益を得る可能性がある。
*推奨グレード「C」の実施に関する情報は、下部の「臨床的検討事項」の項を参照のこと。
75歳以上の女性 :【I】
USPSTFは、75歳以上の女性においてマンモグラフィによる乳がん検診の利益と不利益のバランスを評価する上で、現在の証拠は不十分であると結論付けている。
すべての女性 :【I】
USPSTFは、乳がんに対する一次検診の方法としての乳腺デジタルトモシンセシス検査(DBT)の利益と不利益を評価する上で、現在の証拠は不十分であると結論付けている。
高濃度乳腺を有する女性 :【I 】
USPSTFは、他の点ではマンモグラフィ検査陰性であるが高濃度乳腺を有することが判明した女性において、乳房超音波検査、MRI、乳腺トモシンセシス検査、また他の方法を補助的に用いた場合の利益と不利益のバランスを評価する上で、現在の証拠は不十分であると結論付けている。
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上記の推奨は、次に述べる特徴を有する、症状のない40歳以上の女性を対象とする。乳がんを発症していない、または過去にリスクの高い乳線病変があるとの診断を受けてない女性。および既知の遺伝子変異(BRCA1もしくはBRCA2遺伝子変異、または他の家族性乳がん症候群など)、あるいは若年時の胸部への放射線照射歴を有するために乳がんリスクが高まっていない女性。
*サイト注:参考「乳がん推奨グレード2009年版」はこちら
===========JAMA誌掲載
■ 序文
米国予防医学専門委員会(USPSTF)は、明らかな関連徴候や症状のない患者に対する予防医療の有効性について、推奨グレードを作成している。
この推奨グレードは、予防医療による利益と不利益の両方についてのエビデンス、および両者のバランスの評価に基づくものである。評価に際して、予防医療にかかる費用は考慮に入れていない。
USPSTFでは、臨床での判断には、エビデンス以外に考慮すべき事柄が多数ともなうと捉えている。臨床医はエビデンスを理解しているべきだが、そのうえで個々の患者や状況に応じて個別に判断を下す必要がある。同様にUSPSTFでは、政策や健康保険の保障範囲に関する判断においても、臨床上の利益と不利益のエビデンス以外に考慮すべき事柄があることに注意を促している。
■ 根拠
重要性
乳がんは、がんで亡くなる米国女性のなかで2番目に多い死因である。2015年には、推計23万2000人が乳がんと診断され、4万人が乳がんにより死亡した。乳がんと診断されることが最も多い年齢は55〜64歳で、乳がんによる死亡時の年齢の中央値は68歳である[1]。
検診と早期治療の利益と不利益
USPSTFの見解では、40~74歳女性の乳がんによる死亡率がマンモグラフィ検診によって減少することには、十分なエビデンスがある。マンモグラフィ検診によって免れる乳がん死の数は年齢とともに増加する。女性がマンモグラフィ検診から受ける利益は、40~49歳で最も少なく、60~69歳で最大となる。年齢が最も重要な乳がんのリスク因子であり、年齢とともにマンモグラフィ検診の利益増加が観察された一因には、少なくとも年齢によるリスク因子の増加がある。40~49歳女性のうち、乳がんである1親等の肉親がいる人の乳がんリスクは、家族歴のない50〜59歳女性と同程度である。75歳以上の女性については、マンモグラフィ検診による利益を直接示したエビデンスはない。
USPSTFの見解では、40〜74歳女性に乳がんのマンモグラフィ検診による不利益があることには、十分なエビデンスがある。最も重大な不利益は、非浸潤がんや、生涯にわたって健康を脅かすこともなく、また気づくこともなかったであろう浸潤がんが診断され、治療がなされることである(過剰診断と過剰治療)。また、偽陽性結果が得られることはよくあり、その場合、不要でときに侵襲的な経過観察検査につながり、心理的な悪影響(不安など)が生じる可能性もある。偽陰性結果(がんの見落とし)が得られることもあり、その場合、誤った安心を与えかねない。また、発生割合は少ないと予測されるが、マンモグラフィの放射線によって乳がんが生じ、その結果命を落とすこともあり得る。
USPSTFの見解では、乳がんの一次検診方法としての乳腺デジタルトモシンセシス検査(DBT)による利益と不利益については、エビデンスが不十分である。同様に、マンモグラフィ検査陰性であるが高濃度乳腺であると判明した女性に対する乳房超音波検査やMRI、DBT、また他の方法を補助的に用いた場合の利益と不利益についても、エビデンスが不十分である。いずれの場合も、こうした方法の正確さに関する情報は多少存在するが、検診に用いたことによる、乳がんの発生率や死亡率、過剰診断率など健康に関する転帰への影響については情報がない。
USPSTFの評価
USPSTFの結論では、50〜74歳女性に対するマンモグラフィ検診の正味利益は中程度である(エビデンスの確実性は中程度)。
USPSTFの結論では、40〜49歳女性の一般集団に対するマンモグラフィ検診の正味の利益は認められるものの、わずかである(エビデンスの確実性は中程度)。
USPSTFの結論では、75歳以上の女性に対するマンモグラフィ検診のエビデンスは不十分で、利益と不利益のバランスを決定することはできない。
USPSTFの結論では、乳がんの一次検診の画像検査として、DBTはエビデンスが不十分で、その利益と不利益のバランスを決定することはできない。
USPSTFの結論では、他の点ではマンモグラフィ検診陰性であるが高濃度乳腺であると判明した女性に対する乳房超音波検査、MRI、DBT、また他の方法を補助的に用いた乳がん検診は、エビデンスが不十分で、利益と不利益のバランスを決定することはできない。
■ 臨床上の留意事項
検診の有用性
USPSTFの依頼により行われた系統的エビデンスレビューに含まれる臨床試験のメタ分析の結果概要を表1に示した。10年間に60~69歳の女性10,000人に検診を実施することによる乳がん死亡の減少は21件(95%CI:11~32)であった。これより若い世代では検診の効果は小さくなり、50~59歳の女性10,000人に検診を実施することによる乳がん死亡の減少は8件(CI:2~17)、40~49歳では3件(CI:0~9)であった[2,3] 。分析の対象とした臨床試験の大半は30年以上前に患者登録を開始したものであるため、この結果は現在行われているマンモグラフィ検査技術による乳がん死亡減少の可能性を反映していないかもしれない。マンモグラフィ画像は以前より進歩しており、臨床試験の当時よりも治療可能なステージの乳がんを検出できている可能性がある。一方、乳がん治療もまた進歩しており、早期発見の有利性も減少していることから、当時の臨床試験において非検診群に割り付けられ乳がんで死亡した患者も、現在であれば生存していた可能性はある。
検診の不利益
検診による不利益でもっとも重要なものは、検査をしなければ発見されることのない、または健康に影響を与えることのないがんまでもが浸潤性の有無に関わらず検出され、治療がなされることによりかえって健康を害する可能性がある点である(過剰診断、過剰治療)。現在マンモグラフィ検診によってがんと診断される事例のうち過剰診断である割合は現時点の科学では正確に判断することはできず、その推定についても、元データおよび計算方法によって数値が大きく異なっている[2,4] 。米国における浸潤性および非浸潤性乳がんの合計の診断率は、マンモグラフィ検査の時代となって50%増加した(図)[5] 。この診断率増加が、過剰診断によるものか、その他の理由によるものかの割合を明らかにすることは不可能である。仮にこの診断率増加がすべて過剰診断によるものであるとすると、現在、乳がんと診断されがん治療を受ける女性の3人に1人は、検診を受けなければがんが検出されることはなく、健康被害を受けることもないことになる。マンモグラフィ検診が乳がん死亡に与える影響についてランダム化比較対照試験により検討した最良の研究では、約10年間に乳がんと診断された女性の5人に1人が過剰診断であったと示唆されている[6] 。USPSTFの支援を受けCancer Intervention and Surveillance Modeling Network(CISNET)が主導したモデリング研究でも、前提条件の違いを反映して結果に差が出ているが、50~74歳に隔年検診を受け、乳がんと診断された女性のうち過剰診断であったと推定される割合の中央値は8人に1人であった。この過剰診断の率は、スクリーニング開始年齢が低い場合や毎年検診を実施した場合に上昇する[7,8] 。この「乳がん症例の8人に1人が過剰診断」という控えめな推定をもとにしたとして、検診で乳がんによる死亡を防ぐことができる女性1人に対して、不必要な治療を受ける女性が2~3人いる計算になる。
検診の不利益でこのほか主要なものとしては偽陽性および偽陰性がある。偽陽性の場合には追加の画像診断が必要となり、乳房生検が行われることも多い。乳がんサーベイランス・コンソーシアム(BCSC)のデジタルマンモグラフィの登録データをもとに、検診1集団あたりにおけるこれらの不利益の発生率を表2にまとめた。BCSCはマンモグラフィデータを登録する5機関と、がん登録機関と連携する2つの協力機関とで構成する全米の協力ネットワークである[9] 。(表2の結果は表1と時間軸が異なることに注意。表2は検診1集団、表1は10年。)
検診の開始時期
臨床試験、観察研究、モデリング研究のいずれにおいても、定期的なマンモグラフィ検診で乳がん死亡を予防できる可能性は年齢とともに上昇し、特定の年齢から急上昇するのではなく、徐々に上昇するものである、ということが示されている。これとは対照的に、検診による不利益は一定もしくは年齢とともに減少する。たとえば、マンモグラフィ検診の結果を受けて乳房生検を実施する事例は40~49歳と60~69歳でほぼ同数であるが、後者のほうが生検により浸潤性の乳がんが多く発見される。つまり、利益と不利益のバランスは年齢とともに良くなっていく(表3)。
マンモグラフィ検診による不利益も確かに存在するが、少なくとも50~74歳の大部分においてはマンモグラフィ検診の利益が不利益を上回り、60代で最大というのがUSPSTFの結論である。40代女性では、定期のマンモグラフィ検診を開始することによる利益は小さく、それ以上の年代に比べ不利益が生じる事例が多い。このため40代では利益が不利益を上回ってはいるものの、その程度は小さく、利益・不利益のバランスはそれ以上の年代に比べ個人の価値観や好みに左右されることがある。40代女性は、非常に重要ながら頻度はさほどでもない利益(乳がん死亡の減少)と、それより頻度が高く無視できない種々の不利益(過剰診断および過剰治療、偽陽性による不必要かつ侵襲的なこともある追加検査や精神的な影響、偽陰性による誤った安心感)とを十分に吟味すべきである。マンモグラフィ検診を受けることで想定される利益が、検診による不利益を避けることより重大であると考える場合は、十分な情報を得たうえで検診開始を決定するとよい。
定期検診を50歳でなく40歳から開始することにより想定される利益および不利益について、臨床試験研究、モデル研究とも、データが研究対象とする集団の性格に影響を受けているため正確に予測することはできていない。しかし、検診を40歳に開始するか50歳に開始するかの長短をもっともわかりやすく可視化しているのはモデル研究の結果かもしれない。CISNETは、現在のデジタルマンモグラフィ検診の生涯における利益と不利益について、検診開始年齢、検診終了年齢、検診間隔を変化させて予測するモデリング研究を実施した。各モデルは浸潤性・非浸潤性乳がんの自然歴の解釈や、デジタルマンモグラフィによるがん検出が生存に与える効果の評価などに違いがある。また、各モデルとも被験者は検診を必ず受け、現在の最良の治療を生涯にわたって受けることができるという理想的な状況を想定している。表3は、50~74歳に隔年検診を受ける場合と、40~74歳に隔年検診を受ける場合に予測される生涯の利益および不利益について、その中央値と範囲を比較したものである。(表3は、表1および表2と集団の単位[1,000人あたり対10,000人あたり]ならびに考慮する期間[生涯対10年または1イベント]が異なることに注意。)
ただし、検診を40歳で始めるか50歳まで待つかの2つしか選択肢はないと考えるのは誤りである。40代の10年間を通じ、乳がんの発生率は上昇していく。検診の利益と不利益のバランスもこの10年間に徐々に変化するのであり、40代後半では40代前半よりも検診の利益のほうが大きくなっていく。実際、CISNETのモデル研究において40~49歳の女性に対する検診の利益が最も大きいのは45歳に検診を開始した場合であることが示唆されている[7,8]。
検診開始時期に影響を与えるリスク因子
大部分の女性にとっては加齢がもっとも重要な乳がんリスク因子である一方、BCSCの疫学データでは、40~49歳の女性で一親等親族に乳がん患者がいる場合、乳がんのリスクは約2倍になることが示唆されている[2,9] 。さらに、CISNETのモデル研究では、乳がんリスクが約2倍の女性がデジタルマンモグラフィによる毎年検診を40歳に開始する場合の不利益・利益の比(乳がん死亡の予防1000人あたりの偽陽性または過剰診断の事例数)は、乳がんリスクが通常の女性が隔年検診を50歳に開始する場合と同程度であることも示唆されている[7,8]。 なお、この研究は公式に臨床試験で行われたものではないため、50~74歳の女性が検診で得る利益と同程度であるとする直接的なエビデンスはない。しかし、乳がんの疾病負担や得られる利益の可能性を考慮すると、一親等親族(親、子、きょうだい)に乳がん患者がいる40~49歳の女性については、50歳となるのを待たずに検診を始めることも検討に値する。他の多くのリスク因子も乳がんと関連することが疫学研究により示されているが、ほとんどはその関連性が脆弱であるか一貫せず、検診で予想される利益と不利益の検討には影響しないと思われる。米国国立がん研究所(NCI)の乳がんリスクアセスメントツール(Breast Cancer Risk Assessment Tool, www.cancer.gov/BCRISKTOOL 外部リンク)などのリスク計算ツールは、リスクグループごとに見ると実際の転帰に近い予測を出すが、女性一人一人の乳がんリスクを正確に予測できるものではない[10]。
検診の頻度
検診を受け始めると決めたら次はどれくらいの頻度で受けるかが問題となる。マンモグラフィの毎年検診とそれより長い間隔の検診を比較する臨床試験は、どの年齢層でも実施されていない。マンモグラフィ検診が40~74歳の女性における乳がん死亡を減少させる効果があることを示したランダム化臨床試験では、検診の間隔は12~33カ月と幅があった[2,3] 。マンモグラフィによる毎年検診の利益が明らかに大きいことを示す臨床試験はないが、各臨床試験の内容に差があるため、検診の利益に差がないとは確実には言えない。マンモグラフィ検診の間隔を変える効果を評価した観察研究では、50歳以上の女性を対象に隔年検診または毎年検診を行ったところ、両群の乳がん死亡の数に差がなかったという結果が得られている[2,3]。
検診開始年齢にかかわらず、マンモグラフィ検診を隔年から毎年に変えた場合の各モデルの予測はいずれも、乳がん死亡がわずかに減少する一方で不利益の発生数が大きく増加する、という結果になっている(表4)[7,8]。 大部分の女性にとって、マンモグラフィによる隔年検診が全体的な利益と不利益のバランスからみてベスト、というのがUSPSTFの結論である。
検診終了を考慮する時期
70~74歳の女性を対象とした臨床試験データからは何の結論も得られていない。USPSTFは2009年推奨において[11] 、マンモグラフィ検診の推奨を74歳まで拡大したところである。これは60~69歳の女性における利益のほとんどは74歳までは継続するであろうという外挿に基づくものであり、また、当時行われたモデル研究もこの想定を支持していた。現在のCISNETのモデルでは、70~74歳で余命に影響するような中等度または重篤な合併症を有する女性については、マンモグラフィ検診による利益は期待できないことが示唆されている[7,8,12]。 ここで言う中等度の合併症とは心血管疾患、麻痺、糖尿病などである。また、重篤な合併症とはAIDS、慢性閉塞性肺疾患、肝疾患、慢性腎不全、認知症、うっ血性心不全、中等度の複数の合併症のほか、心筋梗塞、潰瘍、リューマチなどがある(これらの例に限定するものではない)[12]。
75歳以上の女性における検診
USPSTFは、75歳以上の女性におけるマンモグラフィ検診の利益・不利益のバランスに関して十分なエビデンスを得ていない。CISNETのモデルでは、合併症がないまたは弱いものしかない場合は、74歳を過ぎてもマンモグラフィの隔年検診により総じて利益が得られることが示唆されているが[7,8] 、この年齢層における検診に関するランダム化試験は行われていない[2,3]。
一次検診法としてのデジタルトモシンセシス(DBT)
USPSTFは、乳がんの一次検診法としてのDBT(デジタルトモシンセシス)の利益・不利益のバランスに関して十分なエビデンスを得ていない。
背景
DBTに関するエビデンスそのものが少ない。乳がんの一次検診法としてのデジタルトモシンセシスの特性に関する研究1件のみがシステマティックエビデンスレビューの対象とする基準に合致した[13]。
想定される利益
限られたデータであるが、デジタルトモシンセシスは従来のデジタルマンモグラフィ単独の検診と比べ、要精検率(追加の撮影または検査が必要となる率)を低下させ、がんの検出率を増加させると見られる[13] 。しかしながら、この研究デザインでは、新たに検出できたがんが臨床上重要であるかどうか(つまり過剰診断の程度はどうか)や、デジタルマンモグラフィより早期に検出できたことによる臨床上の利益の増分があるのかが判定できない。また、デジタルトモシンセシスに関する研究において、乳がんの罹患、乳がんによる死亡、QOL(生活の質)などの臨床上の転帰を確認したものはない[13]。
想定される不利益
現在実施されているデジタルトモシンセシス(DBT)の手法では、通常、受検者は従来のデジタルマンモグラフィの約2倍の線量に曝露される[13] 。2013年、米国食品医薬品局(FDA)により、3D映像から2D画像を再構築する技術を承認したが、この技術によりDBTの線量は低減される。マンモグラフィ検診を実施する医療機関でどの程度この新しいソフトウェア技術が導入されているかの詳細は不明であるが、現時点では導入率は低いと考えられる。また、何らかの異常所見を認める女性にあっては、DBT検診を実施した場合、デジタルマンモグラフィと比べ乳房生検実施率が上昇する可能性がある[13]。
高濃度乳房の場合の一次検診および補助的検診
マンモグラフィ検診では陰性となってしまう高濃度乳房の女性に対する補助的な乳がん検診法としての胸部超音波検査、MRI、DBTなどの検査法の利益・不利益のバランスについて、USPSTFは判断に必要なエビデンスを得ていない。
高濃度乳房に関する疫学情報
米国でもっとも普通に用いられる乳房濃度の分類法は米国放射線学会のBI-RADS(乳腺画像報告データシステム、Breast Imaging Reporting and Data System)における4段階評価である(a=ほぼ全体が脂肪、b=一部に線維腺組織が散在、c=不均一に高濃度部分があり小腫瘤は不明瞭の可能性、d=完全に高濃度のためマンモグラフィの感度低下)。BCSCのデータによると、40~74歳の女性のうち約2500万人(約43%)は不均一または完全な高濃度乳房に分類されることが示されている。高濃度乳房の割合は40~49歳でもっとも高く、その後加齢とともに減少する[14]。
高濃度乳房は乳がんのリスク因子である。BCSCのデータでは、40~49歳で不均一または完全な高濃度乳房の女性における浸潤性乳がんの相対危険度は、平均的な乳房の女性と比較して1.23であることが示されている。同様に、50~64歳では1.29、65~74歳では1.30である[7]。 しかしその一方、BCSCのデータによると、高濃度乳房で乳がんとなった女性について、乳がんのステージ、治療法、検出法、その他リスク要因で補正後も、乳がん死亡のリスクが高くなるわけではない[15]。
高濃度乳房における一次検診法の特性
乳房が高濃度になるほどマンモグラフィによるがん検出の感度と特異度が低下する。30万人以上の女性を対象としたBCSCの研究では、乳房の濃度がもっとも低いカテゴリともっとも高いカテゴリを比べた場合、濃度上昇に従い感度が87%から63%に、特異度が96%から90%に低下することが明らかになっている[16]。
BI-RADSによる女性の乳房の濃度分類は時とともに変更される可能性がある。米国の放射線科医による良質な研究によると、検診を複数回実施することによる分類の大きな変更(つまり、cまたはdの『高濃度』からaまたはbの『通常』に変わる、またはその逆)が13~19%の女性で発生することが示されている[17,18] 。なお、ホルモン治療を受けている女性や他の疾患による治療を受けている女性については、生理学的な変化によって各検査での乳腺濃度分類に差が出た可能性があることから、これらの研究対象からは除かれている。年によって乳腺濃度のステータス分類が変わるとなると、乳がんリスクの評価や、検診や治療などの決定が難しくなる。
一次検診の頻度
BCSCの研究で、40~49歳で完全な高濃度乳房(BI-RADSのカテゴリーd)の女性の場合、マンモグラフィ検診の隔年実施は毎年実施に比べ進行がん(ステージ2B以上)のリスク(オッズ比2.39 [CI: 1.06~3.39])および20mm以上の乳腺腫瘍のリスク(オッズ比2.39 [CI: 1.37~3.18])が高いことが示されている。このリスクは50~74歳では認められない。[19] どの年齢層でもリンパ節転移に差はなかった。罹患あるいは死亡などのエンドポイントに関する情報がないため、対象者の女性の最終的な転帰に差があるかどうかは不明である[17,19]。
40~74歳で乳腺濃度が高い女性は、平均的な女性と比べ、偽陽性、不必要な乳房生検、偽陰性のリスクがいずれも高い。(毎年と隔年での比較で)検診頻度が高いと、検診に関連する不利益の可能性も高くなる。BCSCのデータによると、完全な高濃度乳房の40~49歳女性が10年間毎年検診を受けた場合、偽陽性の累積確率は約69%であることが示されており、隔年検診の場合に約21%であるのとは対照的である。同様に、不必要な乳房生検の率も、毎年検診では12%であるのに対し、隔年検診では3%である[17,18]。
補助的な検診
予想される利益:補助的な検診に関するエビデンスは現時点では限られているが、マンモグラフィでは陰性となる高濃度乳房と判明した女性でも超音波検査またはMRIにより乳がんを検出できる一方で、偽陽性も相当数発生することが示唆されている。高濃度乳房の女性におけるデジタルトモシンセシス(DBT)に関するデータもまた限られているが、短期的な研究の結果ではDBTでも(マンモグラフィでわからなかった)乳がんを検出することができる。これらの補助検診によって発見された乳がんの大半は浸潤性で、非浸潤性乳管がん(DCIS)は少ない[17,18]。短期的にがんの検出例が増えたからといって、補助的検診によって治療関連死亡の減少、乳がん死亡の減少、QOLの改善などにつながると結論づけることはできない。補助的検診によって乳がんを多く発見することができるとはいえ、その乳がんには次の3つのカテゴリがある。1)早期発見されたことで良い転帰につながる、2)後になって発見された場合と同じ転帰をたどる、3)過剰診断であり、女性の生涯において健康上の問題をもたらすことはなく、不必要な治療によって不利益をもたらす可能性がある。現在得られているデータでは各カテゴリの割合を予測することはできず、そのため補助的検診による健康上の利益の推定も不可能である。
予想される不利益:補助的な乳がん検診で予想される最大の不利益は偽陽性である。マンモグラフィ単独の場合に比べ、超音波またはMRIを併用した場合には要精検ならびに乳房生検の率が上昇する。高濃度乳房の女性に対してDBTを実施した際の要精検率および乳房生検率についてはデータが少ないため結論は出ていない[17,18]。 また、DBTによる過剰診断率への影響も不明である。
現在の実施状況:現時点で、24州ではマンモグラフィ検診を実施した場合に乳房濃度を受検者に通知しなければならないとされている。一部の州では、追加検診を検討するよう文書送付にて通知しなければならないと規定されている。[17] マンモグラフィ検診で陰性となる高濃度乳房と判定された女性に対し追加検診を推奨する、と明確に記載した臨床ガイドラインはない[17]。
評価
高濃度乳房はごく普通に存在する。高濃度乳房は乳がん発症の独立したリスク因子であり(ただし乳がん死亡のリスク因子ではない)、マンモグラフィによる乳がんの発見と正確な同定を困難にする。マンモグラフィ検診を複数回続けると「高濃度」「高濃度でない」の判定が行き来することは多く、こういった判定の変化は生理学的な原因が主たるものではない。検診頻度が高濃度乳房の女性における健康上の転帰に重要な影響を与える可能性を明らかにするため、さらなるエビデンスが求められる。総じて、個別化された検診法の検討に際し乳房濃度がどのような関与をするのか、数多くの重要な疑問が残されたままであり、高濃度乳房の女性に対して特定の検診法を推奨できるほどのエビデンスはまだ得られていない。
予防のためのその他のアプローチ
USPSTFは女性の乳がんリスクを下げるための投薬、リスクアセスメント、遺伝的カウンセリング、BRCA1およびBRCA2が関連するがんの遺伝子検査(乳がん含む)について推奨を出している。各推奨についてはUSPSTFのウェブサイトを参照(www.uspreventiveservicestaskforce.org)。
■ その他の留意事項
研究の必要性とギャップ
試験データはきわめて限定的で、女性にとって最適な検診方法とはどのようなものか、そして臨床医はどのようにしてその検診方法を最適に個別化できるかという問題に直接情報を示すことができない。
生涯を通じて女性の健康を脅かすこともなかったであろう乳がんの過剰診断と、その結果として生じる過剰治療が、乳がん検診にともなう最も重大な不利益である。個々の患者に対し、診断されたがんが進行するか否かを判断できないため、過剰診断の測定は直接的にではなく、間接的に定量化される。
マンモグラフィ検診にともなう過剰診断の規模指数に対する現在の推定値はばらつきが大きい。当分野の研究者は、乳がん検診プログラムにおける過剰診断と過剰治療の最適な測定およびモニタリングのための統一的な定義および基準を批判的に評価し、最終的に合意することを目指して協力しなければならない。
また乳がん検診にともなう過剰診断と、その後の過剰治療の発生を減らす方法を特定するためにも、研究は必要不可欠である。非浸潤性乳管がん(DCIS)は、過剰診断と過剰治療が高率で起こりうる乳腺病変の一例である。マンモグラフィ検診が広く実施されるようになる以前の米国人女性におけるDCISは年間100,000人あたり6人であったのに対し、マンモグラフィ導入後は年間100,000人あたり37人であった。がんに分類された場合、DCISは現在、年間で診断される全乳がん症例の約4分の1を占める。しかし最近は、DCISの名称が議論の対象となっている。その理由は、定義によればDCISは乳管小葉系内にとどまり、転移しないからである(つまり、非浸潤性であり、がんの典型的な性質を欠いている)。したがってDCISは、将来のがん発生の危険因子として、より適切に分類される可能性がある。非浸潤性乳管がんの管理における主な目標は、新規の浸潤性がんの発生を減らすことである。DCISの自然経過、特に検診で発見されたDCISの自然経過についてはあまり理解が進んでいない。DCISの大部分は浸潤性がんに進行しないが、どの患者に浸潤性がんが発生し、どの患者に発生しないかは確実には予測できない。そのため、DCISと診断されたほぼすべての女性が治療を受けた。治療は通常、放射線治療併用または非併用の乳房切除術または乳房部分切除術で、タモキシフェンなどの化学予防薬が投与される場合もあった。DCIS治療後の20年乳がん死亡率はわずか3%で、これが治療の効果によるものなのか、それとも治療を受けているDCIS症例の大半が本質的に良性であるという事実によるものなのかは、喫緊の研究課題である。非進行性または進行が遅い腫瘍と、生活の質や寿命に影響をおよぼす可能性がある腫瘍とを区別するより良い予後指標を開発する必要がある。また、検診で発見されたDCIS女性において、すぐに治療を受けた場合と経過観察またはサーベイランスに遅延治療を組み合わせた場合の長期的な利益と不利益を比較する研究が必要である。有用なスクリーニング試験や質の高いコホート研究の大半は欧州で実施されており、主に70歳未満の白人女性が参加したものである。乳がん検診の有効性の違いに関する直接的なエビデンスには、乳がんによる死亡リスクが増加するアフリカ系米国人女性や、加齢とともに検診の潜在的な利益と不利益のバランスを取ることがむずかしくなる高齢女性などの重要な下位群は含まれていない。
一次検診用の乳腺デジタルトモシンセシス(DBT)検査や、高濃度乳腺女性に対する補助的な検診としての超音波検査およびMRIなどの新技術は、重要な健康上の転帰の改善に有効であること示す明確なエビデンスがないまま、米国では使用が増加している。このような研究は、これらの検診方法を確立された検診プログラムに適切に組み込むために必要である。
最終的に、かなりの割合の米国人女性がマンモグラフィ検診後に高濃度乳腺に分類される。一般集団において乳腺濃度の上昇はよくみられるが、この乳腺濃度の上昇をどのように管理し、女性をどうサポートするのが最善なのか、重要な問題が残っている。乳がん検診の個別化されたリスクに基づくアプローチの一因子として乳腺濃度を考えるのであれば、連続的な乳腺画像報告データシステム(BI-RADS)による評価の妥当性および再現性を改善する研究が有用である。また、高濃度乳腺の女性のうち、補助的な検診を受けて乳がんのリスクが増加しない女性と、補助的な検診を受けずに重大な転帰を報告する女性との間で、診断時の乳がんステージ、乳がん再発率、過剰診断率、そして最も重要な乳がんによる死亡率といった検診転帰を比較する長期のランダム化比較試験や縦断コホート研究が必要である。
■ 考察
レビューの範囲
USPSTFは、本推奨の裏付けとして一連の系統的エビデンスレビューの実施を委託した。はじめのレビューは、乳がん検診によって、乳がんによる死亡率および全死因による死亡率が減少するか、また進行乳がんの発生率および治療関連の疾病率が減少するか、その有効性を問うものだった。また、乳がん検診による不利益についても検討した[2-4, 9]。次の系統的レビューでは、DBTの検査特性に関するエビデンスを要約した[13]。3番目の系統的レビューでは、高濃度乳房の女性に対する補助的な検診についてのエビデンスを評価した。それは、高濃度乳房の分類体系の正確さおよび再現性、診断検査の特性、マンモグラフィ検査で高濃度乳房のみでスクリーニング陰性が確認された女性に対する補助的な検診の利益と不利益などに関するものであった[17, 18]。
これらエビデンスの系統的レビューに加えて、USPSTFはCISNET乳がんワーキンググループの報告の作成を委託し、比較可能な意思決定モデルから、以下の項目に関する情報を提供した。マンモグラフィ検診の最適な開始年齢と終了年齢、および検診の間隔について、加えて、高濃度乳房、乳がんリスク、併存疾患の度合いがマンモグラフィ検診の利益と不利益のバランスにいかに影響を及ぼすのかについての情報である[7, 8]。次いで意思決定モデルでは、女性が生涯にわたって受けるさまざまなマンモグラフィ検診法に関連する、放射線誘発乳がんの患者数と死亡数を推計した[25, 26]。
疾病の負担
毎年、米国女性10万人につき、約125人が新たなに乳がんと診断され、約22人が乳がんにより死亡している。診断時の平均年齢は1970年代終わりから変わらず、64歳である[27]。死亡時の年齢の中央値は68歳である[1]。
リスク因子:その他の考慮事項
乳がんを発症する女性の約5〜10%では、母親または姉妹も同様に乳がんを発症している[2]。
少数の臨床的に重要な因子が、高乳がんリスク(相対リスク[RR], ≥4)と関連付けられている(BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異のある女性、その他の遺伝性の遺伝的症候群の女性、若年時にホジキンリンパ腫などで胸部に高線量の放射線治療を受けたことのある女性である)[2]。上記のリスク因子のある女性は、この推奨の対象外である。
人種および民族は一つの因子であり、人種間、民族間で乳がんによる死亡率の差が拡大していることから、この因子への関心が高まっている。過去、白人女性はアフリカ系アメリカ人女性よりも乳がんの発生率が高かったが、2012年では両者の開きはなくなっている(年間10万人につき、白人128人に対し、アフリカ系アメリカ人124人)[28]。乳がんによる年間死亡数は、白人女性よりもアフリカ系アメリカ人女性で多い(年間10万人につき、白人約31人に対し、アフリカ系アメリカ人約22人)[5]。白人女性とアフリカ系アメリカ人女性で乳がんによる死亡率が異なる理由は、はっきりしていない。一つの要因は両者の生物学的な違いである可能性がある。アフリカ系アメリカ人女性は、より侵襲的で治療抵抗性の高いタイプの乳がん(低分化型腫瘍やトリプルネガティブ型など、組織学的特徴が良好でないがん)に罹患する割合が高い[29, 30]。残念ながら、こうしたタイプのがんは検診の恩恵を受ける可能性が最も低いと考えられる。なぜなら、それらのがんは成長の速度がきわめて速く、検診と検診の間に進行して、全身に広がるからである。一方で、死亡率の違いは、社会経済的な違いや医療制度の不具合によるものである可能性もある。複数の研究で、がんに対する医療の受診が遅れることや、適切な治療またはあらゆる治療を受けないことと、アフリカ系アメリカ人との間に関連があることが示されている[31-33]。また、マンモグラフィ検診のランダム化比較試験に参加するアフリカ系アメリカ人の数はきわめて少ない。そのため、女性全体に推奨されるよりも高頻度および早期に検診を行なうことで、アフリカ系アメリカ人女性の乳がんによる死亡数が減少する、または検診から受ける正味の利益が大きくなると結論付けられるほどの、質の高いエビデンスは存在していない。
スクリーニング検査の精度
乳がん検診の有効性を評価した利用可能なランダム化比較試験のすべてで、フィルムマンモグラフィが使用されていた。現行のデジタルマンモグラフィは、乳がん死の削減効果を直接示したエビデンスがないにもかかわらず、米国では、乳がんの一次検診としてフィルムマンモグラフィを置き換える格好となっている。現行のデジタルマンモグラフィは、フィルムとおよそ同じ診断精度があることが示されているが、50歳未満の女性に対しては、デジタルマンモグラフィのほうが感度は高いように見受けられる[34]。全年齢の女性に対するマンモグラフィ検査は、感度が約77~95%であり、特異度は約94~97%である。
デジタル乳房トモシンセシス(DBT)は新たに導入された技術である。乳がんの一次検診としてDBTの特性を試験した研究に、本系統的エビデンスレビューの選択基準を最小限で満たしたものが1件あった(この基準とは、無症状の集団を対象に試験を行なったこと、陰性結果および陽性結果の両方に対して適用される包括的な参照基準が使用されていたこと、陰性結果に対して1年以上の経過観察を行い、検診で検出できなかった乳がんのフォローを行っていること)。そのため、検査特性の推定は、今後の研究によって変更されうるものである。しかし米国の研究では、DBTの陽性的中率(ここでは、現行のデジタルマンモグラフィと組み合わせて使用され、すべての検査陽性のうち真の陽性[がん]数の占める割合として計算)は、4.6%から10.1%の間である[13]。
マンモグラフィ検診で高濃度乳房とだけ診断された女性に対する補助的検診については、その診断検査の特性について、利用可能な情報がある。なかでも、ハンドヘルド型乳房超音波検査についてのエビデンスが最多で、5件ある。その乳がんの検出感度は80〜83%で、特異度は86〜94%、陽性的中率は3〜8%である。また、高リスクの女性に対するMRIの研究が小規模ながら3件存在し、その乳がんの検出感度は75~100%、特異度は78~89%、陽性予測率は3~33%であった。しかし、こうしたMRIの研究では、対象者を極度に限定しているため、その結果から、検診を受ける一般女性集団へ適用できることは限られている[17, 18]。
早期の発見と治療の有効性
現行のマンモグラフィによる一次検診
マンモグラフィ検診のランダム化比較試験について、Nelson氏らが行なったメタアナリシスの更新版では、年齢層ごとの乳がん死亡率のRRについて、以前行なったUSPSTFのエビデンスレビューの結果と同程度の減少が見出された。年齢層別の合算RRは、39〜49歳女性で0.92(CI, 0.75〜1.02)、50〜59歳女性で0.86(CI, 0.68〜0.97)、60〜69歳女性で0.67(CI, 0.54〜0.83)、70〜74歳女性で0.80(CI, 0.51〜1.28)であった[2, 3]。
上記のランダム化比較試験と、それらを統合したメタアナリシスのいずれも、マンモグラフィ検診による全死亡率の差は示していない[2]。
マンモグラフィ検診についての複数の観察研究では、乳がん死亡リスクの減少率にはかなり幅がある。EUROSCREENワーキンググループによる最近のメタアナリシスでは、検診受診の呼びかけに応じた50〜69歳の女性で、乳がんによる死亡が相対的に約25〜31%減少したことが示された。一方で、ITT分析を実施したランダム化比較試験のメタアナリシスでは、50〜69歳の女性で乳がんによる死亡率が19〜22%低下することがわかった[2,3]。
CISNETが更新した意思決定モデルでは、50〜74歳女性を対象とした、隔年のマンモグラフィ検診による生涯乳がん死亡の減少率について、前回の分析よりもいくぶん高い推定値が得られた(減少率の中央値は、今回の25.8%に対して前回は21.5%、モデル全体では、今回の24.1〜31.8%に対して前回は20.0~28.0%であった)。前回の分析以来、CISNETは6つのモデルそれぞれに対する入力を見直しており(たとえば、特徴的な分子サブタイプの記述や、デジタルマンモグラフィの導入など)、これによって、両者の違いをいくらか説明できる可能性がある[7, 8]。さらに、マンモグラフィによる死亡数の減少に関する更新版の推定値は、同様の年齢の集団を対象としたランダム化比較試験のメタアナリシスの値よりも大きい(意思決定モデルでは50〜74歳女性で24.1〜31.8%であったのに対し、ランダム化比較試験では50〜69歳女性で19〜22%であった)[2, 7]。この矛盾を説明する理由の一つは、評価期間の差である。メタアナリシスでは、10年間について検診の影響を調べたのに対し、意思決定モデルでは、生涯にわたって検診の影響を評価した。さらに、意思決定モデルでは、検診や異常所見に対する経過観察と、検出された乳がんの治療がすべての患者で完全に(100%)実行されることを想定しており、この点を認識することも重要である。さらに、このモデルでは、マンモグラフィによって乳がんが発見されると、すべての女性がその進行度に合った最も効果的な治療を受けると想定していた。したがって、意思決定モデルは一つの理想であり、医療サービスの提供に障壁がない場合にマンモグラフィ検診が達成しうる最大の利益を表している。米国女性の大部分に予防医療を実施するうえで伴う現実世界の制約を考えると、実際に達成しうる利益はもっと小さくなると考えられる。
検診プログラムの潜在的な利益を評価する際には、生活の質、進行がんや乳がん治療関連の疾病率が抑えられるかといった、死亡以外の転帰についても考慮することが重要である。メタアナリシスによってランダム化比較試験のエビデンスから示されたのは、50歳以上の女性では、マンモグラフィ検診を受診することにより進行がんのリスクが低下することである。この場合の「進行がん」とは、最も厳密な病期分類で定義されるものである(具体的にはステージIIIおよびIV、腫瘍サイズが50 mm以上、またはリンパ節転移が4か所以上)(RR, 0.62[CI, 0.46〜0.83])。40〜49歳の女性では、マンモグラフィ検診を受けても進行がんが有意に減少することはなかった[2, 3]。観察研究のデータには、相反する結果が含まれていた。マンモグラフィ検診と、リンパ節転移の減少や腫瘍サイズの縮小との間に関連を示した研究があった一方で[2]、マンモグラフィ検診の結果として、進行がんの割合に変化が生じたことを示すエビデンスを見出せなかった研究もあった[2, 27]。
治療に関連する有害効果またはその度合いに対して、マンモグラフィ検診が及ぼす影響について、文献からは明らかになっていない。5件のランダム化比較試験のメタアナリシスでは、無作為に割り付けられ、マンモグラフィ検診を受けた女性が乳房切除術(RR, 1.20[CI, 1.11〜1.30])および外科療法(乳房切除術と乳腺摘出術の併用)(RR, 1.35[CI, 1.26~1.44])を受ける可能性が、対照群と比較して有意に高いことが示された[36]。しかし、こうした試験には現代の治療基準が適用されていないことから、これらは現在の診療状況を反映していないおそれがあるとする批判が上がっている。本系統的エビデンスレビューに含まれる4件の症例集積研究では、治療以前にマンモグラフィ検診の経験のある女性とない女性とで乳がんの治療について比較し、マンモグラフィを受けた女性では、乳房温存手術の件数が有意に多く、乳房切除術と化学療法の件数が有意に少ないことが示された[2]。しかし、こうしたの研究のすべてで、検診およびがん治療を受けた女性集団にDCISを有する女性が含まれており、検診を受けた女性と受けなかった女性との間に、DCISと侵襲性乳がんの管理方法の違いに基づくバイアスが生じている可能性がある。
DBTによる一次検診
死亡率、治療関連の疾病率、または生活の質などの重要な健康上の転帰について、DBTを用いた乳がん検診の効果を評価した研究はない[13]。
現行のデジタルマンモグラフィのみと、現行のデジタルマンモグラフィとDBTの併用とを比較した2件の症例集積研究では、がんの病期ごとに検出率を報告している。1件の研究(n=29,080)は米国で、もう1件の研究(n=12,631)はノルウェーで実施された。どちらの研究でも、診断時の乳がんの大きさやリンパ節の状態に有意差は認められなかった[37, 38]。
再検査が必要な陽性という意味の要精検率に対してDBTがもたらす効果について、利用可能なエビデンスがある。9件の研究では、2種類のスクリーニングを受けた女性の単一のコホートから得た所見を比較するか、2つのスクリーニングコホート(現行のデジタルマンモグラフィ単独を受けた集団と、DBTとの併用を受けた集団)を比較した。系統的レビューの選択基準を満たした1件の研究では、デジタルマンモグラフィとDBTを併用した場合、デジタルマンモグラフィ単独に比べて、0.6%の要精検率減少と関連があった(要精検率はそれぞれ3.6%と4.2%)。全体としては、利用可能なすべての研究で、要精検に直結した割合の減少幅の中央値1.7%(範囲0.6~7.2%)と、DBTとの間に関連がみられた[13]。
高濃度乳房の女性における補助的検診
検査方法の種類を問わず、補助的検診が高濃度乳房の女性の乳がん発生率、生活の質、死亡率に及ぼす効果を評価した研究はない[17, 18]。
早期の発見と治療の不利益
現行のマンモグラフィによる一次検診
マンモグラフィ検診は不利益をもたらす可能性がある。最も一般的な不利益は偽陽性で、これは心理的な負担を与えることがあるほか、再検査を要したり、侵襲的な経過観察手法の実施につながる可能性がある。マンモグラフィ検診の偽陽性と、乳がんに関連する気分の落ち込みや不安や心配の高まりとの間には、きわめて強い一貫性があり、特に、微細針吸引や乳房生検などの関連する処置を受けた女性でその傾向が強いことが、研究によって示された。ほとんどの女性では、こうした影響は時間の経過とともに改善する[2, 4]。表5は、10年間で、マンモグラフィ結果が1回以上偽陽性であったか、生検を推奨され結果的に偽陽性であった女性(検診の開始年齢や間隔はさまざま)の累積確率に関するBCSCのデータを要約したものである[39]。
マンモグラフィによる最も深刻な不利益は、本来なら、生涯、健康を損なうことも、気づくことさえなかった乳がんが診断され治療されることである(過剰診断と過剰治療)。過剰診断が起こるのは、乳がんが進行しない場合、または乳がんの症状が生じる前に他の原因で死亡する場合である。過剰診断は誤診とは異なる。誤診は、個々の病理医が誤ってがんを分類することであり、過剰診断は、がんかどうかついて病理医の間に一定の合意があるにもかかわらず、がんがその見た目から想定される範囲外の振る舞いをしたときに起きる。乳がんのある女性の一人ひとりについて過剰診断であるかどうかを直接観察することはできない。できるのは、検診を受けた集団全体で起こりうる過剰診断の頻度を間接的に推計することだけである。研究者らはマンモグラフィ検診に関連する過剰診断率の定量化を試みており、その際、ランダム化比較試験、病理学の画像研究、生態学的なコホート研究、意思決定モデリングなど、複数のソースから得られたデータを利用している。しかし、過剰診断の規模を計算する最適な方法については合意が取れておらず、研究者によって用いる手法が異なるため、過剰診断率の問題はさらに複雑になっている[6, 40]。そうした背景から、入手可能な文献では、その推計値に大きなバラツキがみられる(0〜54%)[2, 4]。
利用できる臨床試験のうち、3件のランダム化比較試験(Malmö Mammographic Screening Trial I and the Canadian National Breast Screening Study 1および2)は、試験終了時に対照群でマンモグラフィ検査を行なっていたないため、得られた推計値はバイアスによる影響が最も少ない。これらの試験の利点には、試験開始時点で群間の比較が可能であること、検診期間以降も適切な経過観察を行ない、早期診断と過剰診断が区別できていること、検診を受けた群と受けなかった群が明確に区別されていることが挙げられる(もし、対照群も検診を受けていたなら、対照群でも過剰診断が見られることになる)[6]。これらは古い試験であるため、技術の進歩に伴い感度が高まっていることを考えると、現行のマンモグラフィ検診プログラムに関連する実際の過剰診断の規模が過小に評価されている可能性が高い。それでも、これらの試験を統合した結果、10年間で診断される乳がんのおよそ19%が過剰診断であることが示唆される[2, 4]。さらに、CISNETの意思決定モデルでも、マンモグラフィ検診による過剰診断の見込みの規模を調査している。6つの意思決定モデルでは、マンモグラフィ検診に関連する過剰診断の規模の推計値に大きなバラツキがみられた(検診法によって、浸潤がんが1.4〜24.9%、DCISが30.5〜84.5%と幅があった)[7, 8]。モデルのなかには、マンモグラフィ検診に関連する過剰診断の影響を過小評価する可能性の高い仮定があったと考えられる。何より重要なことは、6つのモデルのうち4つは、診断されたすべての侵襲性のがんが進行して致命的になると仮定していたことである。進行度の低い段階でがんの進行が止まる「限定的な悪性度」の可能性を許容していたのは、1つのモデル(モデルW)だけであった。加えて、モデルの1つはDCISを除外していた。
生涯にわたるマンモグラフィ検診プラログラムによって繰り返し放射線に被曝することで、乳がんのリスクがわずかに増加すると考えられるが、この影響を直接測定した実証研究はない。本推奨が根差すシミュレーションモデルによる推定では、50〜74歳女性で、隔年のマンモグラフィ検査の放射線によって誘発される乳がんの平均生涯寄与リスク(LAR)は検査を受けた1万人につき3人で、乳がん死の平均LARは検査を受けた1万人につき0.5人である。隔年検査の開始年齢を50歳ではなく40歳とした場合、乳がん発症の平均LARは検査を受けた1万人につき4人へと増加し、乳がん死の平均LARは検査を受けた1万人につき約1人へと増加する[25, 26]。注意を要するのは乳房の大きい女性の場合で、マンモグラフィ検査を完了するのに必要な撮影の回数が増え、結果、放射線量も高くなると考えられ、放射線に誘発される乳がんやそれによる死亡のリスクが高まると考えられる。そうした女性を反映する集団の利用可能なデータがないため、Digital Mammography Imaging Screening試験(フィルムマンモグラフィとデジタルマンモグラフィで検査特性を比較する試験)[41]の情報に基づくと、米国女性の5〜6%がマンモグラフィ検査を完了するのに必要な撮影回数が通常よりも多くなると推定される。50〜74歳の女性に隔年のマンモグラフィ検診を行なう場合、乳がん発症の平均LARは、検診を受けた1万人につき、乳房の大きい女性で6人であるのに対して、そうでない女性で2人で、乳がん死の平均LARは、検診を受けた1万人につき、乳房の大きい女性で1人で、そうでない女性で0.4人である[25, 26]。
デジタルトモシンセシス(DBT)による一次検診
現在、デジタルトモシンセシス(DBT)は現行のデジタルマンモグラフィと組み合わせて実施されることが最も多い。そのため、この方法では、患者の被曝する放射線が実質2倍になる。米国食品医薬品局は、合計の放射線量を減らすことのできる、3次元画像から2次元画像を合成して生成する方法を承認している。一方で、(2次元画像の合成を行なう)DBT単独の検査特性に関する研究データは、感度と特異性を比較するマンモグラフィ読影研究1件と、前向きの臨床試験1件だけにとどまることから[42]、DBT単独の検診は臨床で広く実施されているとは考えられない。
限定的なエビデンスからは、デジタルトモシンセシス(DBT)による乳房生検のリスクは、現行のデジタルマンモグラフィの場合と比べてわずかに増加することがうかがえる。乳房生検率を報告しているDBTに関する米国の研究4件のうち3件で、DBTと現行のデジタルマンモグラフィを併用した群は、現行のデジタルマンモグラフィ単独と比べて乳房生検率が高かった(中央値差0.2%[範囲 -0.1〜0.4%])[13]。
高濃度乳房の女性に対する補助的検診
エビデンスは限られているが、高濃度乳房の女性に対し、ハンドヘルド型超音波検査やMRIなどの代替方法による補助的な検診を行なった場合、標準的なマンモグラフィ単独の場合と比較して、要精検率および乳房生検率が一般に高くなるようである[17, 18]。質の高い米国の研究1件で、補助的なハンドヘルド型超音波検査法とMRIの使用について評価している。それによると、マンモグラフィで陰性結果を得た後にハンドヘルド型超音波検査を受けた場合の要精検率が約14%であったのに対し、マンモグラフィの一次検診のみの場合は11%であった。また、マンモグラフィおよび超音波検査で陰性結果を得た後にMRIの補助的検診を受けた女性では、要精検率は23%であった[43]。
正味の利益(ネットベネフィット)の大きさの推定値
乳がん高リスク群かどうかがわかっていない女性では、マンモグラフィ検診の持つ有効性は年齢とともに高まり、50〜74歳で利益が最大となる。特に60〜69歳の女性では、マンモグラフィ検診を受けることで乳がんによる死亡を避けられる可能性が最も高くなる。また、隔年の検診を受けることで、利益と不利益のバランスが最もよくなる。一方、 40〜49歳の女性では、マンモグラフィ検診による潜在的な利益は比較的小さく、代わりに不利益を被るリスクが大きくなる。しかし、起こりうる転帰のうちどれを考慮すべきかは個々人で異なり、どれを優先するのかもおのおの考え方が異なると考えられる。実際に乳がんがあり、かつそれによる死を避けられるという小さな可能性と、次のような、もっと起こりうる想定とを十分に比較検討すべきである。その想定とは、偽陽性およびそれに伴って不要な追加検査(侵襲的検査を含む)が生じる可能性、偽陰性およびそれに伴って生じる誤った安心感や診断の遅延、そして何より重要なのは、検診を受けなければ、健康を損なうことも、気づくことさえもなかったであろうがんの診断と治療が行われる可能性である。乳がん死を避けられる可能性 という潜在的な利益が不利益を回避することより大きいと考える女性は、情報に基づいて、検診を始めるという選択が可能である。75歳以上の女性に関しては、マンモグラフィ検診を受けることによる利益と不利益に関するエビデンスはきわめて限られている。しかし、マンモグラフィ検診による死亡の回避という 利益が得られるまでには(ほとんどすべてのがん検診と同様に)何年もかかるのが一般的である一方不利益は多くの場合すぐに被ることから、寿命が限られている場合や重篤な疾患を併発している場合は、検診から利益を得られる可能性は低い。
デジタル乳房トモシンセシス(DBT)は、新しい乳がん検診の技術である。予備的なエビデンスでは、DBTは現行のデジタルマンモグラフィと比較して、偽陽性による要精検率を減らし、より多くのがんを検出できることが示唆されている。一方、DBTによって、乳房生検率が増加する可能性があるほか、現在行われている実施例の大半において、現行の2次元マンモグラフィに比べて暴露する放射線量が増加する。 DBTによって新たに検出された乳がんのすべてが、実際にDBTの利益を意味するかどうか(過剰診断ではなく臨床的に意味のあるがんの検出であったか、次回のデジタルマンモグラフィ検診時に初めてがんが検出される場合に比べて利益が大きいか)は定かではない。何より重要なのは、生活の質や乳がんの罹患率、死亡率など、重要な健康上の転帰に対するDBTの効果を評価した研究がないことである。また、高濃度乳房はごく普通に存在する状態であるが、乳がんリスクが高くマンモグラフィの検査精度が低下する。現時点では、高濃度乳房の女性に補助的検診を用いることについてのエビデンスは不十分であり、特定の検診法を推奨することはできない。これらは今後の重要な研究課題である。
前回のUSPSTF推奨からの更新
本推奨は、マンモグラフィ検診について入手しうる最新の科学的エビデンスの評価を行ない、乳がん検診に関する2009年のUSPSTFの推奨を更新したものである。加えて今回の更新では、40~49歳女性に対する推奨グレード「C」の意味をさらに明確にした。推奨グレード「C」は、40~49歳女性にマンモグラフィを推奨しないという意味ではなく、中等度の確実性で、検診の正味の利益がわずかであるということである。推奨グレード「C」で強調しているのは、検診を受けるという決定は、期待される利益と考えられる不利益とを個人が吟味したうえで下すべきであるということである。加えて本推奨で強調しているのは、1親等の親族(親、子供、姉妹)が乳がんである40〜49歳女性は、同年代の平均的な乳がんリスクの女性よりも、50歳より早くマンモグラフィ検診を開始することから利益を得られる可能性が高い点である。
乳がん高リスク群ではない女性に対し、フィルムマンモグラフィの代わりにMRIまたはデジタルマンモグラフィを使用することで利益または不利益が増大するかどうかについて、USPSTFの見解に更新はない。これは、米国における乳がんの一次検診法はすでにフィルムマンモグラフィからデジタルマンモグラフィにほとんど置き換えられたためである。また、乳房自己検査の指導に関する2009年の推奨にも更新はない。USPSTFは、すべての患者が自分の体の変化に気づき、そのことを主治医と話し合えるようサポートしている。さらに、医師による乳房の視触診検査による潜在的な上乗せ利益に関しても更新を行なわなかった。
本推奨では、新しい技術であるDBTの、一次検診としての有効性に関するエビデンスを検証している。また、マンモグラフィで陰性となり高濃度乳房と診断された女性に対する補助的検診法としての超音波検査法、MRI、DBT等の有効性を評価している。
本推奨の根拠となるエビデンスレビューの対象範囲は、研究計画の草案に対するパブリックコメントの終了後に決定された。
パブリックコメントに対する回答
2015年4月21日から5月18日までの間、本推奨草案をUSPSTFのウェブサイトに掲載し、パブリックコメントを受けつけた。受け取ったコメントに対応する形で、USPSTFでは、特定の用語(DBTや、誤診と過診断の違いなど)の定義を明確にし、参照した参考文献情報(DCISの長期転帰に関連する文献など)を更新および追加し、マンモグラフィ検診による放射線被曝の潜在的リスクに関するさらに詳しい背景情報を追加した。パブリックコメントにおけるその他の議論は以下のとおりである。
現行のマンモグラフィ検診による利益
寄せられた意見のなかには、USPSTFはマンモグラフィ検診の有効性に関する利用可能な観察的研究のエビデンスを考慮に入れておらず、したがってUSPSTFの評価は古い情報に基づいており、結果、現在のマンモグラフィ検診の利益を過小評価している、というものがあった。この見解は正しくない。本推奨の基礎とした系統的エビデンスレビューでは、マンモグラフィ検診に関するランダム化比較試験および非実験的研究の両方を対象としている。このレビューには、200件近い数の観察研究が含まれ、そのうち83件はマンモグラフィ検診による利益を評価することに特化している[2]。USPSTFは、入手可能なランダム化比較試験の実施時期を考えると、乳がん検診に関するより最近のエビデンスを検討に入れることが重要であるという点には同意見であり、最近行われたPan-Canadianコホート研究[44]とSwedish Mammography Screening in Young Womenコホート研究[45]をともにレビューの対象とした。ディスカッションの節で述べたように、マンモグラフィ検診のランダム化比較試験では、総じて乳がんによる死亡率の減少幅が観察研究に比べて小さかった。たとえば、50〜69歳の女性に対するマンモグラフィ検診のメタアナリシスによると、乳がん死亡の相対危険度(RR) がランダム化比較試験では0.78〜0.81であったのに対し、観察研究では約0.69〜0.75であった[2]。このように利益の程度に差異がみられるのには、理由が複数考えられる。一つは、マンモグラフィ技術の向上が死亡率の低下につながった可能性である。その場合、より最近の観察的エビデンスは、現行のマンモグラフィとランダム化比較試験当時のマンモグラフィの間に実際にある有効性の差を示していると考えられる。一方で、選択バイアスや、リードタイムバイアス、レングスバイアス、未知のものを含めたその他のバイアスなど、観察研究で知られる重要な方法論的限界や交絡によっても、観察された差の一部または全部を説明できる可能性がある。最近実施された臨床試験がないため、現行のマンモグラフィ検診プログラムが持つ利益の正確な大きさを確実に知ることは不可能である。そうしたことから、USPSTFでは、利用可能なすべてのエビデンスについて検討することが最適であると考えている(ただし、USPSTFの系統的エビデンスレビューに記載されているような、あらかじめ設定しておいた透明性の高い品質基準を満たしている場合に限る)[2]。しかし、想定される利益の正確な大きさについて、大小どちらの方向にも不確実さが残る点も、USPSTFは認めている。
40〜49歳の女性に対するマンモグラフィ
意見を寄せた人のなかには、40〜49歳女性に対する推奨グレード「C」が、過去のUSPSTFの推奨から内容が変更したことを意味していると誤解している人がみられた。また、推奨グレード「C」は、40〜49歳女性に対するマンモグラフィをUSPSTFは推奨しないという意味であると考える人もいた。前述のように、2009年版でも、40〜49歳女性に対する推奨グレードは同様に「C」であった(USPSTFの結論は、中等度の確実性で、この層に対するマンモグラフィ検診には正味の利益がわずかにあるということである)。今回の更新では、推奨グレード「C」が意味する内容を明確にしている。推奨グレード「C」はマンモグラフィを推奨しないという意味ではなく、40代女性がマンモグラフィを受けるという決断を下す際には、情報が十分に提供され、潜在的な利益と不利益を比較検討したうえで、個別に判断されるべきであることを表している。
70〜74歳、またはそれ以上の女性に対するマンモグラフィ検診
USPSTFが70~74歳女性へ推奨グレード「B」を拡大する一方で、75歳以上の女性には推奨グレード「I」を適用していることに矛盾があるという意見が数名から寄せられた。USPSTFは、70代前半の女性についての臨床試験データが決定的ではないと説明しながら、モデリングのデータは70歳未満の女性で認められた利益が70代前半まで延長することを支持しうるとしている、という指摘である。一方でUSPSTFは、75歳以上の女性に対するマンモグラフィ検診に利益があるとするにはモデリングのデータは不十分であると説明している。これは矛盾のように見えるが、そうではない。70〜74歳女性に関しては同年齢層の女性が参加したマンモグラフィ検診のランダム化比較試験2件をレビューの対象としている。2002年のUSPSTF推奨を裏付けるメタアナリシスでは、マンモグラフィ検診を受けた65〜74歳女性の乳がん死のRRは0.78(CI, 0.62〜0.99)に低下することが示された[35]。2009年と2014年の推奨の根拠となるメタアナリシスは70〜74歳女性に限定した。今回の最新アップデートにおけるメタアナリシスでは乳がん死のRRは0.80(CI, 0.51~1.28)であった[2]。CIの幅が拡大し1.0をまたいでいるのは、分析対象となった参加者の絶対数が少ないことによる。これらの臨床試験データは示唆的でありながら、決定的なものではないが、USPSTFはモデリングのデータが示す限りでは、70〜74歳の女性に対するマンモグラフィ検診の利益が示されたという見解であり、70〜74歳へマンモグラフィ検診を拡大することによって、乳がんによる死亡率に(それなりの不利益もあるが)正味の利益がもたらされることが示唆されたと考えている。しかし75歳以上の女性については、マンモグラフィ検診による利益を直接裏付けるエビデンスはない。75歳以上の女性を含むマンモグラフィ検診の臨床試験は実施されていない[2]。したがって、75歳以上については、USPSTFの評価は補足情報で増やした経験的データに基づくことはできず、完全に意思決定モデリングに基づかなければならないため、推奨グレードを「I」とした。USPSTFでは、検診などの予防医療に効果があるのか、不利益があるのかをモデル研究のエビデンスのみを用いて判断することはない。しかし、観察されたエビデンスに立脚したうえで重要な拡張を行う場合には、モデリングを行うことがある。
過剰診断の定義
USPSTFに寄せられた意見には、本推奨で過剰診断がどのような概念として扱われているのかという質問が複数あった。そのなかで強調されていたのは、過剰診断を直接計測することは不可能であり、その頻度を推定する方法が複数ある一方で、最適なアプローチに関する科学的合意はないという点であった。USPSTFも同意見であり、本推奨では折に触れ、こうした問題を議論している。コメントで強調されたのは、検診によって見つかった個々のがんが、検診を行なわなかった場合にそれでも臨床で発見されるものだったのか、見過ごされて健康を損なうものだったのかを知ることは不可能であるため、乳がんが検出されれば医師は命にかかわる可能性を考慮してすべて治療をしてしまう、という点である。この点についても、USPSTFは同じ考えである。マンモグラフィ検診を行なうことで過剰診断が生じる可能性の程度について反対する意見が寄せられ、対照群が終了時まで検診を行わなかった試験に基づき推定した過剰診断率19%より高い数字もしくは低い数字となっているデータについても強調してほしい、との要望があった。USPSTFでは透明性維持のために、委託した系統的エビデンスレビューに加えて、観察研究、ランダム化比較試験、およびモデリング研究など、入手可能な文献から得られる過剰診断率の推定値をすべて提供する一方で、それにも不確実性が伴う点に注意を促した。この不確実性とは、マンモグラフィ検診に過剰診断 という重大な不利益がそもそもあるのかどうかについての不確実性ではない[46]。少数のコメントはそのように指摘しているが、ここで言う不確実性とは過剰診断が発生する正確な規模に関するものである。USPSTFが強調しているのは、過剰診断の規模を正確に把握し、過剰診断のがんと進行するであろうがんとの区別や過剰診断の削減に対する手立てについて理解を深めるため、継続的な研究が不可欠であるということである。
デジタルトモシンセシス(DBT)
DBTの有効性に関するUSPSTFのレビューには、エビデンスの見落としがあるという意見が寄せられている。DBTによって多くの乳がんが検出され、要精検と偽陽性が減少することが研究によって明らかになっているという指摘である。USPSTFは、DBTを乳がんの一次検診として使用することに対して、系統的エビデンスレビューを委託している[13]。最初の調査で945件の研究を特定し、そのうち本件と関連の深いものと特定された研究は、その時点でわずか13件であった。パブリックコメント期間中に本レビューを可能な限り最新のものとするために追加の検索を行なったところ、79件の研究が特定され、そのうちの5件がDBTの試験特性を直接扱っていた。広範かつ綿密に検索を実施したが、予め定めた対照研究の選択基準(無症状の40歳以上の女性にスクリーニングを行なうこと、陰性と陽性のいずれの場合もそれぞれに適用される包括的な参照標準に対して検査特性を評価していること)を満たす研究はただ1件であった。「包括的な参照標準」とは、陽性の結果に対しては、画像診断および生検の一方または両方を追加実施すること、陰性の結果に対しては、中間期乳がんの発生率を正確に評価するため最低1年間の臨床経過観察期間を設けることである(中間期乳がんとは、検診と検診の間に出現する乳がんのことであり、この数から偽陰性の件数を集計できる)。この1件以外に選択基準を満たした研究はなかったが、USPSTFは、乳がんの一次検診としてのDBT使用に直接関連するものと判断できた研究すべてのデータを慎重に検討した。こうした研究には、現行のデジタルマンモグラフィと併用した場合のDBTの効果を評価した、Friedewald氏らの2014年の研究がある[47]。臨床上の留意事項の節で述べたように、DBTによって偽陽性による要精検率が減ることが予備的エビデンスから示唆されることは、USPSTFも認めている(減少率の中央値1.7%[系統的レビューでの範囲0.6~7.2%])[13]。また、現行のデジタルマンモグラフィ単独の場合と比較して、DBTを追加することによりがんの検出率が高まると思われる点についても、USPSTFは同意する。しかし、DBTに関連する過剰診断の率が不明であるのに加え、現行のデジタルマンモグラフィ検査よりも早期に乳がんを発見することによる実質的な利益があるかどうかも不明である。USPSTFでは、新技術であるDBTについて、研究を継続することを推奨している。
USPSTFの推奨と他の機関の推奨との比較
コメントのなかには、乳がん検診に関するUSPSTFの推奨と他の機関の推奨にずれがあると指摘するものがあった。たとえばAmerican College of Radiology[48]やAmerican Obstetricians and Gynecologists[49]は、年1回のマンモグラフィ検診を40歳から始めることを推奨しているが、こうした不一致によって、臨床医や患者が混乱するおそれがある点を懸念する意見であった。いくつかの点で違いがあるとはいえ、多くの主要なガイドラインのアプローチと注目に値する類似点があることは強調しておく必要がある。たとえば、USPSTFの推奨と、最近発表されたAmerican Cancer Societyの推奨[50]との類似点である。USPSTFは、マンモグラフィ検診によって40代女性の乳がん死が減少しうると考えている点で他の機関と意見が一致している。USPSTFは、40代でスクリーニングを開始することに正味の利益はあるものの、50代以上よりもスクリーニングの利益が小さいことをエビデンスに基づいて見出しており、40代におけるスクリーニング開始は個々に決めるべきものであるとの結論に達している。American Cancer Societyのほか、American College of Physicians[51]、American Academy of Family Physicians[52]、American Congress of Obstetricians and Gynecologists が組織した2013 Well-Woman Task Force[53, 54]、Canadian Task Force on Preventive Health Care[55]など多くの組織も同様に、40代女性でのマンモグラフィ検診の開始とその時期については個別に決定することを推奨している。USPSTFでは、乳がんのリスクは年齢とともに増加すること(そのため、48歳の女性が検診で得られる利益は、40歳の女性よりも50歳の女性のものに近いと考えられる)、40代の女性はこうした情報を考慮して、検診を開始するかどうか、またいつ開始するかについて検討し判断するとよいことを明確にした。当然ながら、50〜74歳女性に対する定期的なマンモグラフィ検診の重要性について、USPSTFは他のすべての主要な専門機関と同一の見解である。しかしUSPSTFの見解では、マンモグラフィ検診の利益は隔年検診で十分に得られるとしている。American Cancer Societyから新たに発表された推奨もまた、隔年でのマンモグラフィ検診を支持しており、50代、60代、70代の女性に対する検査間隔を1〜2年としている。イギリス、オランダ、スイス、ポーランド、ノルウェー、ルクセンブルク、ドイツ、フィンランド、デンマーク、ベルギーで、国が実施する乳がん検診プログラムでは、50~74歳の女性に対して、2〜3年間隔のマンモグラフィ検診が行われている[56]。多くのヨーロッパ諸国は、International Agency for Research on Cancerのガイドラインに沿ったプログラムを実施しているが、このガイドラインは最近の更新で50~57歳でのマンモグラフィ検診開始を推奨するとされたところである[57]。
マンモグラフィ検診の保険の保障範囲と利用機会の確保
情報を検討してマンモグラフィ検診の受診を望んだ40歳代の女性にとって、USPSTFの推奨グレード「C」が経済的な面で障壁となる可能性がある、と懸念する意見が寄せられた。40歳代の女性が保険の保障範囲に入るように、マンモグラフィ検診の推奨グレードを「B」に変更するよう求める意見である。患者保護並びに医療費負担適正化法(Affordable Care Act)では、民間保険に加入している者は、USPSTFの推奨グレード「A」または「B」の予防医療に対し自己負担および共同負担なしに保障を受けられると定めている[58]。
USPSTFの推奨は、検診などの予防医療で想定される利益とな不利益の科学的な解釈に基づいたものである。推奨グレード「C」は、USPSTFが小さな正味利益に中等度の確実性しかない場合があると結論付けたという意味で、推奨グレード「B」は、中等度の正味利益に高度の確実性があるか、中等度~高度の正味利益に中等度の確実性があるという意味である。USPSTFは、2009年に続き2016年でも、50歳以前に乳がん検診を開始することの正味の利益は小さく確実性も中等度、との見解である。それは、本推奨で概説した利益と不利益のバランスを勘案した結果である。USPSTFが40〜49歳女性に対するマンモグラフィ検診を推奨グレード「B」にできなかったのは、この年齢層が中等度~高度の正味の利益を中等度~高度の確実性で得られることが、科学的に支持できなかったためである。USPSTFの役割は、予防医療の科学的エビデンスを評価することである。民間保険を利用する女性が予防医療に対する保障を受けられるようにするためだけに、科学研究を再解釈し、マンモグラフィ検診が持つ正味の利益を拡大することは、USPSTF の権限を超えている[59]。USPSTFは、40代の女性がマンモグラフィ検診で被る可能性がある不利益を理解し、そのうえでなお予想される利益に高い価値を認めるならば、検診を始めるという選択もあるとの見解である。全部または一部が保険適用外という状況ではマンモグラフィ検診を選択する女性が少なくなる可能性があることは認めるが、保障範囲は保険者や議員で決めることである。民間および公的保険の保険者が独自に保障範囲に入れることもできる(ほとんどの保険者が行っている)し、議員が保障を要求することもできる(過去に要求事例はあり、2016年度の包括歳出予算法でも再び要求が行われている)[60]。
メディケアまたはメディケイドに加入している女性が、追加の保険料負担なしに保障されることの重要性を強調するコメントもあった。この2つの制度における、保険適用範囲はUSPSTFの推奨を反映しておらず、メディケアではCenters for Medicare & Medicaid Servicesが、メディケイドでは個々の州が独自に決定している。
また、現在、マンモグラフィが米国の一部の層で十分に活用されていないこと(たとえば、50~74歳女性の最近の受診率はHealthy People 2020 の目標に到達していない)[61]や、40代からマンモグラフィの毎年検診を推奨しなければ、どんな推奨であっても女性の「無頓着を醸成し」、健康に対するしかるべき注意を遅らせる可能性があることを懸念する意見があった。National Committee for Quality Assuranceの最新の傾向データによると、USPSTFの2009年の推奨以来、マンモグラフィ検診の受診率はすべての保険カテゴリーで増加していることが示唆されている[62]。他のほとんどの有効な医療介入と同様に、一般集団におけるマンモグラフィ検査でも、過少使用、適正使用、および過剰使用が起きうる。患者レベル、医療機関レベル、制度レベルの効果的な介入により、マンモグラフィ検診の利益がもっとも期待される女性が適切な検診を受ける事例が増えるようにすべきことに、USPSTFとしても異論はない。と同時に、女性が最善の決断を下すためにも、検診の潜在的な利益と不利益についての正確な情報が必要であると強く感じている。
*サイト注:本文は米国の指針であり、乳がん罹患数などについては日本と異なることがあります。
日本の現状については、日本乳癌学会、科学的根拠に基づくがん検診推進のページを参照ください)
翻訳担当者 坂下 美保子、筧 貴行、橋本 仁、三木村 秋、
監修 斎藤 博(検診研究部/国立がん研究センター)、原 文堅(乳がん/四国がんセンター)、河村 光栄(放射線科/京都医療センター)、小坂 泰二郎(乳腺外科・化学療法/医療社会法人石川記念会 HITO病院)、尾崎 由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)、橋本 仁(獣医学)
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