乳がん、大腸がん化学療法中の運動習慣はその後のQOLに有益

専門家の見解

「以前、患者は治療中は安静にし、運動を控えるようにと、よく言われました。しかし、今は、運動が安全で非常に利益があることがわかっています。本試験が示すようにがん治療中の運動はサバイバーの長期にわたる健康とQOL(生活の質)にも著しい影響を与える可能性があります。医師として、われわれは患者に治療中および治療後に運動をする気になるようにさらに促す必要があります」、と米国臨床腫瘍学会(ASCO)専門員で、本日のpresscast(インターネット生放送による記者会見)の司会をつとめるTimothy Gilligan医師(理学修士、 FASCO)は語った。

あるランダム化臨床試験に対するフォローアップ試験で、アジュバンド(術後)化学療法中の運動が数年後のさらなる身体活動を促すことが明らかになった。化学療法を受けながら18週間の運動プログラムに参加した乳がんまたは大腸がん患者は4年後、化学療法中に運動プログラムに参加しなかった患者と比較して、平均して1週間につき142分長く、または1日につき20分長く身体活動していた。研究者はこれらの知見をフロリダ州オーランドで近日開催される2018年ASCOがんサバイバーシップシンポジウムで発表する予定である。

「化学療法中の運動は倦怠感、疼痛、悪心などの治療関連副作用を減少させる可能性があることはよく知られています。われわれの試験は、治療中に身体を良く動かす患者が長期にわたって身体活動を高いレベルで維持することを初めて示すものであり、このことは患者の健康および幸福に本当に重要です」、とオランダ、ユトレヒト大学医療センターの疫学准教授で、本試験の筆頭著者であるAnne M. May医学博士は語った。

試験について

オランダのPACT (Physical Activity during Cancer Treatment:がん治療中の身体活動)試験は、化学療法中の運動が治療関連副作用を減少させるかどうか調べた。ステージ1~3の乳がんまたは大腸がんの手術後、試験参加者は化学療法を受ける間(患者の約70%は放射線療法も受けた)、18週間の指導つき運動プログラムに参加する群、通常のケアを受ける群のいずれかに無作為に割り付けられた。

運動の介入は、理学療法士の指導のもと週2回行う中等度から強度のエアロビクスと筋力トレーニングの組み合わせ60分、および週3回家で行う運動30分から成る。運動プログラムは短期的にみて有効であり、治療中に運動した患者は運動しなかった患者よりも倦怠感が少ないとの研究報告がすでにある。

4年後、研究者は試験参加者128人(乳がん患者110人および大腸がん患者18人)を調査して、運動の介入で長期利益があるかどうか判断した。倦怠感および身体活動レベルの評価には、妥当性が確認された測定尺度である、多次元疲労評価尺度(Multidimensional Fatigue Inventory: MFI)および身体活動による健康増進を評価する短い質問票(Short Questionnaire to Assess Health – Enhancing Physical Activity: SQUASH)を用いた。調査した患者のうち70人は運動プログラムに参加し、58人は通常のケアを受けていた。

主な知見

4年後、運動プログラム参加群の患者は1日に平均90分、自転車やジョギングなどの中等度から強度の身体活動に取り組んでいたのに対し、通常のケア群の患者は、中等度から強度の身体活動に1日70分取り組んでいることを報告した。

「運動プログラムは長期にわたって患者が身体活動を続けるようにデザインされていたので、運動の介入を受けた患者が4年経っても一層体を動かしていることがわかり、われわれはとてもうれしいです」、とMay博士は語った。今回の運動プログラムに組み込まれた認知行動的要素のねらいは、患者が身体的に活発でいる自信を高めることである。さらに、理学療法士は患者への介入終了後もスポーツへの取り組みの維持について患者と話し合っていた。

また、運動プログラムを受けた群の身体的倦怠感は、通常のケアを受けた群と比較して低い傾向にあった。しかし、統計的に有意差はなかった。

次の段階

この運動の介入がほかの種類のがんで治療を受けている患者にも短期的、長期的副作用を減少する効果があることを実証する試験がさらに必要であるが、これまでのところ、副作用が減らないことを示唆するデータはない。がんサバイバーシップシンポジウムで発表された4,300人以上の患者を対象とした34件の臨床試験の解析(要約#104)では、がんの種類、ステージ、性別、年齢、肥満度指数など患者の特徴に関係なく運動が倦怠感を著しく減少させることがわかった。

以前の研究から、乳がんの治療を受けた女性は、特に、アントラサイクリンをベースにした化学療法を受けた場合、心血管疾患のリスクが高かったことがわかっている。PACT臨床試験に続く次のフォローアップでは、研究者は化学療法中の運動に心血管疾患予防の効果があるかどうかを調査する予定である。PACT試験から得たデータを、別のオランダの試験であるPACESのデータと統合し、PACT-PACES HEART試験とする予定である。

本試験はオランダがん協会、オランダピンクリボン財団およびオランダヘルスリサーチ機構によって助成された。

要約全文はこちら

患者向け情報:
乳がんガイド
大腸がんガイド
倦怠感
運動の重要性
がん治療中の運動 専門家による質疑応答

翻訳担当者 有田香名美

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発の画像

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターおよびジョンズホプキンス大学医学部の研究者らは、転移を有するトリプルネガティブ乳がんにおいて、免疫療法薬の効果が期待できる患者をコンピュータツ...
FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認の画像

FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認

米国食品医薬品局(FDA)2024年9月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の再発リスクの高いステージIIおよびI...
乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果の画像

乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果

● 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表された2つの国際的な研究により、乳がん治療後に母乳育児をした女性において、再発や新たな乳がんの増加はないことが示された。
● この結果は、乳...
HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効の画像

HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効

• 大規模な国際共同臨床試験において、トラスツズマブ デルクステカンは、HER2陽性乳がん患者の脳転移に対して優れた抗がん作用を示した。
• 今回の結果は、今まで行われてきた複数の小規模...