ベーコンなどの加工肉が、乳がんリスクを高める可能性

「ベーコンやソーセージなどの加工肉を食べると、高齢の女性で乳がんのリスクが高くなる」とThe Sun紙は報告した。大規模な研究によると、加工肉(未加工の赤肉でない)は、閉経後に乳がんを患うリスク上昇と関連することがわかった。

加工肉とは、燻製、乾燥、塩漬け、防腐剤添加により、保存加工された肉と定義されている。英国で一般的に食べられている加工肉には、ベーコン、ソーセージ、ハムなどがある。

色や風味をよりよくするために加工肉に添加された化学物質の中には、がんを引き起こす化合物を形成する可能性があるため、加工肉は、がんリスクを増加させると考えられている。

加工肉と消化器系のさまざまながんとの関連は、かねてから知られている。ただし、これまでの複数の研究結果が相反しているため、赤肉あるいは加工肉と乳がんとが関連する可能性があるかどうかははっきりしていない。

本研究は、以前の研究の結果と262,195人の英国女性を対象とした新規研究をまとめて検証した。 その結果、加工肉を食べた閉経後女性は加工肉を食べなかった女性よりも乳がんになる可能性が9%高いことがわかった。 英国の新規研究だけをみると、加工肉をもっとも多く(1日9g以上)食べた閉経後女性は、加工肉を食べなかった人よりも乳がんのリスクが21%高いことがわかった。

研究のタイプが理由で、加工肉が乳がんを引き起こす直接の要因であるかは確かでない。 しかし、加工肉を毎日食べるのではなく、摂取を時折に制限することで、他の形で健康に有益である可能性がある。

情報の出典

本研究はグラスゴー大学の研究者によって行われた。この研究は査読付きEuropean Journal of Cancer誌に掲載され、グラスゴー大学のPaterson寄付基金による資金提供を受けた。

The Times紙、The Sun紙およびMail Onlineは的確に研究を取り扱っているが、研究の性質上、加工肉が乳がんを引き起こすとまでは断言できないことを説明していない。

Mail Onlineには世界保健機関(WHO)の説明として、加工肉は「たばこ、アスベストまたは猛毒ヒ素と同レベルの発がんリスクがある」と書かれているが、これはWHO分類が誤解されていることに基づくものである。

2015年にWHOは加工肉を発がん物質(発がん性グループ1)に分類した。 しかし、当時、われわれが述べたとおり、「発がん性グループ1に分類された物質はどれもがんを引き起こすことが分かっているが、すべての物質について発がんリスクが同程度という意味ではない。例えば、 1日20本のタバコの喫煙は、ハムロール1個を食べるよりも健康上はるかに危険である 」。

研究の種類

研究者らは、英バイオバンク研究(ボランティアによって提供された健康情報を調査する進行中の研究)の参加者からのデータを用いてコホート研究を実施した。

そして、今回の最新コホート研究の結果を過去の関連コホート研究に加えた。 さらに、すべてのコホート研究の結果をメタ解析に統合し、加工肉または赤肉が関連する乳がんリスクの大きさについて最良推定値を得た。

コホート研究は、肉の摂取量と乳がんなど、因子間の関連を特定する良い方法であるが、ある因子が別の因子を直接引き起こす原因となることは証明できない。未測定の他の要因がその関連を説明する可能性もある。

研究の内容

コホート研究のために、研究者らは、英バイオバンクの一般集団コホートに参加している女性262,195人のデータを使用した。2007年から2010年の間に募集された際にがんを患っていない40歳から69歳の女性たちは、食物摂取頻度を質問票に記入し、生活習慣に関する情報を提供し、身長・体重測定を受けた。

参加女性が乳がんを発症したかどうか平均7年間追跡調査した。 研究者らは、他の要因も考慮して、赤肉または加工肉のいずれかの摂取が乳がん罹患リスクを上昇させるかを調査した。

考慮した潜在的交絡因子は次のとおり:

•年齢、民族、貧困などの社会人口学的要因

•喫煙、飲酒量、肥満度指数 、身体活動などの生活習慣要因

•日常の食事(野菜摂取とパンの種類)

•閉経後の女性についてはホルモン補充療法(HRT)

メタ解析のために、研究者らは、乳がんと赤肉または加工肉の摂取との関連を探るために前向き一般集団コホート研究を調査した。 本研究では、1種類の肉だけを対象として、各コホート集団について1セットの結果しか含まれていない研究は除外した。 研究結果にはバイオバンクの調査が含まれている。今回の研究は、肉の種類(赤肉または加工肉)別、および乳がんのタイプ(閉経前または閉経後)別に結果を分析した。

基本的結果

英バイオバンク研究の対象女性において、加工肉を食べた人は、加工肉を食べなかった人よりも乳がんリスクが高かった。リスクは、加工肉を1日4g以下食べる女性では15%(ハザード比(HR)1.15、95%信頼区間(CI)1.04~1.28)、加工肉を1日9g以上食べる女性では21%(ハザード比(HR)1.21、95%信頼区間(CI) 1.08~ 1.35)それぞれ高かった。

しかし、これらの数字は、ほとんどが閉経後の女性のリスクを反映している。 研究者らが閉経前乳がんのみの結果を調べたところ、加工肉を1日9g未満食べた女性でリスク増加はみられなかった。

社会人口学的、生活習慣、および食生活の要因を配慮に入れると、赤肉と乳がんとの関連性は消失した。

メタ解析には、バイオバンク研究に加えて、10件の研究(対象女性数1,386,799人)が含まれていた。

研究結果は以下のとおり。

•関連研究6件によると、加工肉を食べる女性の閉経前では乳がんリスクは増加しない。

•関連研究10件によると、赤肉を食べる女性では、どの年齢でも乳がんリスクは増加しない。

•関連研究6件によると、加工肉を食べる女性の閉経後の乳がんリスクは9%増加する(相対リスク(RR)1.09、95%信頼区間(CI) 1.03〜1.15)。

研究の解釈

研究者らは研究結果から、加工肉と乳がんとの関連性は「閉経後の乳がんのリスク増大によるところが大きい」と思われると述べている。 さらに、加工肉を最も多く食べた女性においてリスクが高かったのだが、「乳がんリスクの差が最も大きかったのは、加工肉をまったく食べない人たちと少量(1日4g)食べる人たちとの比較であった」と述べている。

結論

本研究により、ベーコンやソーセージなどの加工肉や保存加工肉を定期的に食べるとがんのリスクが高くなる可能性があるというエビデンスが増えた。世界保健機関(WHO)は、大腸がんや胃がんに関するエビデンスに基づいて、加工肉はがんを引き起こす可能性が高いことをすでに表明している。本研究は、少なくとも閉経後女性に関しては加工肉が乳がんリスクも高める可能性があることを示唆している。

ただし、この研究には限界がある。英バイオバンクの研究に参加した女性は、英国人口の代表的サンプルではなく、平均して裕福度や健康面のレベルが高めであるため、今回の結果を国民全体に一般化できるかどうかはわからない。また、研究結果は加工肉摂取量を正確に報告した女性からの情報だけに依存している。

さらに、コホート研究は、結果に影響を与える可能性のあるすべての要因を考慮することはできない。 バイオバンク研究は多くの重要な要因を考慮することができたが、メタ解析での研究は潜在的交絡因子を記録する方法で異なるものとなった。

女性は乳がんのリスクを減らすためにベーコンやソーセージを避けるべきか?女性の乳がんリスクは遺伝子から、体重、年齢、子供の有無、飲酒量、ホルモン補充療法(HRT)の有無まで、さまざまな要因による。 乳がんの総体的リスクについて考えるとき、加工肉も考慮すべき要因の一つかもしれない。

翻訳担当者 塔本容子

監修 東海林洋子(薬学博士)

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原文掲載日 

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