変異の特性から、プラチナベース化学療法が有効な乳がん患者を特定

進行した乳がんにおいて、相同組換え修復異常(HRD)を有する変異の特性が、プラチナベース化学療法の臨床転帰改善と関連するという結果が米国がん学会の学会誌である”Clinical Cancer Research”誌に掲載された。

「多くの乳がん患者、特に治療困難なトリプルネガティブの一部のタイプでは、シスプラチンなどプラチナベース化学療法による治療を受けますが、全員がこの治療に奏効するわけではありません」と、カナダBC Cancer AgencyのCanada’s Michael Smithゲノムサイエンスセンター(ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)バイオインフォマティクス部の部長で、同センターのコーディネーターでもあるSteven J.M. Jones博士は述べる。「プラチナベース化学療法に奏効する可能性が高い患者を同定できれば、治療を最適化できます」。

「乳がんの全ゲノム解析により、プラチナベース化学療法で良好な奏効が得られそうな患者を同定する、相同組換え修復異常(HRD)の変異パターン特性を明らかにできることがわかりました」 「全ゲノムシーケンシングは安価になってきているので、これは乳がん治療が改善する機会となるでしょう」、とJones氏は付け加えた。

相同組換えとは、正常細胞が損傷したDNAを修復する細胞機構のうちの一つである。この経路における異常は多くのがんで起こり、乳がんの5-10%を占める遺伝性BRCA1/BRCA2変異を有する場合もそうである。相同組換えで異常があった細胞内で、DNAは変異スペクトルのパターンを作り出す、とJones氏はいう。

プラチナベース化学療法は、BRCA1/2変異を有する患者に特に有効であることが知られているため、Jones氏および同氏の研究室の院生であるEric Y. Zhao氏らは、乳がんの20-40%にみられるHRDのゲノム変異パターン特性も、プラチナベース化学療法の良好な奏効に関連性があるかを明らかにしようとした。

研究者らは、乳がん患者93人(うち33人はプラチナベース化学療法の治療歴有り)の腫瘍組織とペアとなる正常組織に対し全ゲノムシーケンシングを実施した。HRDに関連する6種類の変異スペクトルが存在するかデータを分析した後、過去にBRCA1/2変異の異常を予測可能であることが示されたHRDetectと呼ばれる数理モデルを用いて、それぞれのケースについてHRDetectスコアを算出した。HRDetectスコアは、19例で高く(0.7超)、37例で中程度(0.005–0.7)、37例で低かった(0.005未満)。

「重要なことには、BRCA1/2病原性変異のある全7種のがんにおいて、HRDetectスコアが高かったです」とJones氏は述べる。「つまり、私達の研究によって独立コホートを用いたHRDetectが有効であることを確認できましたが、これは重要なことです。全ゲノムシーケンシングプロトコルは施設によって変化し得るからです」。

さらなる解析では、BRCA1/2変異の状態を調整すると、HRDetectスコアが高いことと臨床効果(プラチナベース化学療法後のX線画像による腫瘍縮小の評価)とが有意に関連していることが示された。プラチナベース化学療法を受け、画像データが入手可能であった患者26人のうち、臨床効果が認められたのは、HRDetectスコアが高い乳がん患者11人中8人、スコアが中程度または低い乳がん患者15人中2人のみであった。  臨床効果が認められたHRDetectスコアが高い患者8人のうち3人は、BRCA1/2病原性変異を有することがわかっていたか、その可能性があった。

HRDetectスコアが高い患者は低い患者と比較して、プラチナベース化学療法の治療期間の中央値および全生存期間の中央値が、それぞれ3カ月、1.3年長かった。しかしこれらの結果は、少数の患者からのデータに基づいて計算されたものであるため、慎重に解釈されるべきだと著者らは警告する。

Jones氏によると、この試験の主な限界は、観察研究であったことだという。今回ある患者コホートについて臨床的に意味がある相関性があるかどうかを検証したが、これは因果関係を立証していないということである。因果関係の立証にはランダム化比較試験が必要だと想定されるが、そのような試験デザインに今回の試験結果は有用となるだろう、とJones氏は、説明した。

この試験はBC Cancer Foundationから資金援助を受けた。装置機材やインフラ設備は、Canada Foundation for InnovationとBC Knowledge Development Fundの寄付を受けた。Jones氏は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 平沢紗枝

監修 尾崎由記範(臨床腫瘍科/虎の門病院)

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