新たな糖尿病薬がカルボプラチン化学療法への感受性を高める

ダナファーバーがん研究所の研究者らは、試験中の糖尿病薬により、従来の化学療法剤に対してがん細胞がより脆弱になる可能性があることを示すとともに、がん患者の転帰を改善し得るこのような組み合わせを検討するべきであると述べている。研究者らは、がん細胞株および動物モデルにおいて、チアゾリジンジオン系(TZDs)として知られる一般的な糖尿病薬の類似化合物が肺腫瘍細胞のカルボプラチン化学療法への感受性を高めたことを米国科学アカデミー紀要(PNAS)誌で報告した。げっ歯類において、カルボプラチンと試験化合物の1つであるSR1664を併用投与した腫瘍は、カルボプラチンを単独投与した腫瘍よりも重量が軽かった。

本研究では、カルボプラチンと試験化合物の併用により、実験室においてトリプルネガティブ乳がん細胞の感受性が高まり、自己破壊を引き起こしたことも示された。しかし、すべての種類のがん細胞が同化合物を併用した化学療法に対して脆弱になるわけではないと、著者らは記している。

がんの生物学者Bruce Spiegelman博士が率いる研究者らは、「これらのデータは、[試験中の抗糖尿病化合物]を、さまざまな悪性腫瘍に対する従来の化学療法との併用して臨床に使用することを検討するべきであると強く示唆しています」と述べている。

本報告の筆頭著者は、マサチューセッツ総合病院の放射線腫瘍医Melin Khandekar医学博士であり、Spiegelman研究室で研究を行っている。他の著者らは、スクリプス研究所分子標的療法部門に所属している。

本研究で用いた実験化合物は、新たに発見された細胞プロセスを標的とする。細胞プロセスによって、細胞は、たとえばいくつかの化学療法剤によって引き起こされる損傷などのDNA損傷に応答して自己修復する。細胞プロセスは、Spiegelman博士が発見した受容体であり、脂肪細胞の発達に不可欠なPPAR-gammaのリン酸化と呼ばれる変化を伴う。PPAR-gammaは、rosiglitazone[ロシグリタゾン]およびピオグリタゾンなど、チアゾリジン(TZD)系糖尿病薬の標的でもある。PPAR-gammaは、肺がん、トリプルネガティブ乳がん、大腸がん、および膵臓がんなど、いくつかのがんにおいて発現する。

化学療法を強化する糖尿病薬の可能性が追求され始めて何年も経過している。2007年、Spiegelman氏らは、ロシグリタゾン(商品名Avandia)をプラチナ化学療法剤との併用で投与した場合、単独で投与したいずれの薬剤よりも3倍も効果的にマウスの腫瘍を活動停止または縮小させたと報告した。これらの結果から、プラチナベースの化学療法とともにロシグリタゾンを投与することにより、いずれはプラチナ化学療法剤に耐性をもつようになるがんの制御を向上させる可能性が示唆された。しかし、Khandekar医学博士によると、ロシグリタゾンを服用した患者において心臓発作の報告があったため、薬品に連邦政府の警告ラベルを表示する結果となった(警告はのちに削除)。化学療法を糖尿病薬と併用するという「アイデアは上記報告のせいで、色あせた感じがありました」と、同博士は述べた。

今回の新規研究には、スクリプス研究所でPNAS論文共著者のPatrick Griffin博士が開発した薬剤が用いられている。これらの薬剤もPPAR-gammaに作用するが、従来のTZD薬とは作用の仕方が異なる。研究者らは、この新規化合物をPPAR-gammaの「非定型的(non-canonical)アゴニストリガンド」またはNALと呼ぶ。本報告の著者らによると、非定型的アゴニストリガンドは、TZD抗糖尿病薬の特性の多くを備えながら、体重増加、骨量減少、体液貯留などの副作用が少ない。

がん細胞によるDNA損傷の修復を可能とするメカニズムとしてのPPAR-γのリン酸化を明らかにすることによって、化学療法に対するがん細胞の感受性をより高くするために、「今、われわれにはPPAR-gammaの非定型的アゴニストリガンドを使用する合理的な根拠があります」と、Spiegelman博士は説明している。

Khandekar医学博士は、「これらの薬剤は、既存の化学療法と組み合わせることができる[従来のTZD抗糖尿病薬よりも]さらに安全な選択肢を提供する可能性があります」と付け加えている。これによって、特定の種類のがん患者の治療が強化できる。

本研究は、国立がん研究所・マサチューセッツ総合病院Federal Share Program NCI-C06-CA-059267、国防総省Lung Cancer Research Program Career Development Award LC140129および米国国立衛生研究所Grants DK31405/DK107717から助成を受けた。

翻訳担当者 坂下美保子

監修 稲尾 崇( 呼吸器内科/天理よろづ相談所病院 )

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