抗アンドロゲン薬とアロマターゼ阻害薬の併用がHR+乳がんに有効

【サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)2017 】

ホルモン受容体陽性(HR+)乳がん患者に対するエンザルタミドという薬剤について初となるランダム化臨床試験
の結果、一部の患者において、エンザルタミドとエキセメスタン併用投与は、エキセメスタン単独投与の場合よりも疾患をより長くコントロールできることが判明した。この知見はサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)でダナファーバーがん研究所の研究グループが報告した。

エンザルタミドはアンドロゲン受容体(AR:アンドロゲンホルモン(男性ホルモン)により刺激されて作用するタンパク)が、がん細胞増殖シグナルを伝達する能力を阻害する。エンザルタミドは、アンドロゲン拮抗薬に反応を示さない転移性前立腺がん患者の治療に使われている。乳がん治療薬としてのエンザルタミドの可能性は、驚くべき研究知見からもたらされた。すなわち、女性ホルモンであるエストロゲンおよびプロゲステロンに対する受容体を有する乳がんの75%以上は、アンドロゲン受容体も保有しているのだ。アンドロゲン受容体シグナル伝達に反応して増殖する乳がんは、しばしばエストロゲンあるいはプロゲステロンを遮断する治療に抵抗性である。

男性ホルモンのアンドロゲン受容体(AR)活性化を阻害するエンザルタミドなどの薬剤はARシグナル伝達に反応して増殖する乳がんの増殖を停止あるいは遅延させると期待されている。これまでの研究では、AR陽性の進行性トリプルネガティブ乳がん患者において有効であることが判明している。

第2相臨床試験である現行試験では、進行あるいは転移した女性ホルモン(HR)陽性乳がん患者においてエンザルタミドとアロマターゼ阻害薬であるエキセメスタンの併用投与を、エキセメスタン単独投与と比較している。内分泌療法(エストロゲンあるいはプロゲステロンを遮断する療法)を以前に受けているかどうかに基づき患者を2群に分けた。研究チームは、遺伝子バイオマーカーを用いてアンドロゲン受容体シグナル伝達の活性化を有する患者の腫瘍を判別した。アンドロゲン受容体シグナル伝達活性化腫瘍はエンザルタミドとエキセメスタンの併用投与に反応する確率がより高いと考えられた。

合計247 例の患者がこの研究に登録された。内分泌療法未経験の患者およびアンドロゲン受容体シグナル伝達に対するバイオマーカー陽性腫瘍の患者において無増悪生存期間(PFS:疾患が増悪するまでの期間)の有意な延長が認められた。この患者群の無増悪生存期間の中央値は、併用投与を受けた患者では16.5カ月であったのに対し、エキセメスタン単独投与を受けた患者では4.5カ月であった。腫瘍にバイオマーカーが認められない患者、あるいは内分泌療法を受けたことのある患者において、この併用療法では無増悪生存は延長しないようであった。研究参加者においてこの併用療法の忍容性は良好であった。

「この研究により、アンドロゲン受容体シグナル伝達が活性化したホルモン受容体陽性乳がん患者の転帰を改善できる可能性があることが判明しました。この研究規模は比較的小さいため、追加試験でこれらの結果をまず確認する必要があります。ですが、これらの結果が確認されれば、この非常に多くみられる種類の乳がんに対する重要で新しい治療法がもたらされるかもしれません」と本研究の筆頭著者でダナファーバーに所属するIan Krop医学博士は述べる。

翻訳担当者 三浦 恵子

監修 野長瀬 祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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