乳がん術後トラスツズマブ後のネラチニブ投与は長期生存を改善

ExteNET試験は5年経過時点において、1年間の術後トラスツズマブ療法後のneratinib[ネラチニブ]1年間投与による有意な臨床的有用性を示す

術後ネラチニブ療法による延長治療を受けた早期HER2陽性乳がん患者において、健康関連QOL(HRQoL)が一時的に低下したものの、浸潤疾患のない生存(無浸潤疾患生存)率は有意に改善した。この知見は、スペイン、マドリードで開催された欧州臨床腫瘍学会ESMO2017で発表された第3相ExteNET試験の付随研究による。

本研究の筆頭著者で、Universitario Gregorio Marañón総合病院(スペイン、マドリード)腫瘍内科部長のMiguel Martin氏は、当初から計画されていたExteNETデータ5年時解析の有効性の知見を発表した。ExteNET試験は、早期HER2陽性乳がん患者における術後トラスツズマブ療法後のネラチニブの抗がん効果を評価する試験である。

ExteNETでは、術後トラスツズマブ療法を受けた高リスク早期HER2陽性乳がん患者に、引き続き1年間のネラチニブ投与をプラセボ投与と比較した結果、追跡調査2年時点の無浸潤疾患生存(主要評価項目)の有意な改善がみられた(ハザード比(HR)0.67; 95%信頼区間(CI)0.50,0.91(p = 0.0091))。

今回発表されたのは、当初から計画されていた5年時解析の結果で、その目的はネラチニブが長期生存率を改善できるかどうかを検証することであった。第3相国際多施設、二重盲検プラセボ対照試験ExteNETでは、トラスツズマブによる初回治療後1年間、ネラチニブを1日240 mg経口投与する群とプラセボ投与群のいずれかに患者を無作為に割りつけた。ランダム化から2年後、患者の同意があれば、さらに3年間、医療記録から疾患再発と生存に関するデータを収集した。解析はITT (intention-to-treat)解析で行い、同意を得られなかった患者については最終診察時で打ち切りとした。

5年時点の無浸潤疾患生存率は、ネラチニブがプラセボと比較して有意に良好であった

ESMO2017で報告された最新5年時有効性の所見は、ITT集団の患者2,840人を対象とした解析に基づき、患者の内訳はネラチニブ投与患者1,420人、プラセボ投与患者1,420人であった。このうち、開始から2年間の追跡期間中に53人の患者が死亡し、患者2,117人(76%)が追加の追跡調査に同意した。全体の1,796人でHER2の中央判定が行われ、陽性と判定されたのはネラチニブ投与群で90.4%、プラセボ投与群で88.2%であった。全体では、ホルモン受容体陰性患者1,209人における無浸潤疾患生存率は、ネラチニブ投与群で88.8%、プラセボ投与群で88.9%あった(p = 0.762)。

追跡期間中央値5.2年の後、ITT集団の患者2,810人における無浸潤疾患生存率は、ネラチニブ投与群で90.2%、プラセボ投与群で87.7%であった(HR 0.73; 95%CI 0.57,0.92(p = 0.008))。

全生存データは最終データには至っていない。

健康関連の生活の質(HRQoL)における小変化が確認された

9月11日、ESMO2017総会のポスタープレゼンテーションで、Institut Gustave Roussy(フランス、ヴィルジュイフ)腫瘍内科准教授Suzette Delaloge氏は、ExteNET試験の探索的評価項目である健康関連の生活の質(HRQoL)の経時的評価で得られた共有知見を発表する。患者2,407人が乳がん専用FACT-B質問票に対して、2,427人が全般的HRQoL EQ-5D質問票に対して、治療前および1カ月、3カ月、6カ月、9カ月、12カ月後に回答した。

この試験における質問票回答率は85%以上であった。FACT-B質問票への回答者はネラチニブ投与群1,171人およびプラセボ投与群1,236人、EQ-5D質問票への回答者は、ネラチニブ投与群1,186人およびプラセボ投与群1,241人であった。

共分散分析(欠測値への補完なし)を用いてベースラインからのスコア変化を評価し、代替方法を用いた感度解析を実施した。RQoLスコア変化は、文献で報告されているMCID(臨床的に意義のある最小変化量)よりも大きい場合に臨床的に有意であるとみなした。

ネラチニブ投与群では、1カ月後のHRQoLスコアがプラセボ投与群と比較して低下した(調整平均差:FACT-B合計-2.9ポイント、EQ-5Dインデックス-0.02)。それ以降の時点では2群間の差はなくなった。1カ月後のFACT-B身体的充足度サブスケールを除いて、2群間の差はいずれもMCID未満であった。欠測データを調べる感度解析でも、これらの結果は変わらなかった。

著者らは、ネラチニブに伴う下痢が1カ月後の身体的充足度におけるHRQoL低下の要因である可能性があると示唆した。

ネラチニブの有用性を示すBCSスコアのわずかな改善が報告された。BCSスコアの平均差は、5つの時点でそれぞれ0.3、0.7、0.4、0.6、0.2(すべてMCID未満)であった。

結論

早期HER2陽性乳がん患者において、術後トラスツズマブ療法後の1年間のネラチニブ投与は、5年時点の無浸潤疾患生存率の有意な改善を伴う長期持続効果を示した。

Martin教授と共著者らは、プロトコルで特定したサブグループ解析結果は、ホルモン受容体陽性患者がネラチニブからより大きな利益が得られたこと、さらに、副次的有効性評価項目が主要解析の結果を支持していることを示唆していると結論づけた。

Delaloge教授らの概要説明によれば、ネラチニブは初期の一時的HRQoL低下を伴い、特に身体的充足度についてはネラチニブによる下痢が原因で低下したとのことである。また、1カ月時点以降のすべての時点で身体的充足度に関してみられたプラセボに有利な比較的小さな差異と、ネラチニブに有利な乳がんスケールBCSの変化は、臨床的には重要でない可能性があると結論づけた。

カリフォルニア大学サンフランシスコ総合がんセンターの乳がん・臨床試験教育部門長であるHope S. Rugo 内科学教授は、ExteNET試験の結果について次のように述べた。本研究は、短期追跡調査のためのスポンサーや当初計画の変更に伴う制約にも関わらず、特に高リスクHR陽性疾患において臨床的に有意な有用性を継続して示した。下痢は制限因子であるが、治療の必須要素である予防によって有意に抑制することができる。生存データは保留中であり、遠隔イベントの減少が有望視される。

開示

本試験は、Puma Biotechnology社の資金提供を受けた。

引用文献:

Chan et al. Neratinib after trastuzumab-based adjuvant therapy in patients with HER2-positive breast cancer (ExteNET): a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol 2016;17(3):367-377.

参考文献:

149O – Martin Jimenez M, et al. Neratinib after trastuzumab (T)-based adjuvant therapy in early-stage HER2+ breast cancer (BC): 5 year analysis of the phase III ExteNET trial.

177P – Delaloge S, et al. Effects of neratinib (N) on health-related quality of life (HRQoL) in early-stage HER2+ breast cancer (BC): longitudinal analyses from the phase III ExteNET trial.

翻訳担当者 山田登志子

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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