エクセプショナル・レスポンダーに関するがん研究の進展
同じ状況にあるほとんどの患者に有効でなかった治療に対し、劇的かつ持続的な反応をみせる「エクセプショナル・レスポンダー(例外的に奏効した症例)」を調査している研究者らが、このほど会合して意見交換するとともに、この新たな分野における最新科学について議論した。
この米国国立がん研究所(NCI)主催のこの会議は、5月11日にメリーランド州ロックビルのシェイディグローブ・キャンパスで開かれた。本会議では、治療に対し例外的な反応をもたらす生物学的機序について知見を得るためのパイロット研究であるエクセプショナル・レスポンダー・イニシアチブの進展が主要議題であった。
エクセプショナル・レスポンダーから採取した腫瘍を分析することで、研究者はそうした治療に対する反応の根底にある遺伝的および分子的変化を特定したいと考えている。こうした研究はまた、同じあるいは類似の治療を受ける他の患者の反応を予測するバイオマーカーの発見につながる可能性がある。
「この会議は、エクセプショナル・レスポンダーに関する研究者グループからフィードバックを得るとともに、こうした分野でのNCIの取り組みについて最新情報を提供することが目的でした」と、本ワークショップを実施したNCIがん診断プログラムのLyndsay Harris医師は述べた。
エクセプショナル・レスポンダーのパイロット試験では、治療に対する並外れた反応が確認された100人の患者を調べることを目標にしている。現在までに40件以上の症例を解析したと、NCIがん治療および診断部門のBarbara Conley医師はこの会議で述べた。
「私たちは、エクセプショナル・レスポンダーを見つけ、パイロット試験に登録し、分子的研究を実施することが可能であることを示しました」と、Harris 医師は述べた。本試験に登録した患者は、一般的な腫瘍からまれな腫瘍まで、幅広い種類のがんを有しているという。
「初期の知見から、並外れた奏効を引き起こす特徴を特定できるかもしれないという証拠がありますが、時間はかかるでしょう」と同医師は付け加えた。
並外れた奏効を調査する
ワークショップで発表したスローンケタリング記念がんセンターのDavid Solit医師は、「これは重要な会議であり、研究の初期データは有望です」と語った。Solit医師は、NCIイニシアチブの基盤となった2012年のエクセプショナル・レスポンダーの研究を率いた。
以後Solit医師らは、他のエクセプショナル・レスポンダーを研究し、いくつかの例では、当該患者に治療が奏効した理由の説明に役立ちそうな腫瘍の分子変化を特定した。
そうした患者のなかに、51歳の女性膀胱がん患者がいる。この患者は、第1相試験で受けた2剤の併用療法が完全奏効した。遺伝子解析をしたところ、患者はRAD50と呼ばれる遺伝子に、膀胱がんに関連する変異があることが示された。この変異ががんの進行を促進するだけでなく、腫瘍の治療に対する感受性を高めていたと、研究者は報告した。
本報告書まで、 RAD50変異は有望な予測バイオマーカーとは見なされていなかったと、Solit医師は述べた。しかしこの発見は最終的には、腫瘍が体内のどこで発生したかにかかわらず、 RAD50変異を有するすべての患者に対する治療戦略につながる可能性があると示唆した。
腫瘍のプロファイリング
NCIの研究では、患者のサンプルは、the Baylor College of Medicine Human Genome Sequencing Center および the cancer genomics company Foundation Medicineの研究員が分析する。このプロセスには、DNAおよびRNAの配列決定と、特定のDNAセグメントのコピー数の算定が含まれる。
NCIがんゲノム研究センターのセンター長であるLouis Staudt医学博士は、「この種の分析は、エクセプショナル・レスポンダーに寄与した可能性のある細胞の、異常な生態の全体像を見るのに役立ちます」と、ワークショップで話した。
並外れた奏効について説明する手がかりをさぐるため、臨床医、分子生物学者、ゲノム専門家を含むチームが、各患者の治療記録に加え、分子および遺伝子の分析結果をレビューする。
「このプロセスは非常に労力と時間を要します」と、Harris医師は述べた。
研究者は、 ゲノムデータコモンズを介して関係者らがデータを利用できるよう提供する。これにより、他の研究者もこの情報を使って洞察し、自らの仮説を立てることができるようにする。
初期の結果を見る
エクセプショナル・レスポンダーを研究することが新たな洞察をもたらす例として、Staudt医師はドセタキセル、カルボプラチン、およびトラスツズマブ(市販名 ハーセプチン)が完全奏効した転移性乳がん患者の例をあげた。これらの薬剤の併用療法は、ほとんどの場合、同等の患者に長期的な効果をもたらさないが、完全奏効したこの患者には、治療効果が84カ月続いた。
この患者の腫瘍を分析した研究者は、損傷したDNAの修復を助ける遺伝子の変化を発見した。「この女性には、複数のDNA修復変異がありました」と、Staudt医師は述べた。このような組み合わせで変異を有している報告はこれまでになかったと、指摘した。
同医師はさらに、一部の患者が示す並外れた奏効は、免疫系が何らかの働きをしていることを示唆する予備的証拠があると報告した。
初期の研究結果に基づき、並外れた奏効を示した症例の腫瘍の10%〜20%が、非常に多くの遺伝子変異を有すると研究者らは推定している。最近の研究は、多くの変異を有することで、免疫攻撃に対する腫瘍の感受性が高くなる可能性を示している。さらにこうした腫瘍は、他の腫瘍よりも、免疫細胞がより効果的に浸潤できる可能があるという証拠もあると、同医師は述べた。
「並外れた奏効は、免疫系の作動に関連している可能性があります」とStaudt医師は話した。「どの患者が治療に対して並外れた反応を示すかを考える際に、一般的に、この考え方が役立つのではないかと思うのです」。
ただし、これらの初期の研究から確固たる結論を導き出すことは時期尚早だと、同医師は警告した。「これはきっかけを探す段階で、フォローアップには多くの作業が必要になるでしょう」と述べた。パイロット試験の結果を共有できるようになるのは、2018年になる見通しだとHarris医師は述べた。
「来年もこの会議を開く予定です。その時までに得た最新情報を、また、この分野の関係者に提供できるでしょう」と、同医師は話した。
エクセプショナル・レスポンダーはどう定義されるか?
エクセプショナル・レスポンダーとは、以下の反応を示すがん患者である。
- 類似の治療を受けている患者の10%未満しか完全奏効していない治療薬で、完全奏効する。または、
- 類似の治療を受けている患者の10%未満しか6カ月以上の部分奏効をしていない治療薬で、少なくとも6カ月間は治療効果が継続した部分奏効がみられる。または、
- その治療に関する文献で報告された奏効期間の中央値より3倍以上長く続いた完全奏効または部分奏効がみられる。
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