乳がん治療後フォローアップケアの役割を明確化する必要性

どの医療提供者ががんサバイバーの長期ケアを指導するべきかについて、一部のがんサバイバーから懸念や混乱の声が挙がっていることが新たな研究で確認された。

大規模な乳がんサバイバー群に対する調査を含む本研究では、積極的がん治療を完了した後、腫瘍医もしくはプライマリケア医のどちらに医療ケアを任せたいかの希望は実にさまざまであった。

研究では、一般的な予防医療とがん以外の症状に対する進行中の治療の担当にプライマリケア医を希望する女性が大部分であったが、少数民族の場合、そうした治療担当に腫瘍医を希望する女性が非常に多かった。さらに、他のがん検診と同様、フォローアップとしてのマンモグラフィーも腫瘍医の担当を希望する女性がほとんどであった。そうしたケアは従来、プライマリケア医が担当しているものである。

「医療提供者の役割と、だれがどのようなケアを担当しているかについて説明が十分に明確でないことに懸念があるのです」と、ミシガン大学助教Lauren Wallner博士は語った。同氏は本研究を主導している。「患者が、通常プライマリケア医が行う種類のケアを求めて腫瘍医での受診を希望する場合、求めるケアが受けられない可能性もあります」。

本研究は7月12日、 Journal of Clinical Oncology誌に掲載された。

教育、人種により受診希望が異なるケアもある

特定の集団を調査した以前の小規模研究では、長期の医療管理に関して患者が希望する内容は同様の傾向を示していた。Wallner氏らの意図は、これらの知見がはるかに大規模かつ多様な集団においても確認されるのか検証することであった。

研究者らは、監視疫学遠隔成績プログラム(SEER)レジストリを用いて、ジョージア州およびロサンゼルス郡にて2014年または2015年に早期乳がんと新規診断された女性を特定し、接触を試みた。研究者らが接触できた女性のうち2,400人近くの女性には担当のプライマリケア医がおり、進行中の医療ケアについて調査を完了することに同意した。

乳がんの手術後平均8カ月の時点で、以下4つのカテゴリーについて誰の担当を希望するのか、女性らの報告を受けた。

• 乳がんフォローアップケア(マンモグラフィーなど)
• 他のがん種の検診
• 一般的な予防ケア
• がん以外で現在および将来的に可能性のある症状治療(糖尿病、心臓疾患など)

ほぼ全員が、マンモグラフィー(93%)および他のがん検診(91%)の担当者として腫瘍医を希望していた。少数民族の女性では、ワクチン接種など一般的な予防ケア(21%)や、がんとは関連性のない症状のケア(16%)でも腫瘍医の担当を希望する人が相当数であった。

上記2番目の希望状況からは人種や教育水準によって違いがあることがわかり、研究者らは驚いたとWallner氏は説明する。

例えば、黒人女性は白人女性と比較して、一般的な予防ケアの担当者に腫瘍医を希望する傾向が2倍高かった。また、学歴が高校卒業以下の女性は高卒以上の学歴の女性と比較して、がん以外の健康問題の治療に腫瘍医を希望する傾向がより高かった。

研究参加者の3分の2は現在のプライマリケア医に2年以上かかっており、参加者の約4分の3はがん診断以降、少なくとも1回はプライマリケア医の診察を受けていたにも関わらず、上述のように腫瘍医を希望する傾向がみられた。

必要とされるサバイバーシップケアの役割を明確にする

ケア担当の希望は非常に個人的な問題で、どれが「正しい」とも「誤り」とも言えない。しかし一方で、腫瘍医が専門外の検査や処方について指示するのを患者が待っていれば、通常のケアがないがしろにされかねないとWallner氏は説明する。

「この種のデータは非常に重要です。というのも、治療を完了した人々に対して(フォローアップケアに関して)何が適切かについて、うまく話ができていないことを示しているからです」と、NCIがんサバイバー支援室長Julia Rowland博士は述べた。

「プライマリケア医は、(この医療を)提供できるとわかってはいるが、不安なので、ただちに腫瘍医へ患者を戻してしまう」ことも含めて、通常のがんフォローアップケアをプライマリケア医に移行することには障壁が存在するとRowland氏は説明する。

「腫瘍医も、プライマリケア医ががんについて(患者を)どうフォローするのかを理解しているとは思っていません。それについては研究済みです」と同氏は付け加える。「さらに、あらゆる面で愛着が生じます。患者は担当の医療提供者に対し、腫瘍医は患者に対して愛着が生じてしまうのです」。

Wallner氏は、治療修了後にプライマリケア医の元へ戻ること、そして、従来は腫瘍医が関わってきたフォローアップケアをプライマリケア医に任せることについて、医療提供者と患者の双方が安心できるように、より良い教育、コミュニケーション、そして明確な臨床ガイドラインが必要だと思うと述べた。

サバイバーシップ・ケアプランも有用でしょう、とRowland氏は付け加えた。「しかし、(サバイバーシップ・ケアプランが)ただ書類を作成して患者に手渡して『お元気で』と言うことだと考えるなら、われわれは失格です」。

「本当に大切なことは、プランの遂行に伴う会話です」同氏は続ける。「(サバイバーシップ)ケアプラン作成ミーティングが果たす重要な機能の一つは、ケアについてうまく調整すること、つまり、今後どのようなケアを誰が担当するのかを決めることであると、この研究は示唆しています」。

増加し続けるサバイバー数

今回の研究にはいくつかの制約があると、Wallner氏は注意を促した。 例えば、参加者全員が比較的生存率の高く、治療に伴う長期間の副作用レベルが低い早期がんであったことである。

さらに参加者全員が調査実施の直前にがん治療を完了していた。

「がん治療後の生活が長く続くと患者の希望がさまざまに異なってくることは、間違いなくあり得ることです」とWallner氏は述べた。同氏の研究チームは、女性患者を診断後最長5年間追跡調査し、彼女らの希望が変化するかどうか、またどのようにフォローアップケアを受けたのか調べようと考えている。

すでに過剰な医療制度において、フォローアップケアを切れ目なく提供する方法を見出すことだけは、今後ますます重要になってくるとRowland氏は締めくくった。

「がん発症率の上昇ではなく、人口の高齢化が原因で、がんと診断される人々の数がこれから大幅に増加してくることがわかっています。増加を続ける高齢者層に対し、どのようなケアが最善なのか、それがサバイバーシップ科学とケアにおける現在の最重要課題なのです」。

翻訳担当者 佐藤美奈子

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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