寡分割乳房部分照射
MDアンダーソン OncoLog 2017年8月号(Volume 62 / Issue 8)
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早期乳がん患者に対する乳腺腫瘍摘出術後の10日間外照射療法のレジメンを評価する臨床試験
乳房部分照射は、乳房温存術後の乳がん再発予防に効果的な戦略である。小線源療法は、最も研究されてきた照射方法ではあるが、侵襲的であり、広く行われてはいない。また、外照射での加速乳房部分照射療法はいくつかの試験で容認できないレベルの毒性が認められている。侵襲性や毒性は低いが、それでも短期間で行える補助放射線療法の方法を探索するなかで、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは早期乳がん患者を対象とした寡分割乳房部分外照射の臨床試験を行っている。
寡分割照射は、標準分割照射よりも線量を上げて少ない回数で外照射を行うが、乳腺腫瘍摘出術後の全乳房照射では安全性および有効性が証明されており、また患者にとっても利便性に優れ、費用が抑えられる(OncoLog 2015年1月号「乳癌患者の一部では、短期全乳房照射が有用な可能性」参照)。実際、現在MDアンダーソンでは、乳腺腫瘍摘出術を行った早期乳がん患者に対して、寡分割全乳房照射が標準治療として行われている。
放射線腫瘍科准教授のBenjamin Smith医師は「私たちの寡分割乳房部分照射の試験は、次の自然なステップです。乳房部分照射の良い点と寡分割全乳房照射の良い点を用いて、この2つの概念のすり合わせを行うのです」と述べた。
放射線腫瘍科教授のElizabeth Bloom医師は「最も利便性が高く、最も毒性が低い乳房部分照射の照射方法を探し出したいと思います」と付け加えた。
標準的な乳房部分照射の利益および限界
乳房部分照射は、全乳房照射と比べ照射野が小さいために、放射線関連の毒性作用は少なくなる。例えば、全乳房照射では乳房やその下の筋肉に、美容的な変化が生じたり瘢痕組織が形成されたりすることがあるが、こうした損傷も乳房部分照射を用いると、照射される組織の量が少ないため回避できる可能性がある。
小線源療法による乳房部分照射は、安全で効果的であるが欠点もいくつかある。まず、放射性ビーズを送るために用いるカテーテルが患者に不快感を与えることがある。また、カテーテルは治療期間中、留置しておかなければならない。次に、カテーテルには感染症のリスクが伴う。最後に、カテーテルの留置には専門的な訓練が必要である。このため、この治療は広く利用されていない。Bloom医師は「小線源療法はとても効果がありますが、高い技術を持つ人は米国内では限られています」と語った。
外照射療法は、小線源療法と比べて広く行われているが、好ましくない副作用があるとの評価のため、乳房部分照射への使用は一般的ではない。Smith医師は、「乳房部分外照射は、乳房組織の瘢痕化と美容的結果が不良となるリスクが小線源療法より高いことが、いくつかの試験で示されています」と語った。しかし、これらの試験では患者に1日2回5日間で照射が行われており、このような加速照射のスケジュールは小線源療法で用いられているものであることをSmith医師は付け加えた。
「1日2回の分割で外照射を行うと、治療と治療の間に正常乳房組織が自己修復する時間が十分ありません」とSmith医師は述べた。また、乳房部分外照射を標準的な分割(すなわち6週間かけて行う)で行うとすれば、不便さといった欠点や費用は全乳房照射と同じであると考えられる。
Smith、Bloom両医師、および両医師の共同試験責任医師は、1日1回の寡分割照射であれば、これまでの乳房部分外照射の試験でみられた副作用を回避できる可能性があると考えた。3月、両医師らは寡分割乳房部分外照射の臨床試験への患者の参加を開始した。試験はヒューストンにあるTexas Medical Center、The Woodlands、Sugar Land、Bay Area、KatyなどのMDアンダーソン病院で行われている。
臨床試験
OPAL(No.2016-1035)という第2相試験では、50歳以上の非浸潤性乳管がんまたは早期(T1またはT2、N0、M0)浸潤性乳がんの女性が現在登録中である。浸潤性の腫瘍は3 cm未満でエストロゲン受容体陽性であることが必須となっている。
乳房温存術を行った後、また希望であれば、直後に腫瘍形成外科による再建を行った後、患者は寡分割乳房部分外照射療法を受ける。総線量35グレイを1日1回10日間連続(週末と祝日を除く)で照射する。腫瘍の切除断端が2 mm未満の患者は、さらに9グレイを3分割で追加照射する。投与線量が全乳房照射に用いる標準レジメンと同等であることを保証するために、生物統計学部教授で放射線生物学者のHoward Thames, Jr.博士がこのレジメンを評価した。
本試験の主要評価項目は、照射療法開始から6カ月目の追跡調査来院までのグレード2以上の毒性作用の発生率とする。「私たちの目標は、この発生率が寡分割全乳房照射の最新の試験で得た最も低い発生率を下回ることです。なぜならば、私たちが現在行っている試験の患者は、乳腺腫瘍摘出術を受けたほとんどの患者と同じように、この治療の適応があるからです」とSmith医師は語った。
副次的評価項目は、患者からの報告による美容的結果とする。患者は、ベースライン時、6カ月目の追跡調査来院時、その後は1年ごと5回の追跡調査来院時に、自身の乳房がどう見えるか、またどう感じるかを質問票に記入する。これらの結果は、最新の寡分割全乳房照射試験のデータと比較する。
OPAL試験の転帰が良好なものであれば、Smith、Bloom両医師および共同試験責任医師らは、寡分割乳房部分照射と寡分割全乳房照射の転帰を直接比較するランダム化試験を計画するかもしれない。Bloom医師は「必要がないなら、健常な組織への照射は減らすべきでしょう」と述べた。
【画像キャプション訳】
外照射の治療計画では、乳房部分照射(左)は、健常な乳房、肋骨、および肺組織に対し全乳房照射(右)の線量より有意に低い線量が照射されることが示されている。画像はElizabeth Bloom医師の厚意による。
For more information, contact Dr. Elizabeth Bloom at 281-646-2244 or ebloom@mdanderson.org or Dr. Benjamin Smith at 713-563-2380 or bsmith3@mdanderson.org. For more information about the OPAL trial, visit www.clinicaltrials.org and select study No. 2016-1035.
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