BRCA変異陽性で卵巣がん既往女性への乳房切除術は効果が薄い

予防手術は生存への有益性が少なく高コストと研究で判明

BRCA遺伝子の変異は、乳がんおよび卵巣がんの生涯の発症リスクの上昇と呼応しており、この遺伝子変異を有する女性の多くが予防措置として乳房切除術または卵巣および卵管の摘出を検討する。

しかし、すでに卵巣がんを患ったBRCA変異陽性の女性にとっては 、リスク低減のための乳房切除術は、費用に見合った価値がない可能性がある。デュークがん研究所の新規の研究により、この特定グループに属する女性にとって、予防的乳房切除術は、大幅な延命効果をもたらさず、費用対効果が悪いことが見出された。

この知見は、全米総合がんセンターネットワークの最新のガイドラインが、卵巣がんに罹患した多くの女性に、その家族歴にかかわらず遺伝子検査を検討するよう推奨していることから、特に注目すべきである。現在、卵巣がんに罹患した女性で自分にBRCA遺伝子変異があることを知る人は以前より増えている。

「リスク低減乳房切除術は費用がかかり、長期のフォローアップ期間と回復期間を要する可能性があります」と本研究の筆頭著者で、デューク大学医学部の修練医であるCharlotte Gamble医師は話す。「われわれの研究結果では、乳房切除術は、BRCA遺伝子変異と卵巣がん既往歴の両方を有する女性の中でも、選択的に適用するべきであると強調しています」。

Annals of Surgical Oncology誌の7月11日付電子版で発表された本研究において、Gamble医師の研究グループは、リスク低減乳房切除術と、マンモグラフィーやMRIなどの乳がん検診とを比較する統計的モデルを構築した。モデルには、卵巣がんと診断された時の年齢、卵巣がんの診断からリスク低減乳房切除術までの期間、BRCA遺伝子状態、がん生存割合と治療コストなどの臨床的要因を組み入れた。リスク低減乳房切除術は、卵巣がんと診断された後6カ月ごとに実施された乳がん検診と比較された。

この研究の著者らはまた、増分費用効果比と呼ばれる費用対効果の測定について検討した。この比率が生存年1年あたり10万ドル以下である場合の医療介入は、医学文献上では一般に費用対効果が高いとみなされる。著者らはこの研究で同じ閾値を使用した。

著者らの解析によると、検診単独を上回るリスク低減乳房切除術の有益性は、卵巣がん診断時の年齢および乳房切除術時までの期間に大きく依存していた。すなわち、

・年齢を問わず、BRCA遺伝子1および2に変異があると診断され、卵巣がん診断から4年以内の女性において、予防的な乳房切除術は生存期間に関しごくわずかな有益性しかもたらさず、したがって費用対効果に優れているとは見いだされなかった。

・卵巣がんの診断以降の経過年数に関係なく、診断時の年齢が60歳以上の女性でも、生存月数の延長はごくわずかで、この予防的乳房切除は費用対効果が悪い。

・40-50歳でBRCA遺伝子1および2変異陽性と診断され、卵巣がんとの診断後5年以上経過した女性では、予防的乳房切除は検診と比較して2-5カ月の生存期間の延長と結びつき、費用対効果があると判明した。

「私たちの研究は、女性の年齢と卵巣がん診断後のリスク低減乳房切除術の時期が、この予防措置の有益性どれくらい影響するかを明確に示しています」とGamble医師は語った。「診断後5年以内ではリスク低減乳房切除術から利益を得られる方はいませんが、その閾値以降では、生存期間の延長は、主に、若く、健康状態が良好な卵巣がん患者にみられました」。

「この特定集団において、乳がんリスクをどのように管理するかについて正答も誤答もありません」と統括著者で、デューク大学外科助教Rachel Greenup医師は付け加えた。「しかし、女性とその主治医が卵巣がん治療後の予防的乳房切除術は有益かどうか、いつであれば有益なのかを判断する上で、私たちの今回の知見が指針となることを願っています」。

デューク大学の共著者は、Gamble医師、Greenup医師に加え、Laura Havrilesky氏, Evan R. Myers氏, Junzo Chino氏, Scott Hollenbeck氏, Jennifer Plichta氏, P. Kelly Marcom氏, E. Shelley Hwang氏, および Noah D. Kauff氏である。

著者らは、利益供与はないと報告している。

翻訳担当者 石塚啓司

監修 喜多川 亮(産婦人科/東北医科薬科大学病院)

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