ペムブロリズマブ+標準術前化学療法は高リスク乳がんの転帰を改善ーI-SPY 2試験
2017年度米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表されたデータには、局所進行トリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者およびホルモン受容体(HR)陽性HER2 陰性乳がん患者から得た知見が含まれた
局所進行のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者あるいはホルモン受容体(HR)陽性HER2 陰性乳がん患者に対し、術前化学療法として抗PD-1治療薬であるペムブロリズマブ投与と標準的治療(パクリタキセル投与後にドキソルビシン+シクロホスファミド[AC]投与)との併用を検証する第2相 I-SPY 2試験の結果、この併用療法は標準治療よりも推定病理学的完全奏効(pCR)率がトリプルネガティブ患者(60% 対 20%)およびHR陽性HER2 陰性乳がん患者(34% 対 13%)において約3倍高くなったことが明らかになった。
その結果、ペムブロリズマブの研究は、第3相検証試験における成功に関するベイズ予測確率に基づき、検討されたすべてのサブタイプ(トリプルネガティブ、HER2 陰性乳がんすべて、およびHR陽性HER2陰性乳がん)において第2相試験であるI-SPY 2試験から”卒業”した。データは、米国、シカゴにて開催された2017年度ASCO年次総会においてシカゴ大学のRita Nanda博士が研究チームを代表して発表した。
I-SPY 2試験(NCT01042379)は QuantumLeap Healthcare Collaborativeより後援を受けており、局所進行性乳がん(ステージ2/3)との新規診断を受けた患者を対象とした常設のランダム化第2相多施設共同試験であり、有望な新規治療をスクリーニングし、分子特性(バイオマーカーの特徴)に基づいた特定の患者サブグループにおいて、最も有効である治療法を特定する目的でデザインされている。本試験は、術前補助療法において、分子標的薬と標準化学療法との併用について標準化学療法を単独で行った場合と比較評価するアダプティブデザイン(*下部参照)である。主要評価項目は、手術時に特定の治療法の併用により乳房およびリンパ節でpCRとなる確率が上昇するかどうかである。
2017年度ASCO年次総会で発表されたI-SPY 2試験のデータは、事前に行った腫瘍プロファイリング(HR状態、HER2状態、およびMAMMAPRINT 70-GENE BREAST CANCER RECURRENCE ASSAY[マンマプリント70遺伝子乳がん再発アッセイ]など)を用いて再発リスクの高い患者で認められた結果に基づいている。患者にペムブロリズマブ併用または非併用で標準化学療法薬(パクリタキセル)を週1回12週間にわたり投与し、その後AC療法を3週間ごとに4サイクル投与した。試験では、ペムブロリズマブが”卒業”(第3相試験へ移行する)するまでの2015年12月から2016年に、患者69人がペムブロリズマブ投与にアダプティブに割り付けられ投与された。合計で、患者46人が手術を受け、残りの23人は治療中にMRIによる評価を受けた。
TNBC患者において、推定pCR率はペムブロリズマブ群で40%の絶対的増加が認められた(標準治療単独群では推定pCR率が20%であったのに対し、ペムブロリズマブ+標準治療併用群では60%であったことに基づく)。HER2 陰性乳がん患者において、推定pCR率はペムブロリズマブ群で30%の絶対的増加が認められた(標準治療単独群では推定pCR率が16%であったのに対し、ペムブロリズマブ+標準治療併用群では46%であったことに基づく)。HR陽性HER2 陰性乳がん患者において、推定pCR率はペムブロリズマブ群で21%の絶対的増加が認められた(標準治療単独群では推定pCR率が13%であったのに対し、ペムブロリズマブ+標準治療併用群では34%であったことに基づく)。
全腫瘍のタイプに関し、ペムブロリズマブの安全性プロファイルはこれまでに報告されている研究で認められた結果と一致していた。ペムブロリズマブ群におけるグレード3~5の治療関連有害事象は下痢(5人)、発熱性好中球減少症(5人)、倦怠感(4人)、貧血(3人)、嘔気(3人)、発熱のない好中球減少症(1人)、末梢性運動ニューロパシー(1人)、末梢性感覚ニューロパシー(1人)、および嘔吐(1人)などであった。グレード3~5の免疫介在性有害事象は、副腎機能不全(5人)、肝炎(2人)、大腸炎(1人)、および甲状腺機能低下症(1人)などであった。患者6人中5人がAC療法投与終了後(ペムブロリズマブ投与開始後21~24週目)に、残る1人がペムブロリズマブ投与中(ペムブロリズマブ投与開始後5週目)に副腎機能不全を発症した。
I-SPY(Investigation of Serial Studies to Predict Your Therapeutic Response with Imaging And moLecular Analysis)試験は米国食品医薬品局(FDA)、第一線の大学病院、および患者支援団体、ならびに製薬企業およびバイオ企業が一つとなったコンソーシアムによって実施された。
I-SPY 2試験は全米の主ながん研究センター20カ所、QuantumLeap Healthcare Collaborative、FDA、および Foundation for the National Institutes of Health (FNIH) Cancer Biomarkers Consortiumの共同研究である。主な後援者にはThe Safeway Foundation およびBill Bowes Foundationなどがある。
I-SPY 2試験の適応型統計学的デザインは、FDA、企業、および多くの第一線の大学からの協力者との共同研究により、I-SPY試験の草分け的な臨床試験責任医師( Laura J. Esserman医師[MBA]、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの生物統計学部教授であるDonald A. Berry博士、ならびに Berry Consultantsの創業者)が開発した。I-SPY 2試験には50人を超える臨床医が試験に積極的に実施するという類のない共同研究である。
I-SPY 2試験のアダプティブデザインはベイズ予測確率に基づいている。このベイズ予測確率により、均等に無作為化した患者300人を対象とした検証試験においてバイオ製剤によるレジメンは標準療法よりも統計学的に優れていることが明らかになると考えられる。事前に定義した10個のバイオマーカーの特徴中1個以上が優れていることを示すというベイズ予測確率が高率のレジメンは、第2相試験であるI-SPY 2試験を”卒業”し第3相試験に進む。10個の特徴すべてにおいて標準療法よりも優れているという予測確率が低率のレジメンは無益性のために中止する。各実験的レジメンに最大で計120人の患者を割り付けることができる。レジメンへの患者60人の割り付けが終了後、いつの時点でも、次のステージの試験に早期に進むことが可能である。
*アダプティブデザイン詳細はこちらを参照。https://www.cancerit.jp/kokyuukigann/haigann/post-869.html
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