化学療法治療が歩行とバランス感覚に悪影響を及ぼす

 オハイオ州立大学総合がんセンターのArthur G. James Cancer Hospital and Richard J. Solove Research Institute (OSUCCC–James)の研究者らによっておこなわれた乳がん患者を対象とした新たな研究によると、1回の化学療法が歩行とバランスに重大な悪影響を及ぼし、転倒リスクを高める可能性がある。

患者の最大60%が手や足の感覚に影響を及ぼす神経障害の化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN)を経験するが、この障害がいつ、どの程度まで機能的能力に影響を及ぼすかについてはほとんど知られていない。

この新しい研究は、タキサン系化学療法治療中および治療後のがん患者の機能的能力を客観的に測定する最初の試験である。研究者らは、Ⅰ-Ⅲ期の乳がん患者33人を追跡調査し、治療開始前から治療終了後3カ月までの5つの時点で、機能的なパフォーマンス(立位バランスと歩行)および患者報告によるアウトカム評価を行った。

研究者らは、たった1回の化学療法治療後で、体の左右の揺れ(内側–外側)が28%増加することを観察した。累積的な化学療法治療では48%に増加した。また、患者は3サイクルの化学療法後に歩行速度が5%低下することが認められた。

「これは単に生活の質の問題ではありません。末梢神経障害は治療を受ける能力に多大な影響を与えるもので、治癒の可能性を制限するかもしれません。重大な神経障害を発現した患者には、耐容できる治療計画に変更することがよくあります。治療の中止を余儀なくされる場合もあります」とOSUCCC–James乳がん治療後ケアサービスのディレクターで本研究の統括著者であるMaryam Lustberg医師(公衆衛生学修士)は述べた。「われわれは、患者が治療の利益をすべて得ることができるように、これらの治療法をより許容できるようにする必要があります」。

Lustberg医師らは、タキサン投与は感覚症状の悪化および姿勢制御の悪化に関連していると報告している。また、患者のバランスと自己報告による感覚症状との間にも関連があった。

本研究は、医学誌「Breast Cancer Research and Treatment」の印刷物に先駆けて電子版で公開された。

重大な臨床的問題

末梢神経障害は、痛み、転倒、歩行困難、および日常生活動作の支障につながる。これらの症状は時間とともに改善する可能性があるものの、最大で30%の患者には、少なくとも6カ月にわたり持続する症状を経験する場合がある。

研究者らは、本研究ががん診療における身体的機能の客観的測定を実施する実行可能性および潜在的有用性の初検証を提供すると述べている。

「化学療法後のがん患者は、転倒のリスクおよび発生率が大幅に高まり、がん経験者の長期的な生活の質を考慮すると、重大な懸念事項です」とLustberg医師は付け加えた。「われわれの研究は、タキサン系化学療法が患者機能の基本要素にどのように影響するかについて、新たな知見を提供しています。これらの新しい知見は、患者がこれらの課題に対処するためのより良い対策を講じるのに役立ち、いくつかの症例では、別の治療法を選択することで副作用を減らすことができます」。

OSUCCC–Jamesは、タキサン系化学療法を受けている大腸がん患者の末梢神経障害を評価するために、この研究を拡大している。

臨床診療に歩行、バランステストを導入する

研究共著者でオハイオ州立大学ウェクスナー医療センターの理学療法、整形外科、機械工学、生体医工学の准教授であるAjit Chaudhari博士は、「本研究はがん治療後の長期的な成果を達成するための重要な第一歩であり、臨床診療に歩行およびバランスのスクリーニングのための新しいツールを提供します」と述べている。

「われわれは、歩行とバランスに影響を与える化学療法による副作用が早い段階で発現している患者を、臨床医が早期発見できる容易な臨床ツールを作成しました」とChaudhari博士は述べる。「多くのがん経験者が治療後も数十年にもわたる生活を送るため、がんを治療するだけではもはや十分ではありません。患者が望む豊かで楽しい人生を送れるように、われわれはできる限りの努力が必要です」。

本研究は国立がん研究所と米国国立科学財団大学院研究フェローシッププログラムからの助成金によって資金提供された。本研究の共同研究者は以下のとおりである。Ohio State researchers Scott Monfort, Xueliang Pan, PhD, Robyn Patrick, Bhuvaneswari Ramaswamy, MD, Robert Wesolowski, MD, Michelle Naughton, PhD, MPH; and Charles Loprinzi, MD, of Mayo Clinic.

翻訳担当者 小熊未来

監修 佐藤恭子(緩和ケア内科/川崎市井田病院)

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