トラスツズマブ+ペルツズマブ、一部の女性で浸潤性乳がん発生率低下

ASCOの見解

「HER2分子標的治療薬の導入と治療の成功は乳がん治療の転換点となりました。本研究に参加した女性の一部でHER2標的治療薬1種類の単独投与よりも2種類を併用投与した場合でより高い効果が得られたことに期待がもたれますが、再発リスクが低い女性においてこの2剤併用療法が優れていない可能性が明らかになっています」、とASCOの専門委員であるHarold J. Burstein医学博士(FASCO)は述べた。

HER2陽性乳がん患者4,805人を対象とした第3相臨床試験の結果により、術後に標準治療薬トラスツズマブ(ハーセプチン)に同じくHER2標的分子標的薬ペルツズマブ(パージェタ)を追加投与すると、効果は穏やであるものの有益である可能性が示唆された。

本試験結果は、本日、記者会見で取り上げられ、2017年度米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表された。

早期観察期間の3年目の時点で、浸潤性乳がんが発生してない患者は、トラスツズマブ単独投与を受けた患者のうち93.2%であったのに対し、ペルツズマブ+トラスツズマブの併用投与を受けた患者のうち94.1%であり、その差は1%であった。標準治療薬であるトラスツズマブの単独投与を受けた患者の予後はすでに良好であるものの、本試験でペルツズマブ+トラスツズマブ併用投与を受けた患者はトラスツズマブの単独投与を受けた患者よりも浸潤性乳がん発症率が19%低かった。

浸潤性乳がんは乳管あるいは乳腺から発症し、周辺組織に転移する。周辺組織への転移から隣接するリンパ節に転移し、また、そのリンパ節を超えた部位に転移が拡がる。したがって、浸潤性乳がんは非侵襲がんよりも治療が難しい。

「以前は、HER2陽性乳がん患者はHER2 陰性乳がん患者よりも予後が悪かったものですが、HER2標的治療薬の出現によりHER2陽性乳がん患者の見通しが変わりました」、と本試験の筆頭著者でドイツ、ノイ=イーゼンブルクGerman Breast Groupの会長であるGunter von Minckwitz医学博士は述べた。また、「初期の知見により、一部の女性において、トラスツズマブに加え別のHER2分子標的薬を投与することで、重篤な有害作用リスクを上昇させることなく転帰をさらに改善できる可能性が示されました」、と述べた。

トラスツズマブはHER2のみを標的とするが、ペルツズマブはHER2と HER3を標的とする。この2種類の抗体を用いることによりがん細胞増殖シグナルの阻害をより完璧なものにすることで、治療抵抗性の発生率をより低下できる可能性がある。著者らは、乳がんの診断を受けた全患者のうち約8%(米国では約2万人)が早期HER2 陽性乳がんであり、この補助療法が有効である可能性があると推定している。

試験について

乳房切除術あるいは乳房温存術を受けた後の早期HER2 陽性乳がん患者約5,000人を、、18週間の標準的補助化学療法に加え、1年間にわたりトラスツズマブ+プラセボの投与を行う群、あるいはトラスツズマブ+ペルツズマブの併用投与を行う群のいずれかに無作為に割り付けた。本試験では微小な腫瘍(直径1cm未満)を有する患者は化学療法のみでの治療が可能(HER2阻害薬を必要としない)であるため、組み入れなかった。

全体では、患者の63%でリンパ節にがんが転移しており(リンパ節転移陽性乳がん)、および36%がホルモン受容体陰性乳がんであった。両治療群のリンパ節転移陽性乳がん患者とホルモン受容体陰性乳がん患者の割合はほぼ同じであった。

主な知見

トラスツズマブにペルツズマブを追加投与すると、トラスツズマブ単独投与の場合と比べて浸潤性乳がんの発症率が19%低下した。追跡調査の中央値であるおよそ4年目の時点で、浸潤性乳がんを発症したのはペルツズマブ群の患者171人(7.1%)であったのに対し、プラセボ群では210人(8.7%)であった。

3年目の時点で、浸潤性乳がんがなかった患者はペルツズマブ群の94.1%であったのに対し、プラセボ群では93.2%であると推定された。ペルツズマブの効果はリンパ節転移陽性乳がん患者でわずかに高く、3年目の時点での無浸潤疾患生存率はペルツズマブ群で92%であったのに対し、プラセボ群では90.2%であった。一方、リンパ節転移陰性乳がん患者において、この3年目の早期解析時点でペルツズマブは無浸潤疾患生存率に影響を及ぼしていなかった。

「これらは極めて早期の結果でありますが、ペルツズマブ追加投与の絶対的利益が穏やかであることを考慮すると、主にリスクが最も高い患者(リンパ節転移陽性乳がん患者あるいはホルモン受容体陰性乳がん患者)で使用すべきです」、とvon Minckwitz博士は述べた。

重篤な有害事象の発生率は両群で低く、心不全あるいは心臓に関連する死亡の発生率はペルツズマブで0.7%であったのに対しプラセボ群では0.3%であった。重度の下痢症の発生率はプラセボで3.7%であるのに対しペルツズマブ群では9.8%であり、ペルツズマブ群のほうが高かった。

次の段階

研究チームはペルツズマブから得られる可能性のある長期的利益を模索する目的で患者の追跡調査を継続予定である。一方、本試験で採取した腫瘍検体をペルツズマブの追加投与が有効である患者の予測に有用である可能性を有するバイオマーカーについて検討している。

「また、術後化学療法の至適期間を明らかにするためにさらなる研究が必要です。術後の1年間通年での治療を要さず、6カ月の治療で十分な可能性があります」、とvon Minckwitz博士は述べた。

本試験はホフマン・ラ・ロシュ社の資金提供を受けた

翻訳担当者 三浦 恵子

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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