米国の転移乳がん女性患者数の推定

新たな試験により、乳がんの中で最も重症度の高い遠隔転移乳がん(MBC)の女性患者数が、米国内で増加していることが示された。これは、米国人口全体の高齢化および治療法の改善が原因だと考えられる。最初から転移乳がんと診断された女性、および当初はより早期(訳注:手術可能な状態で発見された乳癌を示すことが多く、日本の2cm以下の早期乳がんとはニアンスが異なる)と診断された後MBCに進行した女性など、MBCすなわち体内の遠隔部位に転移をきたした乳がんに罹患している米国内の女性患者数を推定することからこの知見を得た。

最初からMBCと診断された女性、特に若い女性での相対生存期間中央値および5年相対生存率が改善していることも明らかになった。

本試験は、米国国立がん研究所(NCI)のがんコントロールおよび人口科学(Cancer Control and Population Sciences)部門データ分析科長であるAngela Mariotto博士が主導し、NCI、転移乳がん連合(the Metastatic Breast Cancer Alliance)、およびフレッド・ハッチンソンがん研究センターに所属する共著者らとともに行われた。本知見は、2017年5月18日付のCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention誌電子版で発表された。NCIは、国立衛生研究所の下部組織である。

MBCの有病率に関する記述のなかで、こうした病態の女性が持つ保健医療ニーズにどのように対処するか、さらなる研究の必要性が示されている。Mariotto博士は、「このMBC患者グループの規模は拡大しつつありますが、今回の知見 は好ましいものです。なぜなら、時が経つにつれて、こうした女性がMBCを抱えて生きる期間がより長くなっているからです。MBCを抱えた状態で長く生きるということは、医療サービスおよび研究の必要性が増加することを意味します。われわれの研究は、こうしたニーズの実証に役立ちます」と語る。

当初からMBCと診断された女性患者数を推定することは可能であるが、米国のがん登録機関は通常再発に関するデータを収集・報告していないため、より早期の乳がんと診断された後に進行または再発してがんが遠隔部位に転移した女性患者数のデータは不足している。MBC女性患者の全体数をより正確に推定するために、今回、NCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)プログラムのデータを使用し、診断後にMBCに進行した女性を対象に含めた。2017年1月1日の時点で、米国内で150,000人を超える女性がMBCに罹患しており、その4分の3が当初はより早期の乳がんと診断されていたと推定された。

MBCの予後は不良であるにも関わらず、当初からMBCと診断された女性、特に若くして診断された女性の生存率および生存期間が改善していることも、試験により示された。15~49歳でMBCと診断された女性の5年相対生存率は、1992~1994年から2005~2012年の間に18%から36%へと2倍に上昇したと推定された。相対生存期間中央値は、1992~1994年から2005~2012年の間で、診断年齢が15~49歳の女性で22.3ヵ月から38.7ヵ月に、50~64歳の女性で19.1ヵ月から29.7ヵ月に延長した。当初MBCと診断された後、少数ではあるが相当数の女性が長い年数生存していることも報告された。2000~2004年に64歳未満で診断された女性の11%超が、10年以上生存していた。

こうした計算に基づき、MBC女性患者数は1990年から2000年にかけて4%、2000年から2010年にかけて17%増加したと推定され、その数は2010年から2020年の間に31%増加すると予測される。MBC女性患者の多く(40%)は罹患した状態での生存年数が2年以下であるものの、3分の1(34%)は罹患した状態で 5年以上生存している。

米国内のMBC女性患者数を推定するため、SEERプログラムから得た乳がんの死亡および生存に関するデータに逆算法を適用した。SEERは、特定の地域で診断されたがんの症例すべての臨床、人口統計、生命の状態に関する情報を収集している。今回の方法では、乳がんによる死亡は、乳がんの診断時に遠隔転移を発見された場合、または転移による再発が発見された場合のMBCを起点として導かれている。

再発の診断は多様な方法、様々な場所で行われる可能性があるため、再発データの収集は、がん登録機関にとっては課題であった。包括的かつ正確な再発データ収集を促進するため、NCIは、既存のデータを強化する方法および再発がんに関する情報を効果的に捕捉する情報科学的手法を明らかにすることを目的とした、複数の予備試験に資金を提供している。

本試験は、再発をきたした女性を含めることにより、現在の米国内のより正確なMBC女性患者数を示した。この推定により、保健医療計画策定への貢献、そして、こうした女性によりよいサービスを提供するという最終的な目標への貢献が可能になる。

Mariotto博士は、「今回の知見により、非転移性と診断されたにもかかわらず遠隔転移に進行していたMBC患者の大部分が、これまで適切に記述されてこなかったことが明らかにされています。 本試験では、再発防止に向けた研究および増加しつつあるこの患者集団に必要とされている、特有の研究がさらに促進されることを目指し、個人レベルでの再発に関するデータ収集の重要性を強調しています」と述べた。

翻訳担当者 前田 愛美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/彩の国東大宮メディカルセンター)

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