T-DM1がHER2陽性進行乳がん患者の生存期間を延長

前治療後に悪化したHER2陽性乳がん女性が抗体薬と化学療法薬の複合体を受けた結果、他の治療を受けた場合に比べて概して有意に長く生存したことがダナファーバーがん研究所およびベルギーの研究者主導による第3相国際共同臨床試験によって明らかになった。

The Lancet Oncology誌が 5月16日にインターネット上で発表したこの結果は、複合体trastuzumab emtansine の当該患者群の治療における役割を確固なものにしたと研究著者らは述べた。

TH3RESA試験として知られるこの試験には22カ国の146の治療センターで602人の患者が参加した。彼らはtrastuzumab emtansine(T-DM1)または主治医が選択する治療のいずれかに無作為に割り付けられた。全員がヒト上皮増殖因子受容体2型(HER2)タンパク検査に陽性反応を示した進行乳がん患者で(乳がん全体では約20%が陽性反応を示す)、化学療法薬とHER2を標的とするトラスツズマブやラパチニブの併用療法後もがんが進行していた。

研究者らが確認したところによるとtrastuzumab emtansine治療群の生存期間の中央値は22.7カ月だったが、これは主治医選択治療群の生存期間の中央値である15.8カ月に比べて44%の改善であった。(主治医が選択した治療は、抗HER2療法と単剤の化学療法との併用、あるいはホルモン療法との併用、またはこれらいずれかの単剤療法によるものだった)。Trastuzumab emtansineによる生存期間向上は、年齢、転移の度合い、前治療の回数、または主治医が選択した治療の種類に関係なく、患者全体に認められた。

重篤またはそれ以上とみなされる重篤な副作用の発生率は、trastuzumab emtansine治療群で40%で、主治医選択治療群における同発生率の47%に比べて低かった。

Trastuzumab emtansineは、HER2タンパクにくっついて増殖シグナル受領を阻止する抗体トラスツズマブと、細胞増殖を妨げる有力な化学療法剤emtansineとを結合したものである。 2つの薬剤を結合させることにより、HER2陽性がん細胞に直接emtansineを送達することができ、これにより実質的にemtasineはHER2陽性がん細胞の死滅に非常に有効で、かつ正常細胞の損傷をほぼ回避できる分子標的薬となる。

本論文の筆頭著者でダナファーバーのSuzan F. Smith Center for Women’s Centersの上級医師Ian Krop医学博士は以下のように述べている。「他の複数の抗HER2療法を受けてもがんが進行した患者であってもTrastuzumab emtansineによる治療が、他の薬剤に比べて生存期間を 有意に延ばしたことを示したという意味で、これは重要な試験です。この研究や他の研究をふまえて、抗HER2療法を受けてもがんが進行した患者にはtrastuzumab emtansineが標準治療とみなされるべきです」。

この試験の結果は、Krop氏を共著者としてフランスとイタリアの研究者主導で同時に行われたThe Lancet Oncologyの研究で確認されている。この研究では、治療歴のあるHER2陽性進行乳がん患者に対するtrastuzumab emtansineと、化学療法薬カペシタビンおよび分子標的薬ラパチニブ併用療法を比較した第3相EMILIA試験の結果が報告されている。 TH3RESA試験同様、trastuzumab emtansineで治療を受けた患者は、他の治療を受けた患者に比べて全生存期間が 良好であった。

この論文の統括著者はベルギーのルーベンにあるUniversity Hospitals LeuvenのHans Wildiers医師である。共著者は、韓国のソウルにあるUlsan College of MedicineのAsan Medical CenterのSan-Bae Kim医師、スペインのマドリッドにあるCentro Oncológico MD Anderson International EspanaのAntonio Gonzalez-Martin医師、Yale Cancer CenterのPatricia M. LoRusso整骨医学博士、フランスのニースにあるCentre Antoine LacassagneのJean-Marc Ferrero医師、スイスのバーゼルにあるF. Hoffmann La-Roche, Ltd.のTanja Badovinac-Crnjevic医師およびSilke Hoersch理学修士、およびGenentech, Inc.のMelanie Smitt医師である。

TH3RESA研究はスイスのバーゼルにあるF. Hoffmann La-Roche, Ltd.社の助成金により行われた。

翻訳担当者 関口百合

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告の画像

米国公衆衛生局長官がアルコールとがんリスクの関連について勧告

米国保健福祉省(HHS)ニュースリリース飲酒は米国におけるがんの予防可能な原因の第3位本日(2025年1月3日付)、米国公衆衛生局長官Vivek Murthy氏は、飲酒とがんリ...
【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果の画像

【SABCS24】乳がんctDNAによるニラパリブの再発予測:ZEST試験結果

ステージ1~3の乳がん患者において治療後のctDNA検出率が低かったため、研究を早期中止

循環腫瘍DNA(ctDNA)を有する患者における乳がん再発予防を目的とするニラパリブ(販売名:ゼ...
【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効の画像

【SABCS24】CDK4/6阻害薬の追加はHR+/HER2+転移乳がんに有効

「ダブルポジティブ」転移乳がん患者において、標準療法へのCDK 4/6阻害薬追加により、疾患が進行しない期間(無増悪期間)が有意に延長したことが、サンアントニオ乳がんシンポジウ...
【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性の画像

【SABCS24】中リスク乳がん患者のほとんどは乳房切除後の胸壁照射を安全に回避できる可能性


BIG 2-04 MRC SUPREMO臨床試験によると、中リスク乳がん患者は乳房切除後に胸壁照射(CWI)を受けても受けなくても、10年生存率は同程度であったという結果が、2024年...