乳がん術前化学療法後が完全奏効(pCR)した患者では局所転移リスクが低下

MDアンダーソンの研究では、化学療法後のリンパ節郭清を回避できる可能性のある患者を特定している。

化学療法後に病理学的完全奏効(pCR)に達した一部の乳がん患者では、その後の乳房、リンパ節または腋窩郭清を避けられる可能性がある。この新たな知見がテキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによって報告された。本日JAMA Surgery誌に発表された研究では、局所転移のリスクが最も低く、それにより侵襲の少ない治療法の候補となる優れた奏効例が特定されている。

世界中で毎年約37万人の女性がトリプルネガティブやHER-2陽性乳がんと診断されていると説明するのは、乳腺腫瘍外科教授で本研究の臨床試験責任医師であるHenry Kuerer医学博士である。これら患者の60%が、初回治療として行われた術前化学療法で、乳房および腋窩リンパ節ともに病理学的完全奏効(pCR)または残存病変なしという結果をもたらす。

「この高いpCR率は、当然のことながら、すべての患者、特に術後放射線療法を受ける患者にとって乳房手術が必要かどうかという疑問を投げかけています」とKuerer氏は述べた。「これら優れた奏効例において次に重要な問題は、リンパ節を切除するための腋窩郭清も省くことができるかにあります」。

手術を避けられる可能性のある患者を決定するためには、術前化学療法後のpCR患者を正確に特定する必要があるが、標準的な乳房撮像法では、残存病変を正確に予測するのは不可能であった。

最近、Kuerer氏は、乳房pCRを予測するための画像ガイド下生検の有用性を調べる臨床的実現可能性試験を完了した。2016年サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された本研究の予備的結果では、術前化学療法後の残存病変を判定する100%の精度と100%の予測値を有する技術を明らかにした。

「われわれの予備調査では、診断時に行うのと同様の画像ガイド下の経皮的針生検を術前化学療法後に行うことにより、完全奏効を示す女性を正確に予測できることが明らかになりました」とKuerer氏は述べた。「その知見により、手術を受けないことや『最終的な乳房温存療法』が安全かどうかを検証する義務があります」。

現在の研究では、術前化学療法後にpCRに達した患者では、乳房手術に加えてリンパ節転移に対する腋窩郭清も避けることができるかを調査した。単一施設の前向きコホート研究では、2010年1月から2014年12月までにMDアンダーソンで治療を受けたT1-T2/N0-N1期のトリプルネガティブ(264人)またはHER-2陽性(263人)の乳がん女性527人が登録された。

すべての参加者は術前化学療法の後に標準的な乳房およびリンパ節郭清を受けた。臨床病期は、術前化学療法を行う前にコア針生検または吸引式針生検を行い、その後臨床検査、マンモグラフィー、乳房および腋窩の超音波検査を行い決定した。乳房pCRは、手術時に残存病変がないことと定義された。腋窩pCRは、腫瘍の転移を示す根拠がないと定義された。

全体で36.6%の患者が乳房pCRに達し、HER-2陽性(35.7%)患者よりトリプルネガティブ(37.5%)患者の方がわずかに高い割合を示した。N1病変患者のうち、77例(32.5%)が乳房pCR、N0期病変患者では116例(40%)が乳房pCRであった。

乳房pCRであったN0期の116人の患者全員は腋窩pCRにも達した。同様に、N1病変および乳房pCR患者の89.6%もリンパ節転移がみられなかった。全体では、トリプルネガティブとHER-2陽性乳がん患者との間に有意差はみられなかった。

「われわれの研究では、乳房pCRに達した患者は、リンパ節に残存病変を有する可能性が7分の1以下であり、N0期病変の患者間ではさらに顕著な差があります」と述べたのは、乳腺腫瘍外科のフェローであり、本研究の筆頭著者であるAudree Tadros医師である。「これらの知見に基づくと、初期のリンパ節陰性病変の女性は、術前化学療法後にpCRに達し標準的な放射線治療に移行できれば、乳房と腋窩の手術を避けることができると予想しています」。

このアプローチの有効性と安全性を調査するために、MDアンダーソンの臨床試験審査委員会は第2相臨床試験を承認した。この臨床試験は現在MDアンダーソンで公開されており、まもなくMDアンダーソンがんネットワーク内で公開される予定である。本研究では、ステージIおよびIIのHER2陽性およびトリプルネガティブ乳がんの女性が登録されている。術前化学療法後に画像ガイド下生検でpCRに達した参加者は、手術は行わず全乳房放射線を受けることが可能となる。初期の超音波検査で確認されたリンパ節陰性の患者では、腋窩郭清も避けることも可能である。この試験は、この設定で画像ガイド下生検を使用し、手術を行わない最初の試験である。

「手術が必要かどうかを検証することが急務です。患者との会話では、多くの人が過度の治療を懸念しています。患者は、最大限に個別化された、できる限り最小限の治療を望んでいます」とKuerer氏は語った。「不要な手術を避けることができれば、患者にとって、身体的にも心理的にも画期的なものとなるでしょう」

Kurer氏以外の全MDアンダーソン試験の著者は以下のとおりである:Dalliah M. Black、MD、Anthony Lucci Jr.、MD、Abigail S. Caudle、MD、Sara M. DeSnyder、MD、Mediget Teshomem、MD、Makesha Miggins、MD、Rosa F. Hwang、MD、およびKelly K. Hunt、MD、Breast Surgical Oncology; Wei T. Yang、M.D、Gaiane M. Rauch、M.D.、Ph.D.、Beatriz E.Adrada、M.D.、and Tanya Moseley、M.D.、Diagnostic Radiology of all; Savitri Krishnamurthy、M.D.、Pathology; Benjamin D. Smith、M.D.、Radiation Oncology; Vicente Valero、M.D.、and Carlos H. Barcenas、M.D.、Breast Medical Oncology.

本研究は、下記の機関から財政的支援を受けた。PH and Fay Etta Robinson Distinguished Professorship in Cancer Research、Cancer Center Support Grant from the National Institutes of Health (CA16672)。

翻訳担当者 橋本奈美

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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