ビスフェノールAが炎症性乳がんにどのような影響を及ぼすのか

化学物質が致死性の高いがんの増殖をどのように促進するかを明らかにした初の研究

化学物質のビスフェノールA(BPA)は炎症性乳がん細胞の生存を助けると考えられているが、デューク医科大学外科部門とデュークがん研究所が行った研究により、がんがどのように増殖するのか、その潜在的機序が明らかになった。

炎症性乳がん(IBC)は最も致死的で増殖の速い種類の乳がんで、すぐに治療抵抗性となる。

Carcinogenesis誌3月号の報告によると、統括著者であるデューク医科大学外科准教授のGayathri Devi博士と共同研究者らは、炎症性乳がん細胞において、ビスフェノールAはマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)として知られる細胞シグナル伝達経路を促進することを明らかにした。

「この研究により、BPAがMAPK経路と情報交換する受容体を介してシグナル伝達を増加させ、BPAの存在がこの経路を標的とする抗がん剤への耐性を引き起こす可能性のあることが初めて明らかになりました」とDevi氏は述べた。「われわれが使用した細胞モデルでは、シグナル伝達の増加に伴ってがん細胞の増殖が増加しました」。

過去の研究で、BPAと他の内分泌かく乱物質(体内でエストロゲンなどのホルモンを模倣する化学物質)が乳房組織腫瘍の発生を促進する可能性が示されている。しかし、本研究では、エストロゲン非依存性の増殖がどのように起こるのか、その潜在的機序に加え、具体的にどの化学物質が関与する可能性があるかを調査した。

本研究では、食品、医薬品および農産物などの日常環境中によくみられる6つの内分泌かく乱物質でIBC細胞を処理することから開始した。その結果、BPAは化学物質のトリクロロエタン(HPTE)およびメトキシクロルと共に、細胞表面に存在する表皮成長因子受容体(EGFR)に対するシグナル伝達を増加させることが明らかになった。

たとえば、細胞を低用量のBPAで処理すると、EGFR活性はほぼ2倍となった。さらに、MAPK経路に対するシグナル伝達も増加した。この増加に伴ってがん細胞増殖の指標も上昇した。

研究者らはさらに、がん細胞をBPAに曝露すると、EGFRシグナル伝達を阻害することでがん細胞を殺傷するように働く薬剤の有効性が制限されることを見出した。

「EGFRを標的とする抗がん剤がEGFRシグナル伝達の量を減らすことができないと、細胞死は減少してしまいます」と述べたのは、デューク医科大学内科教授で研究共著者のSteven Patierno博士である。「これは、化学物質への曝露が、治療に使用する適切な薬剤に耐性を示すある種の乳がんの発生を促進する可能性があることを示唆しています」。

Devi氏によると、本研究は、炎症性乳がんの攻撃的な性質についてより深い洞察を提供する数多くの研究を補強するものであるという。たとえば、最近Oncotarget誌に掲載された別の研究において、Devi氏と共同研究者らは、炎症性乳がん患者の腫瘍で過剰発現する特定の抗細胞死タンパク質を同定した。

「最終的に、このような研究が炎症性乳がんのより効果的な治療の開発に役立ち、生存率が改善することを願っています」とDevi氏は述べた。

Devi氏とPatierno氏に加え研究著者は以下のとおり:Scott J. Sauer; Michael Tarpley; Imran Shah; Akshay V. Save; H. Kim Lyerly; and Kevin P. Williams.

本研究は、環境保護庁およびノースカロライナ中央大学BRITE研究所と共同で行われた。また本研究は、デュークがん研究所のがんと環境開発基金、デューク医科大学外科部門からDevi氏に贈られたBolognesi 賞、デューク医科大学の炎症性乳がん コンソーシアム基金、アメリカがん協会 (RSG-08-290-01-CCE)および国立がん研究所(T32CA009111)の支援を受けた。

翻訳担当者 工藤章子

監修 上野直人(乳がん・幹細胞移植・細胞療法/MDアンダーソンがんセンター)

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