運動は最も有効性が証明された乳がん再発予防法

「1日30分の散歩が乳がん治療後の患者の再発予防に役立つ」とサン紙は報告する。

乳がんの治療を受けた女性の多くが、再発リスクの低下に役立ちそうな生活習慣に変えたいと強く思っているという事実がきっかけとなって、カナダの研究グループが最近のエビデンスのレビューを行った。しかし、矛盾するアドバイスが多く、十分な情報に基づいて判断することが難しい。

この研究グループによるエビデンスのレビューから、運動が乳がんの再発と死亡のリスクを下げる効果がもっとも大きいと報告されたことが明らかになった。

一般に推奨される1週間に150分の中程度から激しい運動、または75分の激しい運動に、週2、3回の筋力トレーニングを加えると、乳がん再発と死亡のリスク低下に役立つ可能性がある。

手術や化学療法の影響で運動への意欲を失うことがある。しかし、臨床指針は定期的な運動をする生活に少しずつ戻すことを推奨している。

研究の出典

この研究は、カナダ、トロントのオデットがんセンター・サニーブルック健康科学センター腫瘍・血液内科学科の研究グループが行った。

この試験への資金提供、および利益相反の申告はなかった。

この研究はピアレビューの学術論文誌、Canadian Medical Association Journalに報告された。オープンアクセスであるため、オンラインで自由に読むことができる。

メール紙電子版とサン紙はこの説を同じように報告しており、再発リスクを下げるには運動が重要であるということを強調している。

興味深いことに、サン紙の見出しは「毎日30分の早足ウォーキングで致命的な『乳がん再発を止める』」と、とても肯定的なのに対し、メール紙電子版は「飲みすぎ、体重増加、運動不足で乳がん再発リスクが上がる」と非常に悲観的な姿勢をとっている。

ただし、サン紙の見出しは完全に正確ではないという点を指摘するべきである。運動が再発リスクを下げることはわかっているが、再発を止めるわけではない。

サン紙はまた、この研究論文の著者の一人Ellen Warner医師の「乳がんには悪性度の高い性質のものもあり、最大限注意を払った生活を送っていても再発は起こる。生活習慣を十分に変えなかったから再発した、と患者が考えないように配慮すべきである」という警告を引用している。

研究の種類

これは、乳がんに罹患したことがある女性の予後における生活習慣因子の役割の検討を目的とした系統的レビュー(および関連するメタ解析)と一次研究のレビューである。

乳がん治療後の女性の再発や死亡のリスクを下げるために、治療に加えてどのような生活習慣の改善が推奨できるかを明らかにするために行われた。

この種のレビューはある分野の研究をまとめるには適した方法だが、その情報の信頼性は、レビューに含まれた研究と同程度でしかない。

さまざまな種類の研究が含まれているが、その大半が個別の観察研究の系統的レビューであるため、すべての交絡因子を説明することはできず、信頼度がばらつく可能性がある。

さらに、すべての関連研究が含まれているかどうかはわからない。つまり、選択バイアスがかかっている可能性がある。

明らかになった運動に関するエビデンス

22件のコホート研究をメタ解析したところ、運動が乳がんによる死亡リスクを約40%下げることが明らかになった(ハザード比[HR] 0.59、95%信頼区間[CI] 0.45 – 0.78)。これは、生活習慣因子が乳がんの転帰に与える影響の中で最大のものである。

週に150分以上の運動が推奨される。

明らかになった体重管理に関するエビデンス

・乳がん治療中または治療後に、元の体重の10%を超える体重が増加すると生存率が低下する可能性があるが、エビデンスは弱く、この結果は偶然の可能性がある(HR 1.17、95% CI 1.00 – 1.38)。

・10%未満の体重増加は生存率の低下とは関連しない。

・乳がんの再発リスクは体重増加によって上昇するかもしれないが、これは観察研究のみに基づいている。したがって、他にも多くの因子が関与している可能性がある。

・乳がん診断時に肥満または体重過多の女性の方が、転帰が不良である。

・減量に予防効果があるかどうかは解明されていない。

明らかになった食事に関するエビデンス

・食事と再発または死亡のリスクについての確かなエビデンスはみつからなかった。

・観察研究では、洋食(加工穀物、加工肉、赤身肉が多い)と、果実、野菜、全粒穀物、鶏肉が多い食事の間に、乳がん再発率の差は認められていない。

・大豆製品による乳がん再発の増加は認められなかった。大豆には植物エストロゲン(ホルモンのエストロゲンに類似)が含まれているので、異常な細胞増殖を促進する可能性もある。このレビューは、大豆ががんのリスクを低下させる可能性を明らかにしているが、エビデンスは弱い。

明らかになった喫煙に関するエビデンス

・20,691人の女性が参加した大規模観察研究によると、乳がんの診断後も喫煙を続ける女性は、喫煙したことがない女性と比較して、乳がんによる死亡率が72%高くなる(HR 1.72、95% CI 1.13 – 2.60)。

・診断後の禁煙が乳がん患者の生存率に影響を与えるかどうかについては十分なエビデンスがないが、肺がんなど他のがんや心臓発作や脳卒中などの心血管疾患のリスクは下がるであろう。

明らかになったアルコール摂取に関するエビデンス

・アルコールの摂取量が乳がんの転帰に影響するかどうかについてはわからなかった。

・しかし、アルコール摂取量を1日1杯以下に減らすと、新たな(再発ではない)乳がんのリスクは低下する。

明らかになったビタミン補充に関するエビデンス

・ビタミンCの食事からの摂取、または経口補充を適度に増やすと、乳がんによる死亡を減らせる可能性がある。これを確認するには、ランダム化対照試験が必要である。

・ほとんどの患者が、ビタミンD補充によって、骨の健康を適正に維持するというメリットを最低限得ることができる。

結論

この論文は、生活習慣の変化が乳がんの再発リスクに与える影響に関する最近の研究をまとめた有用なまとめだが、いくつかの点については限界もある。

生活習慣の因子を別々に研究することは、因子同士が影響し合うため常に困難を伴う。たとえば、体をよく動かす人は食生活も健康的で、アルコールの過剰摂取や喫煙もしないことが多い。

こうした交絡因子を調整しようとしている研究は多いといわれるが、どの研究がこうした調整を行い、どの程度適正に行われているのかを知ることは難しい。さらに、運動しなかった女性は、乳がん治療の副作用のせいで運動できなかったという可能性もある。

また、生活習慣因子は乳がんの診断後にしか調べられていないが、診断前の生活習慣が長期的に影響していた可能性もある。

しかし、定期的な運動は最良の選択とみられるという結論は、合理的で適切だと考えられる。がん予防だけでなく、定期的な運動は心疾患などほかの慢性疾患のリスクを下げるのにも役に立つだろう。

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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