2016年サンアントニオ乳がんシンポジウムハイライト

MDアンダーソン OncoLog 2017年2月号(Volume 62 / Issue 2)

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2016年サンアントニオ乳がんシンポジウムハイライト

2016年12月、世界各国の研究者、臨床医、専門家たちがテキサス州サンアントニオに集い、乳がんの最新研究について発表および議論を行った。テキサス大学MDアンダーソンがん研究所が実施した浸潤性HER2陽性乳がん、炎症性乳がん、トリプルネガティブ乳がんを含む乳がんサブタイプのいくつかの臨床研究報告もその一つであった。

ラパチニブはトラスツズマブ抵抗性HER2陽性転移性乳がんに効果があるかもしれない

ある後ろ向き研究の結果(抄録P4-21-20)によると、ラパチニブは、ペルツズマブおよびado -トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)の治療歴があるHER2陽性転移性乳がん患者において臨床的に意義のある効果が認められている。本研究では、トラスツズマブ抵抗性HER2陽性転移性乳がんのためペルツズマブおよびT-DM1の治療歴を有する患者、および、トラスツズマブベースの他のレジメンの治療歴を有する患者を対象に、カペシタビンとの併用投与で承認されているラパチニブへの反応性が比較された。

研究者らは、MDアンダーソンのデータベースの診療記録を検索し、トラスツズマブ抵抗性HER2陽性転移性乳がんによりラパチニブ治療を受けた患者を特定した。対象コホートには、ペルツズマブおよびT-DM1による治療後にラパチニブで治療を受けた患者が29人含まれており、比較コホートには、ペルツズマブとT-DM1を除いたトラスツズマブベースのレジメン後にラパチニブ治療を受けた患者が445人含まれていた。

対象コホートでは、患者の58%が少なくとも6カ月間の完全奏効、部分奏効または病勢安定の臨床効果を示したのに対し、比較コホートでは78%であった。全生存期間中央値は、対象コホートで23.9カ月、比較コホートでは25.8カ月であった。病勢進行までの期間中央値は、対象コホートで4.9カ月、比較コホートで5.7カ月であった。いずれのコホートも、de novo乳がん患者は再発乳がん患者よりも生存期間および病勢進行までの期間が長かった。

がん医療部門のフェローで、本報告の筆頭著者でもあるLuis Báez-Vallecillo医師は次のように話している。「ペルツズマブおよびT-DM1の治療歴を有する患者の半数以上がラパチニブで6カ月以上の臨床効果を示しており、毒性の大きな増加もないことが分かりました。つまり、これらのHER2標的治療においては交差耐性が生じない場合があるということです」。

両コホート間の臨床有用率、全生存期間、病勢進行までの期間の差は、比較コホートの患者よりも対象コホートの患者で前治療が多かったことに起因する可能性がある。3種類以上の治療を受けていた患者は、対象コホートでは25%であったのに対し、比較コホートでは10%に過ぎなかった。

研究者らは、MDアンダーソンおよび他の4つの機関における後ろ向き共同研究の大規模コホートから得られる結果を検証する計画である。

Báez-Vallecillo医師は、「患者は臨床効果を示し、また、HER2標的治療の先行治療歴があるにも関わらず病勢進行までの期間が非常に長い場合があることから、われわれのデータは、トラスツズマブ、ペルツズマブ、T-DM1による治療後にラパチニブの使用が可能であることを示唆しています」と述べた。

研究者らが乳がんの新しい病期分類を提唱

最近の研究結果(抄録 P6-09-35)をもとに、臨床的要因および生物学的要因を考慮した乳がんの新しい病期分類が推奨されている。現行の米国がん病期分類合同委員会は、腫瘍の大きさとがんの広がりにフォーカスしており、乳がん患者の予後に影響を与える他の臨床的要因や生物学的要因は考慮していない。

乳腺腫瘍内科の準教授で本研究の筆頭研究者でもあるRashmi Murthy医師は、次のように話している。「病期とは、従来、がんの程度を解剖学的に表現するものでしたが、個別化医療のこの時代においては、他の要因も病期分類で考慮すべきです」。

同研究者らはMDアンダーソンのデータベースを活用し、新たに病期I~IIIの浸潤乳がんと診断され1997年から2014年の間に一次治療として手術を受けた患者21,691人を特定した。研究者らは、乳がん特異的生存率に関連のある因子を明らかにするために、患者の診断時の年齢、腫瘍の病理学的病期、グレード、エストロゲン受容体の発現状況、プロゲステロン受容体の発現状況、HER2の発現状況、術後補助治療歴、およびアウトカムを後ろ向きに解析した。

多変量Cox回帰分析において、年齢、腫瘍グレード、ホルモン受容体の発現状況およびHER2の発現状況が、乳がん特異的生存率と関連していた。これらの結果をもとに、現在の病期分類を修正し臨床的要因および生物学的要因を含めることを研究者らは提唱した。Murthy医師は、「このような病期分類を用いることでより精度の高い予後情報を提供することができ、適切な標準治療が可能になります」と話している。

Murthy医師とその同僚らは、大規模国家データベースおよび外部検証データセットから得られた患者データを解析し、研究結果を確認する計画である。同医師は、「解析結果を論文化することで、乳がんの病期分類において、これら他の要因も考慮されるようになることを願っています」と述べた。

画像誘導下生検で手術が不要な乳がん患者を予測できるかもしれない

最近の臨床研究(抄録 P5-16-30)によると、画像誘導下生検を行うことで、術前補助療法後に手術が必要でない患者を正確に特定することが可能である。現在のところ、早期のトリプルネガティブ乳がん、または、HER2陽性乳がんにより術前補助療法を受けている患者のほぼ60%が予後予測の指標とされる病理学的完全奏効を示したが、本奏効は画像検査だけで検知することはできない。

乳腺腫瘍外科部門の教授で本研究の筆頭研究者でもあるHenry Kuerer医学博士は、「問題は、画像診断ではがんが残存しているかどうかが正確には分からない事です」と話している。このため、患者は必要ない可能性があったとしても手術を受けるのが一般的である。画像誘導下生検においては、診断時にがんを正確に見つけることができるが、術前補助療法後にも本技術でがんを見つけられるかどうかについてはまだ検討されていない。

画像誘導下生検の予測性の価値を明らかにするために、Kuerer医師とその同僚たちは、MDアンダーソンのみで試験を実施した。本試験には、一般に術前補助療法が用いられるサブタイプである早期のトリプルネガティブ乳がん、または、HER2陽性乳がんの患者34人が登録された。標準の術前補助全身治療の後、手術前に超音波またはマンモグラフィー誘導下の吸引式コア生検(VACB)および画像誘導下の穿刺吸引細胞診(FNA)が行われた。各生検法および2つの生検の組み合わせについて、研究者らは、術前補助全身療法後に精度、偽陽性率、残存がんの有無の判定に対する予測性の価値を評価した。

VACBおよびFNAはともに、精度、感度、特異度が100%、偽陽性率は0%、がんの有無の判定に対する予測性の価値は100%陰性または陽性であった。これらの結果は、画像誘導下生検を行うことで、残存がんが認められず手術を必要としない患者を正確に特定できることを示唆している。

Kuerer医師は「私たちは、多くの患者、少なくともこれら2つの乳がんサブタイプの患者は、手術が必要ないかもしれないと考えています」と話している。また、同医師は次のようにも注意を促した。「これは標準診療というわけでは全くありません。これらの研究の始まりに過ぎないのです」。

最近、Kuerer医師は、術前補助療法で病理学的完全奏効を示した病期IまたはIIのHER2陽性またはトリプルネガティブ乳がん患者を対象とする第2相試験(No. 2016-0046)を開始した。本試験では、上記手術の安全性が明らかにされる。

バイオマーカーアッセイで乳がんを検出し、炎症性乳がんを識別できる可能性

研究者らは、タンパク質バイオマーカーアッセイを用いて血漿試料を分析することで、乳がん患者と健常者、および炎症性乳がん(IBC)患者と非IBC乳がん患者(抄録P1-02-07)を識別した。 この研究の主要目的は、がんを特定するための非侵襲的な臨床ツールの開発だった。

IBCについては、これまで遺伝子発現プロファイリングに関するいくつかの大規模多施設試験が実施されているが、タンパク質発現に関するものではなかった。「機能単位の最終産物はタンパク質なので、遺伝子発現は有意義なものにつながらないことが、複数の研究で示されている」と、血液病理学部の教授、James Reuben博士研究室の上級研究員であるGitanjali Jayachandran博士は語った。「このためタンパク質に注目する必要があるのです」。

従来の多タンパク質バイオマーカーパネルは、がんを識別するのに必要な特異性、感度、拡張性、およびダイナミックレンジが欠けていた。 しかし最近、Olink Proteomics社が、同時に92のタンパク質を測定する複数のバイオマーカーパネルを用いたプロキシミティー・エクステンション・アッセイを開発した。 この技術は、伝統的なタンパク質定量法の固有の欠点を克服し、検出に必要な生体試料はわずか1μLである。

研究者らは、IBC、非IBC、転移性乳がん、および非転移性乳がん患者25人と、健康な試験参加者7人から血漿試料を採取した。92タンパク質バイオマーカーアッセイを用いて、その試料を分析した。

この分析により、すべての試料タイプを識別することが可能ないくつかの血漿タンパク質の特性が明らかになった。本研究の主任研究者であるJayachandran医師は、「現時点では、このパネルを診断ツールに使えるかどうか十分に分かっていないが、期待はできる」と話した。Reuben研究室に所属するポスドク研究員のEvan Cohen博士は、さらなる乳がんサブタイプの追加を含め、より大きなコホートでこれらの知見を検証すべく取り組んでいる。これまでのところ、中間結果は非常に有望だ」とJayachandran医師は話している。

Tucatinibとカペシタビンとトラスツズマブ併用がHER2陽性乳がんに有効性を示す

HER2阻害剤のtucatinibをカペシタビンおよびトラスツズマブと併用することで、HER2陽性転移性乳がん患者に臨床的利益をもたらすことが、進行中の進行中の臨床試験(抄録P4-21-01)の中間結果で示された。

多施設で行われている第IB相の用量漸増床試験には、過去にトラスツズマブ、タキサン、およびT-DM1で、初回治療、または二次治療以降の治療を受けたHER2陽性転移性疾患の患者を登録した。 患者はtucatinib(別名ONT-380)の単剤療法、またはトラスツズマブとの併用療法、カペシタビンとの併用療法、あるいはカペシタビンおよびトラスツズマブとの併用療法のどれかを受けた。Tucatinib、カペシタビンおよびトラスツズマブと併用療法の最新の中間結果が、本研究の共同責任医師のMurthy医師により、シンポジウムで発表された。

Tucatinib、カペシタビンおよびトラスツズマブとの併用療法を受けた患者の無増悪生存期間の中央値は7.8カ月、臨床有用率は74%、全体的な奏効率は61%、および奏効期間の中央値は10カ月であった。ほとんどの毒性作用 はグレード1だった。グレード3の影響には,手足症候群、下痢、疲労および肝臓酵素レベルの可逆的増加が含まれた。

乳房腫瘍部門の准教授で、本試験の共同試験責任医師であるStacy Moulder医師は、中間結果は有望であり、特に毒性プロフィールがよいと語った。「HER2を阻害するために他の経口薬も使われてきましたが、それらはEGFR / HER1も阻害してしまうので、ほとんどの場合、ひどい下痢や皮膚発疹が起きます」と、Moulder医師は言う。「Tucatinibは同じクラスの他の薬剤で報告されている毒性と比べ、はるかに毒性の低い特異的なHER2阻害剤です」。

さらに中枢神経系(CNS)転移を有する患者のサブセットにおける結果も有望であった。 サブセット分析は、CNS転移を有する患者およびCNS転移のない患者ともに、同様の奏効期間および安定期間を示した。

「HER2陽性転移性乳がんでは最大50%の患者にCNS転移があり、臨床的な対応が不十分な分野の一つです」とMurthy医師は述べた。「最新のデータは、tucatinib、カペシタビン、およびトラスツズマブの組み合わせは、CNS転移の有無にかかわらず、これまでに複数の治療を受けた患者において、安全に持続的反応を生み出す可能性を示しています」。

これらの結果に基づいて、MDアンダーソンおよび他の施設で、tucatinibまたはプラセボに、カペシタビンおよびトラスツズマブを加えたランダム化比較第2相試験(HER2CLIMB、No.2016-0054)が進行中である。新たな試験は、脳転移を有する患者を含め、HER2陽性の転移性または局所進行性乳がん患者を登録対象としている。

For more information, the studies described in this article are only a small sample of the research from MD Anderson and other institutions presented at the 2016 San Antonio Breast Cancer Symposium. More information about the conference, including abstracts and poster presentations, is available at http://www.sabcs.org.

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翻訳担当者 宮武 洋子、片瀬 ケイ

監修 原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

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