頭皮冷却は一部の乳がん患者で脱毛を軽減する可能性

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)、ワイル・コーネル医科大学(Weil Cornell Medicine)および他の3カ所の医療センターでの新たな多施設共同研究によれば、頭皮冷却は一部の乳がん患者において、化学療法誘発の脱毛症を軽減する可能性がある。脱毛症は、がん治療で最も嫌悪される特徴の一つである。

本研究に参加した患者(ステージ1または2の乳がん患者で、頭皮冷却を実施した女性)の大半は、化学療法を完了した後でも半分以上の頭髪を維持できたことが明らかになった。患者を 5年間追跡調査する本研究では、標準化された写真を使って脱毛度合いを等級分けした。

本研究は、Journal of the American Medical Association (JAMA)誌 2月14日号に掲載された。

「脱毛症は、術後補助療法の化学療法を受ける乳がん患者のほとんどが共通して経験し、最も嫌悪される副作用の一つです」と、本研究を率いた筆頭著者のHope S. Rugo医師は言う。同医師は、UCSF医学部で乳がん研究および治療を専門とする教授で、UCSF Helen Diller家族総合がんセンターの乳がん腫瘍学および臨床試験の教育プログラム部長でもある。

「一般的に使用されている化学療法レジメンでの頭皮冷却は認容性が高く、化学療法に伴う脱毛も有意に軽減され、いくつかのQOL指標も改善されることがわかりました」とRugo医師は述べた。「さらに研究が必要ですが、頭皮冷却により脱毛の軽減がうまくいけば、補助化学療法を受ける早期乳がん患者の治療体験を改善できる可能性を研究データは示唆しています」。

頭皮冷却は毛包の細胞分裂を遅らせる

世界保健機関(WHO)によれば、乳がんは先進国、発展途上国を含め、世界中の女性に最も多くみられるがんである。

頭皮の冷却は、化学療法を受ける患者の脱毛予防の手段として、30カ国以上で使用されてきた。欧州では何十年にもわたり、実施されている。一般的に使われている冷却帽には2種類ある。一つは凍らせた冷却帽を30分ごとに交換する方式で、もう一つは化学療法中に冷却液を冷却帽に連続循環させる方式である。

頭皮を冷却すると、頭皮および毛包に到達する化学療法薬剤量が減り、脱毛が減少すると考えられているとRugo医師は述べた。また低温により毛包の細胞分裂が遅くなることで、化学療法の有害な影響をより受けにくくなると思われる。

米国においては、科学的データが不十分なことや、頭皮転移の理論上のリスクが懸念されることから、頭皮冷却の利用は限られてきた。

頭髪を維持するための「有効かつ実用的な」方法

このJAMAの研究では、スウェーデンのDignitana AB社製のDigniCap頭皮冷却システムの有効性について試験が行われた。 2015年12月には、本試験の予備結果に基づき米国食品医薬品局(FDA)が、DigniCapの米国での使用を承認した。米国での販売が認められた冷却帽は、DigniCapがはじめてで、現在のところ唯一の冷却帽である。

頭皮冷却は、各化学療法サイクルの30分前に開始した。まず患者の頭部に密着型のシリコン製のキャップをかぶせ、その上から断熱用のネオプレン製キャップをさらにかぶせた。その後、シリコンキャップを徐々に冷却した。DigniCapの冷却設定温度は3℃で、温度変動はプラスまたはマイナス2度以内であった。

頭皮冷却を受けた101人の患者のうち、67人(66.3%)が半分以上の頭髪を維持したことを研究著者らは報告した。対照となる並行群では、全ての患者が頭髪を失った。 さらに頭皮冷却を受けた女性では、5項目のQOL尺度のうち、より肉体的に魅力的であると感じるなど、3項目で有意に良好な結果を示した。

「化学療法中でも、髪を維持できるようにすることは、女性に力を与えることです」と、本研究の上級著者でWeill Cornell医科大学のWeill Cornell乳腺センター臨床医学科助教のTessa Cigler医師は述べた。「頭皮冷却は、患者が自分のプライバシーをまもり、自尊心や幸福感を維持することを可能にします。この研究は、効果的かつ実用的な頭皮冷却方法について、待ち望まれていた結果を証明しました」。

冷却帽を使用した患者の平均年齢は53歳であり、 患者の77%が白人、9%が黒人、約11%がアジア人であった。 研究は2013年8月から2014年10月までの間に実施された。化学療法の平均実施期間は2.3カ月であった。

多くの患者が、頭皮の冷却による軽度の頭痛または頭皮痛を報告した。冷感のため、 2人の患者が頭皮冷却を中止した。 約30カ月の追跡調査の後、いずれの患者においても頭皮転移は認められなかった。 全患者について、合計5年間のフォローアップが継続される。

本研究は次の団体より部分的な資金提供を受けた。The Friedman Family Foundation(UCSFに授与)、the Anne Moore Breast Cancer Research Fund(Weill Cornell Medicineに授与)、the Friedman Family Foundation(Mount Sinai Beth Israelに授与)。Dignitana AB社は、データの収集、管理、分析、および解釈を含む試験の設計と実施を支援した。

研究の共同著者は次の通りである:researchers from the Icahn School of Medicine at Mount Sinai, New York; Wake Forest Baptist Health Medical Center; and the Jonsson Comprehensive Cancer Center at UCLA. From UCSF, co-authors are Michelle E. Melisko, MD, and Laura Esserman, MD, MBA; from Weill Cornell Medicine, Anne Moore, MD, was also a co-author. 全著者リストは、論文を参照のこと。

翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター/メディア総合研究所) 

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