放射線は固形がんに対する免疫療法の効果を増強

MDアンダーソン OncoLog 2017年1月号(Volume 62 / Issue 1)

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放射線は固形がんに対する免疫療法の効果を増強する可能性がある

肺がんや他の固形がんに対して免疫チェックポイント阻害薬と放射線療法の併用が臨床試験で検討されている。

免疫療法薬は多種類のがんの治療に大変革を引き起こしているが、こうした新薬の治療を受ける患者すべてに効果があるわけではない。免疫療法の有効性を強化するため、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らは、肺がんや他の固形悪性腫瘍患者を対象とした臨床試験において、放射線治療でみられるあるまれな現象を利用している。

「放射線は、100年間にわたってある一つのこと、つまり局所コントロールの達成のために用いられてきました」と放射線腫瘍学部門の准教授James Welsh医師は述べた。「私たちは今、全身コントロールのために放射線療法を免疫療法と併用しており、それはかなり興奮に満ちています」。

相乗作用を求めて

CTLA-4(細胞傷害性Tリンパ球抗原4)、PD-1(プログラム細胞死蛋白質1)やPD-L1(PD-1リガンド)といった免疫チェックポイントを阻害する薬剤は、一部のがん患者において、たとえ転移のある患者でも、単独で顕著な効果が認められる。しかし、免疫療法で遠隔転移を排除できるのは、転移が認められるがん患者の約20%に過ぎない。Welsh医師は、この割合を放射線治療によって30%か40%にまで押し上げようとしている。

一見すると、放射線療法を免疫療法と併用してがんと闘うという論理は明白なようである。放射線は、がん細胞のDNAを傷つけることによってがん細胞を殺傷するが、これは局所に対する治療である。一方で、免疫療法は、免疫系を増強することによる全身に効果のある治療である。だがこれは、両者の併用がなぜ劇的な効果を示すのかといった疑問に対する説明の一端でしかない。一方の治療が疾患の局所コントロールだけをもたらし、他方が全身コントロールだけをもたらすというよりも、両者が相乗的に働いている可能性がある。相乗効果の一つとして以下の機序がある。すなわち、放射線は免疫原性細胞死(訳者注:がん細胞が死ぬ際に、がん特異的抗原を放出して腫瘍免疫を起こしやすい細胞死を、免疫原性細胞死という)を誘導したり、また主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子やその他のアポトーシスを誘導するタンパクの発現を促進することによってがん細胞の免疫療法への感受性を上げることができる。

「私たちは、研究室でPD-1阻害に対する耐性モデルを開発しました。MHCクラスI分子は細胞傷害性T細胞に抗原を提示しますが、このモデルでは腫瘍細胞のMHCクラスI分子の発現がみられなくなります。放射線により、腫瘍細胞のMHCクラスI分子の発現が回復し、免疫療法が効くようにすることができます。これまでのところ、私たちはマウスモデルと少数のヒトで以上のことを示しています」とWelsh医師は述べた。

放射線は、照射した腫瘍細胞を免疫療法に対して感受性にすることに加え、腫瘍細胞に腫瘍抗原を放出させることができる。この腫瘍抗原の刺激によってT細胞が活性化され、放射線照射を受けていない遠く離れた部位も含めて体中の腫瘍細胞を攻撃するようになる。

「放射線は、効果的にがんをワクチンに変えることができるのです」とWelsh医師は述べた。

放射線が局所では腫瘍を縮小させる一方で全身では免疫応答を誘導するこの現象は、アブスコパル効果として知られている。この考え方でいくと、免疫療法を加えることは、T細胞活性化がCTLA-4やPD-1/PD-L1によって抑制されるのを抑えることによりアブスコパル効果を維持することにつながる。

Welsh医師によれば、放射線を用いて全身で腫瘍細胞を殺傷するアブスコパル効果を利用するカギは、(放射線の)分割法にある。一般には、分割放射線療法では、小線量を6~7週間にわたって多数回照射するが、これは免疫療法と併用する際には良くない。その理由は、長期間、ほぼ常に放射線を照射することで、機会があれば照射されていない腫瘍の攻撃に向かうであろうT細胞を疲弊させてしまうからである。寡分割照射法では、少数回の大線量をほんの1~2週間で照射するが、この場合にはT細胞に腫瘍を攻撃する機会が与えられ、免疫療法との併用にとって有利かもしれない。

「私たちは、腫瘍をたたいた後、退く必要があります」とWelsh医師は述べた。「放射線で腫瘍を破壊してこれをワクチンに変化させる必要があります。そしてその後は放射線治療を中止してT細胞に攻撃の機会を与えるようにする必要があるのです。

複数部位に転移がある患者さんに対しこれまで私たちが行ってきたのは、一つの部位をワクチン化しようと放射線でたたき、その後、他の部位に効果がみられるかどうか経過観察することでした。しかし、今は、4~5箇所の病変部位に放射線を照射して腫瘍をいわばより良いワクチンにし、放射線を免疫療法と組み合わせています」。

免疫療法は、I期患者の局所制御改善の目的でも、放射線治療に追加して用いている。「腫瘍を根絶するのに十分なほど放射線量を高くできない場合、免疫療法を追加することは局所制御に役立ちます。そのため、ほぼすべての病期のがんにこの併用法を行っています。なぜなら、ほぼすべての患者さんにより良い局所制御またはより良い遠隔病巣の制御といった恩恵が期待できるからです」とWelsh医師は述べた。

臨床試験

Welsh医師は免疫療法-放射線療法併用の可能性を、あらゆる種類のがんを対象に、転移を有するがんに焦点を当てて複数の臨床試験を計画している。試験に対する期待は高まっている。最初の試験はCTLA-4阻害剤イピリムマブに放射線療法を併用する大規模試験で、がん種を問わず肺か肝臓に転移巣または原発巣を有する患者が対象となり、100名近い参加予定数の患者の組み入れがほぼ終了した。

試験(No. 2013-0882)において、Welsh医師は次のように述べた。「放射線が治療効果を真に増強していると考えられる非常に興味深い症例を何例か経験しました」。

ひとつとても劇的な効果がみられた患者さんを紹介します。この患者さんはこの試験の早い時期に登録された患者さんで、甲状腺未分化がんという生存期間中央値がわずか約2か月というとても悪性度の高いがんの患者さんでした。「この患者さんは肺に5カ所ほど転移が見られました。私はそのうちの1カ所に放射線治療を行いました。すると他のすべての転移巣が1年のうちに消え去ったのです」とWelsh医師は述べた。「驚くべき結果であり、未分化甲状腺がんでは観察されたことのないものでした。現在、未分化甲状腺がんに免疫療法と放射線療法を組み合わせた臨床試験が複数行われています」。

Welsh医師による試験の最初の結果は期待できるものであったものの、いくつかの課題が残っている。

「放射線がこのような劇的な効果を起こしたのか、あるいは効果の手助けになったのかはまだ解明できてはいません。患者は免疫療法薬と放射線療法の両方を受けていました。このような効果は免疫療法だけで起こったのかもしれません」と同医師は述べた。私たちの新しい試験では、免疫療法単独を受ける患者、または免疫療法に加え放射線療法を受ける患者を無作為に振り分け、放射線療法を加える意義を調べます。

たとえば、非小細胞肺がんの患者を対象としたPD-1阻害薬のペムブロリズマブに従来の広範囲あるいは定位放射線治療を併用する進行中の第2相試験(No. 2014-1020)では、2つの治療患者群がペムブロリズマブと放射線治療(一方の治療群は従来の放射線治療を受け、もう一方の治療群は定位放射線治療)を同時に受ける。また他の2群の患者はペムブロリズマブのみを5週間受け、増悪が認められた場合には、治療群に定められた放射線治療、従来の放射線治療あるいは定位放射線治療が追加される。ペムブロリズマブ単独治療の患者における3カ月無増悪生存率が、同時放射線療法を受けた患者群と比較される予定である。

MDアンダーソンにおいて進行中あるいは予定されている免疫療法に放射線療法を組み合わせた他の試験には次のようなものがある。小細胞肺がん患者を対象に、免疫療法に標準治療である化学放射線療法を併用する試験 (No. 2014-1003)、何らかの免疫療法中に増悪が認められた患者に対する“救済療法”としての放射線治療の試験、但し適切と判断された場合は維持量の免疫療法を継続(No. 2015-0936)、脳転移に対して免疫療法に加えて脳への定位放射線治療を行う試験。また、前立腺がん、乳がん、頭頸部がんや他のがんにおいても、免疫療法に放射線療法を組み合わせた試験が計画されているか、進行中である。

今後の研究

がん免疫療法に対する関心の高まりにより、新しい免疫療法薬がつぎつぎと生み出されている。放射線療法と組み合わせた場合、どの薬剤がうまくいってどの薬剤がうまくいかないのかをはっきりさせること、放射線治療と併用する場合に最適な腫瘍を破壊する免疫応答を引き出すためにどのような順序で治療を行うのが最良なのかを決定することが、今後の研究における注目点となるだろう。

「私たちは免疫療法と放射線療法の間の相乗作用を再現性のあるものにしたいのです。つまり、偶然に起こるのを期待するのではなく、安全な方法で確実に行えるようにしたいと考えています」と、Welsh医師は述べた。「今後の研究は私たちの技術を改良し、至適順序や用量、薬剤の組合せを見つけるための助けとなるでしょう」。

【上段画像キャプション訳】
PET-CT(訳者注:陽電子放射断層撮影PETとコンピュータ断層撮影CTを組み合わせた診断装置)で、免疫療法薬ニボルマブに反応しない非小細胞肺がん病変が示されている(左、白い部分)。肝転移病巣(5ページの画像参照)に対して定位放射線治療を受けた後、照射されていない肺の病変が縮小した(右)。
画像はCancer J. 2016;22:130–137から許可を受けて使用。

【下段画像キャプション訳】
肝臓への緩和的な定位放射線療法の治療計画では、標的領域(赤)への線量と、周辺部への線量減少が示されている。患者は36グレイを5分割で受け、この後、照射を受けていない肺の腫瘍複数が縮小した。

画像はCancer J. 2016;22:130–137から許諾を得て転載。

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翻訳担当者 鈴木久美子、岡田章代

監修 田中文啓(呼吸器外科/産業医科大学)

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