デュロキセチンが初期乳がん治療時の関節痛を緩和

ランダム化比較試験の結果、早期乳がん治療を受けている女性の中には、抑うつ治療に通常用いられる薬剤により関節痛も緩和される可能性があることが示された。

早期乳がん治療後、がんの再発リスクを低減させる目的で、アロマターゼ阻害剤として知られる薬剤を服用する閉経後女性は多い。しかし、こうした薬剤は、女性らに著しい関節痛と筋肉痛を引き起こすことがある。

本臨床試験では、デュロキセチン(サインバルタ)により、アロマターゼ阻害薬に関連する痛みが多少改善 したことが明らかになった。デュロキセチンは、糖尿病により引き起こされる繊維筋痛および神経痛だけでなく、抑うつおよび不安感の治療の用途で承認されている。

「一部の患者は、関節痛および筋肉痛のために、これらの命を救う薬剤による治療の中断に至る可能性がある」と、本試験の主導医師でありHuntsman Cancer Instituteに所属するN. Lynn Henry氏(医学博士)は語った。 同氏は「本試験の結果に基づくと、この痛みを感じる一部の患者に対し、デュロキセチンは有効な薬剤であると思われる」とも語った。

Henry氏は、12月9日にサンアントニオ乳癌シンポジウムで本試験の知見を発表した。NCIが支援する臨床試験グループであるSWOGが本試験を主導した。

新たな方策が必要である

ヒトの身体はアロマターゼと呼ばれる酵素を利用してエストロゲンを産生している。この酵素の作用を阻害する薬剤はアロマターゼ阻害薬と呼ばれており、エストロゲンによって乳房腫瘍が増大する閉経後女性のがん再発リスクを低減させることが知られている。

しかし、これらの薬剤を服用している患者の多くは、膝、股関節部、手、手首に痛みを感じ、これにより日常的な作業が困難になることがある。Henry氏によると、患者の約20%が副作用のためにアロマターゼ阻害薬の服用を中断する。患者は、一般に、5〜10年間のアロマターゼ阻害薬の服用を推奨される。このために、これらの副作用を管理する新たな方策が必要であると、同氏は指摘する。

このデュロキセチンに関する試験では、米国全土にあるNCI Community Oncology Research Program(NCORP) の43施設で女性 299人が登録された。参加者はアロマターゼ阻害薬を用いた早期乳がんの治療を受けており、治療による関節痛が認められた。参加者は12週間のデュロキセチンあるいはプラセボいずれかの投与に無作為に割り付けられた。

参加者は試験開始時に、関節痛、抑うつ、およびQOLに関する質問票に回答し、その後2、6、12、24週間後に繰り返し回答した。痛みに関する質問票は、0~10 段階評価を採用した。研究者は、患者の疼痛スコアが試験参加時から2ポイント以上低下することを、臨床的に有意な痛み(平均)の変化と定義した。

デュロキセチンおよびプラセボは痛みを緩和する

試験開始後12週間に、デュロキセチン群女性の疼痛スコアの低下は、プラセボ群女性よりも平均0.82ポイント大きかった。最も強い痛み、関節痛、こわばりなど、疼痛スコア以外の指標の低下も同程度であった。

デュロキセチン群の平均疼痛スコアは、ベースライン時の5.44から12週の時点には2.91に低下した。しかしプラセボ群でも、同期間に平均スコアが5.49から3.45と低下した。試験基準によると、両群のスコア低下は臨床的に有意であった。

対照群でプラセボ効果が強いという知見を少しは予測していたことをHenry氏は認めた。理由は明らかではないものの、痛みの治療に関する他の試験も同様なプラセボ効果が報告されていたのだ。プラセボへの反応性に関し、「さらなる試験が必要であることが本試験により明らかになった」と同氏は語る。

12週までに、デュロキセチン群の患者の69%、およびプラセボ群の患者の60%で、治療開始前と比較して疼痛スコアが2ポイント改善した。患者がデュロキセチンあるいはプラセボの服用を中止してから12週間後の24週の時点では、平均疼痛スコアは両群でほぼ同じであった(デュロキセチン群3.37、プラセボ群3.42)。

もっともよくみられたデュロキセチンの副作用は、嘔気、倦怠感、および口渇であった。このことは、本剤に関する他の試験の結果と一致していた。

複数の方法を探求する

「このデュロキセチンに関する試験結果は非常に有望である」と Ann O’Mara氏(博士)は語った。  同氏はNCIのDivision of Cancer Preventionに所属しており、本試験には参加していなかった。また、「デュロキセチンは、大規模なランダム化臨床試験でこの患者集団に対する有益性が明らかになった最初の薬剤である」とも語った。

アロマターゼ阻害薬を服用している患者は、最終的に痛みを管理するため複数の方法が必要となる可能性があることをO’Mara氏は示唆した。痛みを緩和するためにさまざまな方法が研究されているが、その方法にウォーキングなどの運動や鍼灸があることを同氏は指摘した。

また、「臨床医はデュロキセチンによって起こり得る副作用について、患者に説明する 必要があるが、本剤により痛みが緩和し、患者の機能性回復に役立つ可能性もある」とO’Mara博士は付け加えた。

関連文献

Extended Adjuvant Therapy Beneficial for Some Women with Breast Cancer

Cancer Pain (PDQ)–Patient Version

翻訳担当者 三浦恵子

監修 下村昭彦 (乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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