アロマターゼ阻害剤での乳がん治療で、血管内皮機能が低下
アロマターゼ阻害剤を投与された閉経後乳がん患者に、心血管系疾患の前兆となる血管内皮機能不全がみられたという研究結果が、12月6~10日に開催された 2016年サンアントニオ乳癌シンポジウム にて発表された。
アロマターゼ阻害剤(AI)とは、エストロゲンレベルを低下させる薬剤の一種であり、治癒を目的とした局所進行性エストロゲン受容体陽性の女性における乳がん関連死亡率を低下させることが示されてきた。乳がん症例のうち75%はこうしたエストロゲン受容体陽性を示している。
しかしその一方で、エストロゲンは心臓病を予防し、さらに最近の研究では、エストロゲンの分泌が抑制されると心血管系疾患のリスクが上昇することが示唆されていると本研究の筆頭著者でミネソタ大学血液学、腫瘍学准教授Anne H. Blaes氏(医師、理学修士)は述べた。
「がんサバイバーの増加に従い、われわれはがん治療に伴う長期間にわたる合併症の理解に努めることが非常に重要です。 早期乳がんの女性のほとんどは、乳がんで死亡するリスクより心血管系疾患で死亡するリスクの方が高くなっています」と同氏は説明する。「心血管系疾患の発症は多段階プロセスから成り、アロマターゼ阻害剤による心血管系リスクは常に懸念されてきました」。
本研究でBlaes氏らは、アロマターゼ阻害剤が血管内皮機能、すなわち体内の血管が弛緩、収縮する能力に及ぼす影響を調査した。同氏は血管内皮機能の変化が心血管系疾患の初期予測因子になると説明した。本研究では、閉経後の健康な女性25人と、アロマターゼ阻害剤を処方されていた局所進行性乳がん閉経後女性36人が登録された。喫煙歴、高血圧症または高脂血症の病歴のある女性は除外された。 試験参加者は血管内皮機能を構成する数種類の要素を計測するため、バイオマーカー解析および脈波解析を受けた。
アロマターゼ阻害剤を服用中の参加者は、平均収縮期血圧が高く(128.3 mmHg対114.5 mmHg)、また体内の炎症反応をあらわす基準の一つであるD-ダイマー値も有意に高かった(1mlあたり21,135ng対6,365ng)ことが研究で示された。
さらに上述した参加者は血管弾性の指標であるlarge-artery elasticityの中央値(12.9 対14.6 ml/ mmHg)、およびsmall-artery elasticityの中央値(5.2 対7.0 ml / mmHg)も低かった。 血管内皮機能を示すEndoPAT値の比率も、アロマターゼ阻害剤を服用した乳がんサバイバー群0.8に対してコントロール群2.7と、両群間に有意差がみられるとBlaes氏は述べた。
本研究では化学療法の使用、放射線治療、アロマターゼ阻害剤の種類、またはアロマターゼ阻害剤の投与期間と、血管内皮機能の低下との相関関係は示されなかった。
近年、アロマターゼ阻害剤を10年程度服用すれば乳がんの再発リスクが低下する可能性があると研究で示唆されてきた。Blaes氏は、医師らが血管内皮機能の低下、および心血管系に与えるダメージに対するリスクを考慮し、かつ患者にリスクと利益を明確に伝えるべきであることを今回の研究結果が示していると述べた。
「乳がん患者の女性らは、乳がんの再発リスクはもちろん、処方される各薬剤の良い点と悪い点に注意することが重要です」と同氏は語る。 例えば、高確率で再発すると予測されるがん種やステージにある女性は、アロマターゼ阻害剤治療を10年間継続する方向を選択する可能性があるが、がん以外に心血管系疾患に対して危険因子を有する初期乳がん患者の女性は、アロマターゼ阻害剤治療期間を制限したいと考える可能性があるためである。
Blaes氏は、本研究の制限は試験が小規模であったことであり、今回の知見を確実にするためにさらに研究が必要であると述べた。
本研究は米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)および Masonic Scholar Awardから助成金の提供を受けた。Blaes氏は利益相反状態にないことを宣誓する。
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