放射線治療はインプラント乳房再建の合併症を増加させる

放射線治療後に自家組織乳房再建を受けた患者では転帰の悪化はみられず

2016年サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)(12月6日~10日)で発表された大規模な多施設共同前向きコホート研究のデータによると、インプラント再建を受けた乳がん患者において、放射線治療が合併症を増加させ、再建乳房に対する患者報告満足度を低下させていたことがわかった。一方、自家組織再建を受けた患者においては、そのような結果は得られなかったという。

自家組織乳房再建とは、乳がんの手術後に患者自身の生体組織を使って新しい乳房を造る方法である。

「乳房切除後の放射線治療のメリットを裏付けるエビデンスは、適切な患者において相次いで報告されていますが、多くの患者は個々の事情を抱え、それらのメリットがリスクを上回ると感じるかどうかを決断しなければならないのです」と話すのは、ミシガン大学放射線腫瘍学部教授・副学部長のReshma Jagsi氏(医師・医学博士)だ。「放射線治療のリスクの1つは、乳房再建の選択肢と転帰を左右する可能性があるということです。乳房切除を受ける女性の多くは再建を希望します」。

Jagsi氏によれば、早期乳がんと診断された女性は、長期的な疾患コントロールとQOLのどちらにも影響を及ぼす難しい決断を迫られるという。多くの女性は乳房切除を受けた後、長期にわたって生存できるため、乳房再建はQOLに持続的な影響を与える可能性がある。しかし、乳房切除後の放射線治療と乳房再建を統合した最適なアプローチは、まだ確立していないのだという。

Jagsi氏らは、Mastectomy Reconstruction Outcomes Consortium(MROC)という多施設共同コホート研究を実施し、放射線治療を受けた患者553人と受けなかった患者1,461人の医療データと患者報告アウトカムデータを収集した。放射線治療を受けた患者の約38%と受けていない患者の約25%が自家組織再建を受けており、残りの患者はインプラント再建を受けていた。

本研究では、放射線治療が乳房再建後の合併症(血腫、創感染など)に関連するか否かの評価と、BREAST-Qという患者報告アウトカム調査法による患者満足度の測定を、再建1年後と2年後に実施した。

追跡1年後の時点では、放射線治療を受けた患者の28.8%と受けていない患者の22.3%が調査対象の合併症を1つ以上発症していた。追跡2年後の時点では、放射線治療を受けた患者の34.1%と受けていない患者の22.5%が再建に関わる合併症を発症していた。

Jagsi氏らがいくつかの可変要素を考慮した結果、インプラントを受けた患者では、放射線治療を受けた場合の合併症の確率が2倍を上回っていた。一方、自家組織再建を受けた患者では、放射線治療と合併症は関連づけられなかった。

BREAST-Qのスコアによると、インプラントを受けた患者の間では、放射線治療を受けた人の満足度が放射線治療を受けていない人と比べて有意に低かったが、自家組織再建を受けた患者の間ではそのような差はみられなかった。

「女性はアプローチによって異なる手術時間やリハビリなどのさまざまな要素を天秤にかけなければなりませんが、希望する再建法を選ぶにあたり、乳房切除後に放射線治療を受ける計画のある患者は、本研究でインプラント再建を受けた患者にみられた放射線治療の重大かつ重要な影響について知っておく必要があります」とJagsi氏は話す。

「逆に、自家組織再建の道を進もうとしていて放射線治療を受けるべきか迷っている人は、本研究の結果からある程度の安心を得ることができるかもしれません。自家組織再建を受けた患者の間においては、放射線治療を受けていない患者と比較して、転帰が2年の間に大幅に悪くなる様子はありませんでした」とJagsi氏は付け加えた。

本研究の制約事項としては、観察研究であり因果関係を証明するものではない点が挙げられる。さらに、インプラント法と放射線治療を統合する技術がとりわけ優れた施設で治療を受けた患者は、そのような手法でも良い結果が得られる可能性があることにもJagsi氏は触れている。

本研究は、米国国立がん研究所(NCI)からの資金提供を受けた。Jagsi氏には申告すべき利益相反はない。

翻訳担当者 甲斐 久美子

監修 野長瀬 祥兼(腫瘍内科/近畿大学医学部附属病院)

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