トリプルネガティブ乳癌―2016年11-12月

MDアンダーソン OncoLog 2016年11-12月号(Volume 61 / Issue 11-12)

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トリプルネガティブ乳癌

臨床試験に参加する患者の分子検査を用いる革新的試験

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の分子バイオマーカーに焦点を当てた新しい臨床試験は、致命的な乳がんに対して進歩的な標的治療を試みるものである。

乳がん患者の15~20%がTNBC(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、ヒト上皮成長因子2受容体の全てが陰性)である。そしてTNBCは最も治療困難な乳がんである。通常、TNBC患者の50%ほどしか標準的抗がん剤による術前補助療法に反応しない。そして、抗がん剤が効く患者を判別する方法が最近までなかった。

ARTEMISと名付けられた革新的な臨床試験は、化学的感受性腫瘍の患者に対し標準化学療法(アントラサイクリン系に続きタキサン系薬剤)、そして抗がん剤に反応しない腫瘍(腫瘍のバイオマーカーにより標準化学療法に対し反応不良が予想される)の患者に対しては腫瘍に発現している特異な分子ドライバーを標的とした臨床試験により、術前補助療法の奏効率が腫瘍の分子検査により向上するかどうかを判定することを目的としている。「標的薬から最大の効果を得られる集団にたどり着くことを目的としている」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの准教授で、ARTEMISの試験責任研究員であるStacy Moulder医師は述べ、「適切な患者集団を同定できたら、標的薬は有効であることを示す方法となるであろう」と続けた。

ARTEMIS

ARTEMISは、原発腫瘍の直径が少なくとも1.5cmある未治療のステージIからIIIのトリプルネガティブ乳がん患者が対象である。治療開始前に、ARTEMIS全患者の原発腫瘍の生検検査と分子検査を実施した。分子検査により効果が向上するかどうかを判定するために、患者を無作為に2つの群に割付ける。各患者が試験群であるB群となる可能性は3分の2である。A群の患者は、分子検査結果を受け取ることはなく、B群は結果を受け取る。

分子検査の結果を受け取るまでに2~3週間かかる。そのため、全患者は、遅れることなく術前補助療法としてアントラサイクリン系の化学療法を受ける。標準化学療法を4サイクル実施後、両群の患者は、タキサン系による標準化学療法の継続または標的薬による臨床試験への参加か、最善の方を主治医と検討する。しかしB群の患者には、治療決定の指針として分子検査の結果を追加情報として提供する。

術前補助療法実施後、予定の外科的切除を実施する。切除検体の残存がんの量で、術前補助療法の効果判定を行う。

分子プロファイリング

化学的感受性試験を含む腫瘍に対する最初の分子プロファイリングは、病理学部教授であるW. Fraser Symmans医師によって実施された。同医師は検査方法を確立させるために、術前補助化学療法実施後のトリプルネガティブ乳がんの切除検体を検査した。

化学療法に対する反応と特定の分子バイオマーカーの発現により腫瘍を分類した。Symmans医師は、観察されたパターンを基に、どの腫瘍に化学的感受性があり、どの腫瘍に抗がん剤が無効であるか予測するための遺伝子特性プロファイルを開発した。

指針である治療に加えてARTEMIS試験による知見は、製薬会社にとって、どの試験的治療に対して大規模試験を実施するかを決定する際の助けとなる。分子プロファイリングに基づき選定された特定の物質がARTEMIS試験で有望であることを示した場合、似たプロファイルであるが抗がん剤に反応しないTNBCの他の患者に対して、その物質による大規模試験を実施することが可能となる。

患者の熱望

Moulder医師によると、患者からの熱意は目覚ましいものがあり、「ARTEMISへの参加を提案された患者の約80%が最終的にこの試験に参加した。これは、これまで実施したどの術前補助療法に関する試験より高い参加率である。なぜなら、この試験は患者にとって代替治療のオプションになるためと考えている。ARTEMIS試験は、患者に対して治療を命ずるものではなく、新たな情報に基づき単に治療方法を提案するものである」とMoulder医師は述べた。「主治医と化学療法について検討し、そして、次の段階の治療方針を決める際には分子試験結果を話し合うために、患者と主治医は信頼関係を築いている。この試験の患者から、実に肯定的なコメントをもらっている」この反応は、ARTEMISがMDアンダーソンの乳がん患者の擁護者 の意見を取り入れて立案したという事実を反映しているかもしれない。

Moulder医師は、ARTEMISが患者や医療関係者に及ぼす影響に関しては楽観している。 「ARTEMISは、患者に対して明確な医療利益を示す最初の試験の1つであり、TNBCの完全奏効率に対して影響を与える標的治療である」と述べた。

For more information, contact Dr. Stacy Moulder at 713-792-2817 or Dr. W. Fraser Symmans T713-792-7962.

Further Reading

Hatzis C, Symmans WF, Zhang Y, et al. Relationship between complete pathologic response to neoadjuvant chemo-therapy and survival in triple-negative breast cancer. Clin Cancer Res. 2016;22:26–33.

—– Brandon C Strubberg

【画像キャプション訳】

ARTEMISに参加をしたトリプルネガティブ乳がん患者のエコー写真は、ドキソルビシン(左)による最初の治療では腫瘍の縮小は認められないが、標的免疫療薬(右)による治療後はかなりの腫瘍縮小が認められたことを示している。この患者の切除時には微小の残存がんのみであった。Stacy Moulder医師による画像提供

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翻訳担当者 野川恵子

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター) 

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