乳がん再発リスクの予測を支援する新しいウェブアプリ

無料ウェブアプリが、市販の再発リスク分子検査の結果の一部を正確に予測する

概要

乳がん分子検査をオーダーすべき?このアプリが判断を助けてくれる

無料ウェブアプリが、市販の再発リスク分子検査の結果の一部を正確に予測する

ジョンズホプキンス・キンメルがんセンターの研究チームは、早期乳がん患者の再発リスクを評価する高額な分子検査を追加オーダーするかどうかを決めるときの判断のあいまいさを減らすことができる、無料ウェブアプリを開発したと報告した。

このアプリは、乳腺腫瘍生検の病理のルーチン検査結果を用いて、市販の分子検査から得られる再発リスク分類を予測できるという。この研究結果はJournal of Clinical Oncology誌電子版10月10日号に掲載された。

このような分子検査の一つ、ジェノミック・ヘルス社のOncotypeDXは、再発する可能性の高い進行乳がんに関連する遺伝子変異を検出する検査で、米国では約4,200ドルかかる。

再発リスクの判定は、初期腫瘍の切除術後に化学療法やホルモン療法が必要かどうかを決定する上で重要な要素だと、ジョンズホプキンスの研究チームはいう。

「こうした検査は有益だが、質の高い病理検査結果でも必要な情報がすべてそろわないグレーゾーンの場合に用いられるべきだ。分子検査は、すでに得られている情報の補足となるべきで、重複であってはならない」と、ジョンズホプキンス大学医学部の腫瘍学教授でキンメルがんセンターの一員であるAntonio Wolf医師はいう。

ジョンズホプキンスの研究チームは、Breast Cancer Recurrence Score Estimatorというアプリを開発した。開発には、ジョンズホプキンス病院など米国の5病院で治療を受けた1期または2期の乳がん患者のうち、エストロゲン受容体(ER)陽性でOncotypeDX検査を受けた患者1,113人の診療記録から抽出した情報を用いた。

上述の病院のうち3病院の別の患者472人のデータを用いてこのアプリをテストしたところ、248人(53%)についてOncotypeDXで予測したリスク分類を97%の精度で特定した。残りの224人については、OncotypeDXのリスクスコアを正確に予測することはできなかったと、ジョンズホプキンス大学医学部の腫瘍学准教授でキンメルがんセンターの一員でもあるLeslie Cope医師はいう。

どの病院でも、このアプリで分子検査の総件数が変わることはないかもしれないが、病理検査結果がはっきりしないケースの検査オーダーの割合が増える可能性はあると、研究チームはいう。

さらに、ジョンズホプキンスの医師らについて、分子検査をオーダーする時期を決める際に、自らの直感ではなくこのアプリを使ったらどうなるかを調査した。939人の患者について調べたところ、実際の検査オーダーの件数は299件だったのに対し、このアプリを使えば297件になるはずだったという。Cope氏によると、実質的には同じ検査総数だが、アプリを使った場合には非常に異なる患者群、つまり分子検査によって最も情報が得られる患者群が含まれているという。

このアプリを使うには、腫瘍の病理検査から得られた情報を入力する。その情報とは、増殖速度の指標であるKi67というタンパクレベル 、組織分化度を示すがんの悪性度、女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンへの腫瘍細胞の結合能、乳がんの急増殖の誘因として知られるHER2遺伝子の高発現などである。

このアプリによって、がんの10年以内の再発や追加治療による再発リスク低減の可能性を予測するための、OncotypeDXリスク分類(高または低)の総合的な推測が得られると、Wolff氏はいう。

「医師には、このアプリを日常的に使い始める前に、自分が担当する患者群でテストするように依頼している」と、ジョンズホプキンス大学医学部の外科准教授でありキンメルがんセンターの一員であるChristopher Unbricht医師はいう。このアプリのウェブサイトには別の患者群の検査についての情報も掲載されており、このアプリを向上させるためにほかの科学者にも参加してほしいと、この研究チームはいう。

ピッツバーグ大学も、別の病理データを用いる類似のアプリを開発した。

Wolff氏、Cope氏、Umbright氏の他の共著者は以下のとおりである。Hyun-seok Kim, Peter B. Illei, Ashley Cimino-Mathews, Soonweng Cho, Nivedita Chowdhury, Maria Christina Figueroa-Magalhaes, Catherine Pesce, Stacie C. Jeter, Charles Mylander, Martin Rosman, Lorraine Tafra, Deborah Armstrong, Roisin M. Connolly, John H. Fetting, Robert S. Miller, Ben Ho Park, Vered Stearns and Kala Visvanathan from Johns Hopkins; Bradley M. Turner and David G. Hicks from Anne Arundel Medical Center; Tyler A. Jensen from the University of Rochester Medical Center; and Dylan V. Miller from Intermountain Healthcare.

このアプリの研究開発費は、米国立がんセンター(CA006973)、およびスーザン Gコーメン基金(SAC110053, KG 110094)から提供された。

ウェブサイト:The Johns Hopkins Breast Cancer Recurrence Estimator

<挿入図部分>
Breast Cancer Recurrence Score Estimator

Breast Cancer Recurrence Score Estimatorへようこそ

Breast Cancer Recurrence Score Estimatorは、OncotypeDX(R) が、すでに得られている質の高い病理検査結果に重複するのではなく、補足する情報を提供します。このアプリは1期および2期のリンパ節転移陰性、ER陽性乳がんを対象とします。

患者のサンプル特性を入力し、「Update」ボタンをクリックして以下の数値を更新してください。

この推測結果は、参考データベースから選択した類似する362件の特性に基づいています。類似症例のうち90%は再発スコアが3から21の範囲内に入っています。再発スコアが25超の高リスク範囲に入る確率は1%未満です。参考症例の特性は以下のとおりです。図の簡単な説明を読むには、どちらかの画像をクリックしてください。

本アプリのスクリーンショット

翻訳担当者 粟木瑞穂

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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