乳房全摘+再建は合併症率と合併症関連費用が最も高い

MDアンダーソンがんセンター

同治療法は若年患者で最も高額であることもMDアンダーソンの研究で判明

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの新たな研究によると、早期乳がん女性のガイドラインに従った治療法を検討したところ、年齢に関係なく、乳房全摘+再建での合併症率が最も高く、合併症関連の治療費が最も高額であることが判明した。また、同治療法は若年患者で最も高額な治療選択肢であることも判明した。

本研究は、Journal of the National Cancer Institute誌に掲載され、2015年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで最初に発表された。この研究結果は、患者と医師が最適な治療を選択し、患者と治療費負担者の双方にとって最も価値のある局所治療を明らかにするのに役立つと、放射線腫瘍学科および医療サービスリサーチ科(Health Service Research)准教授Benjamin D. Smith医師は述べている。

早期乳がん女性には、ガイドラインに従った多様な治療選択肢があり、腫瘍摘出+乳房全体への放射線照射(腫瘍摘出+全乳房照射)、腫瘍摘出+密封小線源治療(腫瘍摘出+小線源)、乳房全摘のみ、再建を伴うもの(乳房全摘+再建)、高齢女性では腫瘍摘出のみ、という選択肢がある。これらの治療は、生存率は同等であるが、苦痛や困難の度合いという観点では大きな差があるとSmith氏は説明する。

「患者と話をする際は、腫瘍摘出+全乳房照射、乳房全摘+再建、乳房全摘のみ(再建なし)の治療法があると説明します。しかし、われわれは各治療法のプラス面とマイナス面の微妙な差異については理解していないのです」とSmith氏は説明した。

「これまで、各治療を選択した場合の合併症の差異を理解するデータはほとんどなく、費用の差異においてはさらに少ないデータしかありませんでした。治療を決断する患者と治療費負担者の双方のためにも、合併症プロファイルと費用を定量化する試みが重要でした」

また、米国では再建が広まって受けやすくなり、この10年間で乳房全摘+再建の割合が上昇していることからも、各治療の差異を理解することは極めて重要になっているとSmith氏は述べる。

後向きの集団ベース研究のため、研究者らは2000~2011年の早期乳がん患者のデータを収集した。これらの患者は全員、診断前1年間と診断後2年間に保険が適用された。MarketScan調査データベース(全米の雇用保険請求データベース)より65歳以下の患者が合計44,344人、SEER-Medicareデータベースより66歳以上の患者が合計60,867人、特定された。局所治療による合併症は、創合併症、局所感染、漿液腫または血腫、脂肪壊死、乳房痛、肺臓炎、肋骨骨折、インプラント除去、移植組織の脱落のいずれかの2年以内の診断または処置コードと定めた。

MarketScanコホートでは、いずれかの合併症リスクは、腫瘍摘出+全乳房照射で30%、腫瘍摘出+小線源で45%、乳房全摘のみで25%、乳房全摘+再建で54%であった。SEER-Medicareコホートでは、腫瘍摘出+全乳房照射で38%、腫瘍摘出+小線源で51%、乳房全摘のみが37%、乳房全摘+再建で66%、腫瘍摘出のみで31%であった。いずれの年齢群でも、乳房全摘+再建の合併症リスクが腫瘍摘出+全乳房照射の2倍近くに及んだ。

乳房全摘+再建での合併症関連費用は、腫瘍摘出+全乳房照射と比較し、民間保険の若年女性で約9,000ドル高く、Medicareの高齢女性で約2,000ドル高かった。一方、ほかの治療選択肢での合併症関連費用は、両コホート共に腫瘍摘出+全乳房照射と同等であった。

若年患者群では、乳房全摘+再建が約88,000ドルと最も高額(診断から2年間の全費用)であり、これは腫瘍摘出+全乳房照射よりも22,000ドル高かった。高齢者群では、腫瘍摘出+小線源が約38,000ドルと最も高額で、乳房全摘+再建は36,000ドル、腫瘍摘出+全乳房照射は34,000ドルであった。

Smith氏は、本研究の費用データは2010 ~ 2011年のみであることに留意すべきだと述べる。乳房全摘+再建を選択した患者の保険会社がこの治療の合併症に対して2年間で支払った平均額が約10,000ドルであることに、同氏は驚きを感じている。

本研究結果は、患者が治療を選択する際、患者自身、医師、治療費負担者にとっての各治療法のトレードオフを理解するのに役立つとSmith氏は述べる。

「われわれが初めて示したことは、患者が多くの手術を受けている一方で、今後起こり得る相当なリスクも負っているということです。もし腫瘍摘出+放射線治療を受けることができるならば、それは、乳房全摘、再建、他の可能性のある手術を受けるよりも穏便な治療になるかもしれません」とSmith氏は説明した。

この種のデータを理解することは、医療業界や保険会社にとって、早期乳がん治療への投資から最大限の価値を得る方法を考えるのに必要不可欠である。乳がん治療への包括払いを検討し始めている保険会社にとってはガイダンスになるとSmith氏は考える。

今回の研究結果にかかわらず、早期乳がん患者の中には乳房全摘+再建が最適な選択肢である人がいること、また、今回の研究結果が、医学的に必要とされる乳房全摘+再建に対する払い戻しや保険適用の減額に用いられるべきではないことをSmith氏は強調する。

Smith氏以外の共著者は以下のとおりである:Thomas A. Buchholz, M.D., Executive Vice President and Physician-In –Chief; Sharon H Giordano, M.D., professor and chair, Jinhai Huo, M.D., Ph.D., Jing Jiang, Tina Shih, Ph.D., professor, all of Health Services Research; Kelly K. Hunt, M.D., professor and Chair, and Abigail S. Caudle, M.D., assistant professor, both of Breast Surgical Oncology; and Simona F. Shaitelman, M.D., assistant professor, Radiation Oncology. Reshma Jagsi, M.D., DPhil, Adeyiza O. Momoh M.D., both from The University of Michigan and Shervin M. Shirvani, M.D., from Banner MD Anderson Cancer Center are also authors on the study.

本研究は、Department of Health Services、Varian Medical Systems、Duncan Family Foundationより助成を受けた。Smith医師には申告すべき利益相反はない。

翻訳担当者 白石里香

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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